古着市場、2026年までに8兆円を超える予測 2030年にはファストファッションの約2倍に
Anna Gorbacheva
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古着のオンラインECサイトを運営する米企業「スレッドアップ(thredUP)」が出した2021年のレポートによると、古着市場は今後5年間で倍増し、770億ドル(約8兆4550億円)にまで拡大するだろうと予測している。さらにファストファッションの生産と廃棄を終わらせるために、米政府にはこうした取り組みを加速させるようなインセンティブのある政策を出すことが期待されている。
婦人服や子ども服、靴やアクセサリーなどを中心に、古着をオンラインで販売しているスレッドアップは、2021年に出したレポートで、アメリカの古着市場の包括的な調査結果を発表した。3500人の消費者を対象とした第9回年次調査では、古着市場は現在の360億ドル(約3兆9500億円)から今後5年間で倍増し、770億ドル(約8兆4550億円)に達すると予測している。(翻訳=井上美羽)
グリーンは再販、ブルーは倹約や寄付の割合を示す
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今年の調査では、パンデミックが収束に向かう流れの中で、消費者の中古販売に対するポジティブな意識変化といった新たな動向も見られ、循環型のファッションの実現を後押しする政策が政府に求められている。
さらに、スレッドアップは新世代の消費者の「リサイクルへのシフト」をミッションとして掲げてきたこともあり、今回のレポートでは環境インパクト(環境影響に対する評価)の項目を追加した。これにより、何百万着もの衣服の寿命を延ばすことが、ファッション業界における環境コストと財政コストをオフセットするのに役立っていることを数字で明らかにしたのだ。
レポートによると、スレッドアップはこれまでの中古販売事業により、4億5000キロの二酸化炭素排出量を削減し、新品の服を買う場合と比較して39億ドル(約4280億円)の節約に貢献しているということがわかった。
スレッドアップの共同創設者兼CEOのジェームズ・インラインハート氏は、「私たちは小売業の抜本的な変革の初期段階にいます。消費者は持続可能性を優先し、小売業者は中古販売の必要性を少しずつ認識し始め、政府は循環型経済に乗り出しています」と話す。
産業は、製品を生み出す「動脈産業」と、その廃棄物を回収する「静脈産業」の二つに分けられるが、これまで脚光を浴びることの少なかった静脈産業がこれから求められる循環型社会において重要な鍵を握る。
「静脈産業は技術革新が消費者、企業、政府の動きと重なった時に変革する力を持っています。電気自動車や太陽エネルギーはその良い例ですが、次は、ファッション業界で循環型の仕組みがより広がってくるでしょう。今年のレポートは、中古販売の可能性に光を当て、業界全体でさらなるコラボレーションと次なるアクションのきっかけを作り出したいと考えています」
注目すべき調査結果
古着販売はコロナ禍で成長し、収束後もさらに加速することが見込まれる。
2020年、初めて古着を購入した消費者は3300万人。今後5年間で中古品の購入を増やしていきたいと考えている消費者はそのうちの76%にのぼる。
中古販売は、アパレル業界の新たな市場チャンネルだ。小売業界の幹部を対象にしたアンケート調査によると、62%の幹部が「消費者はすでに中古販売市場に参入している」と述べており、42%が「中古販売は今後5年間でビジネスの根幹を占めてくる」と回答。さらに3人に1人が「中古販売が小売業界において当たり前になりつつある」と感じているという。
一方、消費者を対象にした調査結果によると、「古着屋などで古くなったブランド服を買いたい」と答えた人が43%。さらに、「店頭で新品と同じようにブランドものの古着が売られていたら、古着を買いたい」と答えた人は34%だった。
消費者の「リサイクルへの移行」の動きとともに、古着の購入が、ファストファッションや新品の衣服の購入に代わって台頭しつつあり、有害な生産を避けるための選択肢の一つにもなってくる。
中古市場は2030年までにファストファッションよりも2倍以上大きくなると予想されており、倹約家の5人に2人が新品ではなく古着を購入したいという。
これまで新商品を購入していた倹約家は、この1年間で平均して7着の古着を購入した。これは5億4200万着以上の新商品が古着に置き換わったことになる。
