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持続可能な農業は「土」から 米コットン農園で広がる土壌の健全化 

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U.S. Cotton Trust Protocol
Mailson Pignata

米国の綿花生産者は、持続可能な農業は「土」から始めなければならないことを知っている。今後、数十年にわたって持続可能な生産を行うには、環境に配慮した栽培方法だけでなく、土壌の健全性に関する信頼できるデータを入手することが必要だ。(翻訳=島恵美)

米国の綿花生産者にとって、自分たちの土地は生活の場でもある。生産者は、作物が良く育つためだけでなく、子や孫の代まで農場を守るために、土壌保全にたゆまぬ努力を続けている。過去35年間、良心的な生産者たちは、より持続可能な新しい方法を取り入れることで、土壌の炭素量を増やし、土壌の損失を37%削減し、生物多様性を高めてきた。

これまで何十年もの間、綿花生産者は特定の生産方法に依存してきた。しかし、その潜在的な影響に対する理解が深まり、過去35年間で環境保護のために新しい生産方法が採用された。

綿花農場の約3分の1が不耕起栽培

かつて生産者は、土地を耕し、掘り返し、表土を崩して種をまくための畝(うね)をつくり、植え付けの準備をした。しかし旧来の方法では、土壌は荒れたまま放置され、地中に閉じ込められていた二酸化炭素が空気中に放出される。その一方で雨水に流されたり、風に吹き飛ばされたりして、表土が失われてしまう。そこで不耕起栽培や耕す範囲を最小限にとどめる栽培方法など、地面をできるだけ、そのままにしておく「保全耕うん」を採用するようになった。調査によると、保全耕うんを行うことで侵食が減り、大気中の炭素の吸収量が年間1エーカーあたり400ポンドも増加することがわかっている。現在、米国の綿花農場の約3分の1が不耕起栽培を行っている。

畑の炭素吸収量を2倍にするために、生産者は保全耕うんを行い、作物を作らない期間は土壌侵食を防止する効果がある、ライ麦、豆類、根菜などの「カバークロップ」を使用する。カバークロップは、1年を通して、畑を守るのに役立つ。日陰を作ることで、カバークロップは土壌からの蒸発を抑え、灌漑(かんがい)と浸食の両方を減らすことができる。これらの植物は、生物多様性を高めることで土地を保護する。ラディッシュなどのカバークロップの根は、硬くなった土に根を張り、ミミズに日陰と餌を与える。これにより土がほぐれ自然な形で空気が入ることで、水の吸収を良くし、土壌の流出を大幅に減少させる。米国ではカバークロップの使用率が年率で約8%増加している。

カバークロップと同様に、生産者は持続可能性を向上させるために精密農業技術を導入することも増えている。GPS受信機やマルチスペクトル画像、地上センサーなどの利用を広げ、土壌の特性の変化を把握している。この綿密なマッピング技術は、特定の分野における具体的なニーズを把握するためのツールとして活用されている。例えば、土壌水分計は、地表からの距離に応じて水位を測定し、綿花農家が作物に水を追加する必要があるか、把握することができる。現在、米国の綿花生産者の約3分の2が何らかの精密技術を採用している。

生産者は自分たちの家であり、職場でもある土地を守るために、大きく変わろうとしている。しかし、米国ではこうしたサステナビリティに関する慣行やツールが一般的になっている一方で、包括的なデータがないために、これらの進歩はブランドや小売業者に適切に示されていない。そこで登場したのが、「U.S. Cotton Trust Protocol (U.S.コットン・トラスト・プロトコル、以下トラスト・プロトコル)」だ。

U.S.コットン・トラスト・プロトコル

トラスト・プロトコルは、精緻なデータ収集と独立した第三者機関による検証により、米国綿花の持続可能性の向上を裏付け、検証するものだ。米国の綿花生産者について土壌損失や土壌炭素など、6つのサステナビリティ指標を測定し、農場単位のデータを企業ブランドや小売業者と共有する。これにより、サステナビリティへのコミットメントをより適切に評価できるようにしている。トラスト・プロトコルが、2025年までに米国産綿花の土壌損失を50%削減し、土壌炭素を30%増加させるという国の目標と一致しているのはこのためだ。

この新システムを利用することで、生産者は農場の持続可能性と土壌の健全性を継続的に改善することができる。トラスト・プロトコルは、生産者が自らのオペレーションのベースラインに必要な基準となる情報を提供する。これには、進捗状況を測定するための検証済みの前年比データや、2025年の国家目標に向けた取り組みを支援するための業界全体からの知見やベストプラクティスが含まれる。

トラスト・プロトコルに登録することで、企業ブランドや小売業者は、国際持続可能な農業イニシアティブField to Market(*1)で証明され、Fieldprint Calculator(*2)によって測定、Control Union Certifications(*3)で検証されたサステナビリティ証明書を持つ米国綿花を入手することができる。また、テキスタイルジェネシス(TextileGenesis)社のブロックチェーン技術を用いて、グローバルなサプライチェーン全体において、米国産綿花がどのように移動しているかを記録・検証するシステム(Protocol Credit Management System)を通じて、サプライチェーンの透明性を確保することができる。

(*1) 環境面での成果を継続的に改善するために、農業のバリューチェーン全体で生産的かつ収益性の高い機会を創出することを目指した団体
(*2) ブランド、小売業者、サプライヤー、農家のサステナビリティへの取り組みの各段階で、コモディティ作物の生産が環境に与える影響を測定し、継続的な改善の機会をみつけることを目指し、Field to Marketが開発した評価フレームワーク
(*3) システム、サービス、プロセス、製品の独立した品質と数量の管理と認証を専門とするオランダの多国籍企業

2020年の発足以来、トラスト・プロトコルは、Gap、Gildan、Nextなどのブランドのサプライチェーン、世界中の工場やメーカーなど、350社以上のメンバーを迎えている。これらのメンバーは、米国産綿花のサステナビリティの進捗状況をよりよく理解し、顧客に伝えるために参加している。

米国の綿花生産者は、持続可能性を実現するためには、まず土壌から始めなければならないことを知っている。綿花畑をより良く手入れすることで、土壌の質を維持し、生物多様性を向上させ、大気中の二酸化炭素を回収することができる。進歩は「土」から始まるが、トラスト・プロトコルの取り組みは土壌にとどまらずさらに広がっている。