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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

ニューヨークのワイン醸造所が取り組む、気候変動に適応したワイン造り

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Scarlett Buckley
Maksym Kaharlytskyi

温暖化が進むこの世界では、あらゆる農業がその影響を受けており、もちろんワインも例外ではない。ニューヨークにあるゴッサムワイナリーは、ブドウとワイン業界を強化するために、社会的、そして環境的側面から「多様性」と「適応性」をキーワードに事業を行っている。(翻訳=井上美羽)

良いワインを造るということは、ブドウを収穫し、それを潰してブドウ酒にするだけではない。最終的に製品として消費者に届けるまでに、その品質に影響を与えるさまざまな要素を組み込んだ繊細なプロセスがある。周囲の気候、多様なブドウ品種、収穫の方法、土壌や起伏に富んだ地表、適度な勾配などすべての要素が、ワインのテロワールを形作り、ワインをつくる上で重要な役割を果たしているのだ。

気候変動は世界中のブドウ畑を脅かしている。あらゆる植物や生態系は、気候変動の影響をもろに受ける。それはワイングラスを満たすために収穫、発酵されるブドウも例外ではない。世界の気温や季節が変化するに応じて、ブドウ栽培に適した地域も変化していく。スペイン、イタリア、オーストラリアなどでの植え付け時期はすでに限られているが、さらに温暖な気候になっていくと、ブドウがますます早く熟し、最終的にアルコール含有量や、酸味、ワインの色に影響を与えるより高い糖濃度を生み出してしまう。

Dan Meyers

「私たちは、誰もが好むブドウの品種であるヴィティス・ヴィニフェラ種(スペイン、フランス、ヨーロッパで栽培されているメルロ、カベルネ、ソーヴィニヨン・ブランなどが代表的なワイン)が環境に非常に敏感な品種であることを知っています。そして、こうした知識や理解は、今後ワインを生産する上で大きな武器となります」と、ゴッサムワイナリーの創設者カウ・エイモス氏は米サステナブル・ブランドに語った。「それらを生産し、さらに質の高いものを作るためには、適切な温度を保つ必要があるのです。そうでなければ、良いワインを生産することはできないでしょう」。

昼はエクイティファイナンス(資金調達)の専門家であり、夜はワイン醸造家であるエイモス氏は、2004年にニューヨーク州唯一のアフリカ系米国人が所有するワイナリーであるゴッサムを設立した。もともとは西アフリカの遺産が名の由来となるオーソンワインセラーという名でワインを販売していた。彼は業界を繁栄させるためには、社会と環境の両方の観点から世界で起こっている変化に適応し、発展していくことが不可欠であると理解している。

特定の地域に自生するブドウの品種はいずれも、最適な成長をするための限られた気候条件があり、気候や気温が変化することで、作物の品質と栽培に直接影響を与える。気温が2度上昇すると、ブドウの栽培に適したワイン産地が 56%縮小する可能性がある。したがって、作物が気候変動に耐えるためには、変化に適応できる品種を特定する必要があり、エイモス氏はヴィニフェラ種のブドウと比較すると、ニューヨーク原産のブドウが変化に適応できるのだと話す。

「気候変動に耐えられるブドウを特定することで、ブドウをもっと持続可能な方法で組み合わせて栽培することができます。それらは害虫に耐え、間作物をうまく利用しながら、周囲に適応するためのより強い力を持っています」と、説明する。「したがって、これらのブドウの混合種は、ヴィニフェラの美味しさを維持しながらも、在来のブドウの丈夫さと生存能力を持っているのです」。

ワイン産業の存続には遺伝的多様性と先進的な思考が必要

ワイン産業を存続させていくためには、遺伝的多様性と先進的思考が欠かせない。温暖化だけでなく、干ばつや洪水などの不安定な天候の変化も産業を脅かす要因となる。これらの自然災害が頻繁に発生する場合、ワイナリーはブドウを栽培する地域を再考する必要がある。ただ標高の高い地域、気温が低い地域に移動すれば良い、という単純なものではない。それは一時的な解決策に過ぎないからだ。

「標高のより高い地域にブドウの生産地が移動すると、気候変動は変動性が大きいため、長期的にみるとより有害になるでしょう」とエイモス氏は主張する。「それを聞いてあなたは『それはブドウを育てるのには寒すぎたからだ、自分であればできる』と思うかもしれません。しかし結局、洪水などの自然災害が起こり、全ての作物が全滅してから、『一体何が問題だったのだろう』と不思議に思うことでしょう」。

つまり、気候変動から逃れるのではなく、ブドウ品種を変更して、変動する気候条件の中で健康に育つようにする必要がある。さらに、環境への影響を最小限に抑えることに重点を置いて、気候変動を可能な限り緩和するよう業界全体で努力しなければならない。ブドウの混合種は有効な解決策となるかもしれない。しかし、ブドウの生育と長期的な生存ができる環境を保護することが依然として喫緊の課題だ。

先手を打ちたいゴッサムは、より強い混合種を掛け合わせて作っているだけではなく、ケウカ湖近くの72エーカーの農場の中にあるフィンガーレイクスの施設を、100%ソーラーパネルで稼働させている。ゴッサムはまた、持続可能で先駆的な農業を実践していることで知られている家族経営のワイン農家、ハントカントリーとパートナー提携を結んでいる。

人種間の和解と、人間と土の和解をテーマにしたワイン

環境の持続可能性はゴッサムの企業理念の一つであり、持続可能性の社会的側面はその哲学の中核にある。

「ワインの新しいブランドラベルとしてユニテシリーズを作りました。そのテーマは『和解――人種間の和解と、人間と土の和解』でした。ユニテはその比喩なのです」と、エイモス氏は言った。「ゴッサムやオーソンを通じて、私たちはニューヨークのワイナリーに多様性と、この業界で働いている人々の権利の向上について考えるきっかけを与えることができていると思います」。

エイモス氏は、マイノリティーが所有するまだブランドになっていないワイン農家とも提携してインパクトを広げていくという。例えば、新作のアートシリーズではアフリカ系アメリカ人アーティストにスポットを当て、ゴッサムのワインラベルに彼らのデザインを採用する。小規模な経営者を支援することは、より公平な社会を推し進める上で非常に重要であり、彼は自身のプラットフォームとワインへの愛を通してこうした活動を行なっているのだ。他にも、ヨガとワインを楽しむイベントやサイクリングとワインを楽しむイベントを主催しており、彼と彼の造るワインが起業家たちをサポートするのに役立てるようなさまざまな方法を常に考えているという。

ワイン産業が進化し、ブドウが品種改良されていく中、消費者は進化する世界が何を意味しているのかを理解する必要がある。「結局のところ、消費者は今後も変化していくワインを柔軟に受け入れ、そのワインの変化が担う社会的役割や裏側の背景までを意識していかなければいけません」と、エイモス氏は説明した。

「ワイナリーが環境の変化に適応していくように、人々は快適なゾーンから抜け出すために、新しい経験を積極的に受け入れていく必要がある。ソーヴィニヨン・ブランではなく、ヴィダルを飲んでみるように、もし誰かが新しいブドウで何かを造ろうとしていたら、それを手にとって試してみてほしい。影響力のある消費者の声をあなたは持っている。そして、自分たちのためだけでなく、地球のために何か取り組んでいるワイナリーを探してみてほしい」