サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

森林保全の動き広がる:LVMHなど、キャノピーと連携しサプライチェーン上の森林を保全

  • Twitter
  • Facebook
Sustainable Brands
Geran de Klerk

世界の森林の35-60%は衣類やトイレットペーパーなど消費財に使われるために伐採され続けているーー。カナダの森林保全NGO「キャノピー(Canopy)」はこのほど、森林保全のイニシアティブへの参加企業数が大幅に増えていることを発表した。(翻訳=梅原洋陽)

キャノピーは、世界の出版社や印刷会社、ファッションブランドなど750社以上を巻き込み、森林破壊を助長する持続不可能な木材調達から持続可能な調達への転換を後押ししている。世界的ベストセラー「ハリー・ポッター」シリーズの最終章『ハリー・ポッターと死の秘宝』は世界23カ国で環境に配慮した印刷紙で刷られたが、それを主導したのもキャノピーだ。キャノピーは「お客さまは神様」という言葉を参考に、企業経営者を森林保全や持続可能性の「チャンピオン」と捉え、連携して保全活動を行い、具体的な代替案の開発を促進することで、持続不可能な林産物のサプライチェーンを変革する取り組みを行っている。

代替繊維を主流に

世界では毎年32億本以上の木が伐採されている。これは、毎秒95本、毎分5000本以上、毎日800万本以上が失われていることを意味する。その多くは紙製の包装材やビスコース、レーヨンなどの繊維に使われている。

キャノピーは2020年初めに、白書『サバイバル:パルプ・スリラー』を発表した。白書は、パルプ製造のための木材繊維の使用を5割減らし、農業の残余物や廃棄されたコットン繊維などの次世代代替繊維を利用することで、2030年までに世界の森林の3割を保全できる可能性があると伝えている。

キャノピーは企業ブランドと連携し、パッケージに関するイニシアティブ「Pack4Good(パックフォーグッド)」とファッションに関するイニシアティブ「CanopyStyle(キャノピースタイル)」を通して、まだ一般的ではない代替素材を主流素材に押し上げようと取り組んでいる。

6月4日には、高級ブランド最大手、仏LVMHモエ・ヘネシー・ルイヴィトン(以下、LVMH)が両方のイニシアティブへの参加を発表した。同社を象徴する75のブランドに適用されることを伝えている。

LVMHの取り組みには以下が含まれる。

2022年までに、紙、紙製の包装材、生地のサプライチェーンから、林齢が長く、絶滅の危機にさらされている木材由来の繊維をなくす
残された森林や絶滅危惧種の生息地を保護し、さらに先住民族および地域社会の権利や所有権に関しては、自由意志に基づき、事前に形成された、十分な情報を与えた上での合意(FPIC: Free, Prior and Informed Consent)を推進するために、サプライチェーンを動かしていく

LVMHの環境開発グループで責任者を務めるエレーヌ・ヴァラード氏は、「LVMHの環境イニシアティブ『LIFE 360』では、林齢が長く絶滅の危機にある森を、世界の生物多様性と、われわれの気候変動対策の要であると認識し、重視している。CanopyStyleとPack4Goodのパートナーになることは、製品とサプライ・チェーンの両方において最高の環境パフォーマンスを発揮し続けるために不可欠な手段だ」と言う。

LVMHと傘下のブランドは、製品や包装紙、生地に、絶滅の危機にさらされている森林からとれた木質繊維を使用しないだけでなく、洗練されたデザインとイノベーションなどの次世代ソリューションとして循環型代替素材の開発も支援していく。農業における残渣やリサイクル繊維、そして微生物セルロースを活用した紙や包装紙、生地作りを目指す。

キャノピーのエグゼクティブ・ディレクター、ニコル・ライクロフト氏は「地球の約50億年にわたる進化のなかで育まれた、特別な自然という遺産を無駄にすることはできない。LVMHと傘下の人気ブランドがキャノピーと連携し、世界の貴重な森林や環境を保全する活動を事業に取り入れたことを喜ばしく思う」と語っている。

LVMHの決定は、CanopyStyle にすでに参画しているオールバーズやケリング、H&M、リーバイ・ストラウス、ステラ・マッカートニー、ユニクロ、ヴィヴィアン・ウエストウッドなどの約200ブランドが取り組む、代わりのきかない森林生態系を保全する活動を後押しするだろう。そして、持続不可能なサプライ・チェーンの変革と地球上の生命を豊かにするバリューチェーンの発展に大きく貢献するとみられる。

紙の包装材のサプライチェーンを改革

さらにキャノピーは、テイクアウト用の容器や靴箱、そしてその他の包装材に使われている、世界の森林を保全するイニシアティブ「Pack4Good」が、LVMHを含む総売上高785億米ドル(約8兆6700億円)の156ブランドに広がっていると発表した。そして、新たに、靴や食品、飲料、ビューティー・ファッション関連の29ブランドが参画し、パッケージへの使用が問題視されている木質繊維を排除し、農業の残余物からつくられた素材などの次世代ソリューションを探っている。

そのうちの一社、デッカーズ ブランズ傘下のUGGの社長を務めるアンドレア・オドネル氏は「UGGは世界の森林を保全し、将来世代に健全な地球と未来を残す活動をすすめるキャノピーとの連携に期待している。危機に瀕した森林を守るために、森林資源の使用をより持続可能なものにしていく努力を一層強化する」と話す。

キャノピーは2019年10月にイニシアティブ「Pack4Good」を立ち上げた。今では次世代ソリューションを提供する企業やファッションブランド、パーソナルケアブランド、印刷会社や通信システム会社までもが参画している。イニシアティブへの参画に興味を示す業種や企業は増え続けているという。

「Pack4Goodに参加している企業は、われわれが必要とする既成概念にとらわれない発想を持っている。紙の包装材のサプライチェーンを改革し、森林を保全し、温暖化を止めるための解決策を広く実行しようとするリーダーだ。キャノピーは、実行に移せるソリューションをたくさん用意している。そうしたアイデアを周縁からメインストリームへ押し上げていくときが来た」(ライクロフト氏)

Pack4Goodに参画する企業パートナーは2022年の終わりまでに、すべてのパッケージに関する以下のルールを実行する。

林齢が長く、絶滅の危険にある森林から資材を調達しない
資源の利用を減らすデザインにする
リサイクル繊維や代替次世代繊維(農業残余物)などを最大限利用する
原生林の繊維を使い続ける場合は、FSC認証の木材を使用する

Pack4Goodに賛同するファッションブランドや小売業者は、CanopyStyleにも署名している。こうした森林調達の方針によって、林齢の長い、絶滅の危険にさらされている森林が衣服に使われることはなくなる。キャノピーと連携する企業が、ビスコースやレーヨンのサプライチェーンをより持続可能な代替繊維にシフトしていくことが期待される。