過去10年間で、66億5000万着の衣服が中古市場を通じて再び循環され商品として再販売された。消費者は中古品を購入することで3900億ドルを節約し、新品ではなく中古品を購入することで526億キロもの二酸化炭素が削減された。
コロナウイルス感染拡大以降、消費者の価値観は変化し、中古の需要がさらに高まった。
ロックダウンにより、消費者は家に籠もらざるを得ない状況が続き、この期間は結果的に、人々が何に対してお金を払うかどうかを考える機会となった。
3人に1人は、パンデミック前よりもサステナブルなファッションの選択に関心を持っているという。その背景としては「お金を浪費したくない」と答えた人が60%、「環境汚染への懸念」が51%だった。また、2人に1人が商品の購入時により価値を求めるようになったという。
変化し続ける消費傾向 Z世代が循環型消費を後押し
Alexander Farnsworth
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調査を実施した英グローバルデータ(GlobalData)のマネージング・ディレクター、ニール・サンダース氏は「パンデミックが明ければ、古着の需要はこれまで以上に高まっていくでしょう。人々は、ロックダウン中に家のクローゼットを一掃し、不要になった衣類を持続可能な方法で廃棄し、古着を購入するという方法に移行しています」と言う。
「小売業界はこの変化を認識しているからこそ、続々と中古販売に事業を展開させているのです。こうしたトレンドにより、中古販売はアパレル市場の中で最も拡大する市場といっても過言ではないでしょう」
これらの調査結果は、グローブスキャンによる「健康で持続可能な生活調査2020」で明らかになった消費傾向に基づいてまとめられた。耐久性の優れた中古品の需要が高まってきていることは明らかで、ブランド品がリサイクル市場に繰り出していくことで、消費者のリサイクルへの移行はさらに加速するだろう。
グローブ・スキャンCEOのクリス・コールター氏は「ブランドはより手頃な価格で提供する必要があります。価格は、持続可能な社会を創造していく上で大きな障壁となります。また、それをより『クールなもの』として売り出していくことも大切です。(中略)しかし、最も興味深いのは、Z世代と呼ばれる若者は『消費』を少し違った視点で捉えていることです。彼らは『循環型/サーキュラー』というキーワードを重視しながら、強い意志を持って商品を選んでいるのです」
Z世代のこうした消費に対する意識は、小売業界の中古販売と回収システムという循環型消費を後押しする。持続可能なアパレル企業の先駆者ともいえるパタゴニアは、「このジャケットを買わないで(Don’t buy this jacket )」というキャッチコピーを掲げ、本当にこの商品を必要としているかを顧客に訴えかけるというユニークな販売戦略を長い間続けてきた。そして同社は2013年に修理、返品、中古販売プラットフォームである「ウェア・ウェア(Wear Wear)」を立ち上げた。
近年では、リーバイス、ザ・ノース・フェイス、アークテリクス、REI、アイリーン・フィッシャー、COSなどのアメリカの企業や、バーバー、マッドジーンズ、ヒウトデニム、ヌーディジーンズといったイギリス・ヨーロッパからも多くの企業が、独自の修理と中古販売のスキームを構築している。そして最近、レント・ザ・ランウェイが本格的にスレッド・アップに参画したことで、これまで伸び悩んでいた高級な中古品への問い合わせが増えた。
消費者や小売業界、古着販売を後押しする政策を求める
助成金や報酬制度などのサポートがあれば、中古販売に挑戦するハードルは下がると回答した小売業経営幹部は58%にのぼった。
政府が「サステナブル・ファッション」を推進していくべきだと答えた消費者は44%。消費税をなくしたり、税額控除を受けたりすることができるならば、古着を購入すると答えた人は47%だという。
政策においてアメリカはイギリスの例を参考にすると良いだろう。2019年、環境監査委員会は、ファッションブランド企業が生み出す廃棄物に対して責任を取るように英国政府に要請した。その中でも特に注目したい提案は、より良い衣類の収集とリサイクルのために1ポンドを上乗せして支払う拡大生産者責任(EPR:Extended Producer Responsibility)料金制度だ。この制度では、メーカーや小売も含むバリューチェーン全体でどの企業がリサイクルコストに貢献しているかを可視化できる。パンデミックの間にこのEPR戦略の計画は一度頓挫してしまったが、協議はまた進み始めている。