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欧米の大手ワイナリーも気候変動対策を強化 国連の「Race to Zero」に参画

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気候変動がワイン産業にもたらす影響は大きい。米国の研究によると、世界の平均気温が産業革命前に比べ2度上がると、既存のワイン生産地の56%でブドウの栽培が難しくなる可能性があるという。こうしたことを背景に、欧米のワイナリーが参加するIWCA(気候変動に取り組む国際ワイナリー協議会)はこのほど、UNFCCC(国連気候変動枠組条約)事務局が行う国際キャンペーン「Race to Zero(ゼロへのレース)」に参画した。(翻訳=梅原洋陽)

同キャンペーンには、世界中の企業や自治体、投資家などが集結し、将来発生しうる脅威を防ぎながらも雇用を創出し、包摂性のある持続可能な発展を可能にする「健全で回復力のあるゼロ・カーボン(温室効果ガスの排出量実質ゼロ)の復興」を目的にしている。キャンペーンは2020年6月5日の「世界環境デー」に立ち上がり、今年11月に開催されるCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)に向けて、脱炭素経済への流れを加速させる狙いがある。各国政府には「パリ協定」の目標達成に向けて行動の強化が求められている。

Race to Zeroの参加者は、遅くても2030年までに排出量を半減し、2050年までにネットゼロを達成するという共通のゴールに向けて取り組みを行なう。現在、同キャンペーンには708都市、2162の企業、571の高等教育機関、127の投資家が参加している。

「ワイン産業が排出する二酸化炭素は多くはないものの、農業関連の事業の中でも地球規模の気候変動による影響を最も受けている業種だ。IWCA(International Wineries for Climate Action)がキャンペーンに参加し、2050年までに、温室効果ガスの排出量より削減量を多くする『クライメート・ポジティブ』を目指そうとする野心的な目標を歓迎する」とCOP26ハイレベル気候チャンピオンのナイジェル・トッピング氏は語る。ハイレベル気候チャンピオンは、UNFCCC事務局長とともにCOP26でイニシアティブを推進する重要な役割を担う。

2030年までに二酸化炭素の排出量を50%削減

IWCAは2019年、スペインの有名ワイナリーであるファミリア・トーレス(Familia Torres)と、米国の大手ワイナリーであり、カリフォルニア州とオレゴン州の沿岸部に最大のブドウ農園を所有するジャクソン・ファミリー・ワインズ(Jackson Family Wines)が設立した団体だ。IWCAは革新的な炭素削減戦略を立て、気候変動に取り組む。IWCAの加盟ワイナリーはすべて、2030年までに二酸化炭素の排出量を50%削減し、2050年までにスコープ1 (ワイナリーからの直接排出)、スコープ2(供給された電力の発電に伴う排出)、スコープ3(その他の間接排出)でクライメート・ポジティブを達成することを目標にしている。

取り組みを支援する一環で、IWCAは最近、メンバーのワイナリーに土壌の健康状態について記した「ソイル・ヘルス・レポート」を提供した。土壌の健康と炭素隔離を促進するために、IWCAに所属するワイナリーが行なった調査や最良事例の詳細を紹介している。

今回の国際キャンペーンに加わることで、IWCAはワインや農業界において、ワイン生産者やブドウ農園所有者がクライメートポジティブを実現する手助けをし、その流れをつくる先駆者になっていくだろう。現在、IWCAには、オーストラリアやチリ、ニュージーランド、ポルトガル、スペイン、米国の10のワイナリーが名を連ねている。今後は「Race to Zero」から求められている、それぞれのワイナリーの温室効果ガス排出量や目標の達成度を報告する年次報告書を発行する予定だ。

自身もワインの生産者である、チリのCOP25ハイレベル気候チャンピオン、ゴンザロ・ムニョス氏は「IWCのような世界的ワイナリーが集まり、農業セクターにおいて最初にRace to Zeroへの参加を決めたことはとても喜ばしいことだ。ネット・ゼロ達成に向けて、より多くの企業が自然を活用した解決策に取り組むことを期待している」と話している。

ジャクソン・ファミリー・ワインズでサステナビリティ部門の責任者を務めるジュリアン・ジェルヴロー氏によると、同社では2008年からカーボン・フットプリントの測定を実施しており、2015年から現在までにスコープ 1―3での温室効果ガスを17.5%削減している。さらに、今後は2030年までに排出量を半減させ、2050年までにカーボンオフセットを購入することなくクライメート・ポジティブの達成を目指す。

「私たちにとって、この挑戦はこれまでにない大きな挑戦だ。ワインボトルを軽量化することから、電気自動車への移行、再生可能エネルギーに大きく投資していくなど、全部門をあげて取り組んでいく。米国のワイン産業のなかでも、敷地内に最大のソーラー発電機を有するジャクソン・ファミリー・ワインズは、12のワイナリーで860万kWhもの再生可能エネルギーを生産している。これは1100世帯の1年間の電力使用量を相殺する規模だ」

ジェルヴロー氏は、ジャクソン・ファミリー・ワインズは2030年、そしてさらに先を見据え、リジェネラティブ(再生可能)農業の実践や、土地のホリスティック・マネジメント、ウォーター・スチュワードシップ(持続可能な水資源の管理)、そしてソーシャル・インパクトに力を入れ、農業の可能性を示すために、大胆でレジリエントな目標を立てようと考えている。IWCAはすでに加盟しているワイナリーのみならず、気候変動を差し迫った危機と捉え、それを緩和しようと取り組むワイン会社であれば加盟することが可能だ。