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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

ステークホルダーとしての「社会」とは スウェーデンに学ぶ

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ELAINE WEIDMAN-GRUNEWALD & HENRIK HENRIKSSON

ステークホルダー資本主義の概念、つまり企業は株主だけではなく、すべてのステークホルダー(利害関係者)のニーズを満たすことに注力すべきという考え方は、近年、大きな注目を集めている。米国の主要企業の経営者約200人をメンバーとする米経済団体『ビジネスラウンドテーブル』は2019年、企業のパーパス(存在意義)を、すべてのステークホルダーの利益を含むものとして再定義した。このことは、企業が最も重視すべき義務は株主にとっての価値の最大化だ、という考え方に長い間執着してきた企業の間にさえ、目覚ましい変化が起きていることを示している。(翻訳=フェリックス清香)

しかし、社会のさまざまな要素が自社の重要なステークホルダーだと言明することは、実際には何を意味するのだろうか。社会を第一のステークホルダーとみなすという考え方は、スウェーデンでは数百年前から根づいている。株主中心主義は、最近になってようやく王座から蹴落とされたばかりだということは、スウェーデンの多くの企業トップにとっては驚きの事実だ。社会を中心に据えるスウェーデン企業のアプローチは、われわれが書いた『サステナビリティ・リーダーシップ:企業、産業、そして世界を変革するスウェーデンのアプローチ』 (原題:“Sustainability Leadership: A Swedish Approach to Transforming Your Company, Your Industry and the World” Palgrave Macmillan社, 2020)で調査している、スウェーデンのいわば「秘伝のタレ」の一部なのだ。

スウェーデン社会と、スウェーデンのビジネスリーダーにとって、インクルーシブな社会と経済は、ともに原則的なものであり、長期にわたる成功と事業の安定性の源である。しかし、世界のすべての人がスウェーデン人というわけではない。その他の人が同じマインドセットを取り入れるためには、どうしたらいいのだろうか。

書籍執筆にあたり、私たちは十数人のスウェーデンのトップCEOやビジネスリーダーたちに、それぞれのサステナビリティ・リーダーシップの経験を理解すべく、インタビューを行った。その対象には、スウェーデンの最大の投資会社インベストール社の会長で、スウェーデンを代表するビジネスファミリーの5代目、ヤーコプ・ヴァレンベリ氏も含まれる。彼が言うには、160年前から同社の投資哲学の基本原則は以下のようなものだった。

「私たちは長期的に責任を持つオーナーである。つまり、私たちは長期的な競争力と、企業の社会全体との関係に注力して、企業を発展させるのである。当然、その『社会全体』には従業員、株主、そして顧客が含まれる。さまざまなステークホルダーとうまく協調するほど、企業の業績は向上するだろう」

社会を中心に据えたリーダーシップモデル

しかし今日、社会をステークホルダーとして認識しているだけでは十分ではない。私たちが著書で提唱しているのは、サステナビリティ・リーダーシップが、もはや社会のなかでの自社のブランドイメージを考えるためのものではなく、むしろ自社の社会における影響を理解するためのものであり、自社が社会に与える影響を、プラスのものは強化し、マイナスのものは軽減しようと努めるためのものだという考え方だ。これは、ビジネスリーダーがサステナビリティに移行できるようにと私たちが3ステップで設定した、サステナビリティ・リーダーシップモデルの中核をなすものである。その3ステップとは、以下のようなものである。

ステップ1 (基礎):自社の資源消費量を知り、責任ある事業活動を通して信頼を築くこと。これはまた、自社のパーパスを発見し、文化と価値観に結びつけることでもある。

ステップ2 (コア):本業に持続可能性を埋め込む。これには、製品や事業ポートフォリオの統合だけでなく、より広範な部門間の統合も伴う。その実現方法は、持続可能性を顧客価値の創造に結びつけることであり、最終的には自社の売上高に反映される。

ステップ3 (跳躍):一度、自社の活動における諸問題を処理し、ステップ1、2を完了したら、自社は企業変革をし、世界を変える準備ができている。自社のリーダーシップと影響力あるプラットフォームは重要だが、ステークホルダーである社会の考えも重要だ。この重要性は「社会的なレンズ」と「地球的なレンズ」を通して物事を見、型破りなパートナーシップを模索するときに浮かび上がってくる。

企業が社会をステークホルダーとして取り入れる方法には、さまざまなものがあるが、肝となるのは、企業活動が人と地球に与える影響をよく理解することである。 国連の持続可能な開発目標(SDGs)は、影響と、影響の背後にある科学を理解するための指針となるフレームワークだ。これが社会を企業のステークホルダーとする際に真に重要な部分であり、その目的は可能な限りプラスの影響を最大化し、マイナスの影響を最小化することである。

社会のエコシステムの一部としてのビジネス

ステップ3として企業が跳躍し、一歩高みに移行するために必要不可欠なことは、ビジネスが社会的エコシステムの一部だと理解することである。ここで私たちが定義するエコシステムとは、地球のレンズと社会のレンズを適用し、内部の他の関係者と連動して新しいバリューチェーンやソリューションを見つけながら、人や地球にもたらす事業活動の影響とその背後にある科学を理解するといったものである。

社会のレンズは、企業が従来行ってきた、ステークホルダーの関心を把握して意思決定を行う一連の取り組みの範囲を越えて、さらに先にいる人々やコミュニティ、社会への自社の影響を見るための一つの方法である。それは国連の「ビジネスと人権に関する指導原則(UN Guiding Principles on Business and Human Rights)」からくる人権尊重の発想とつながる。つまり、企業は個々の人の権利を尊重する義務を負う。

一方、地球のレンズは、企業の環境と地球に対する影響を理解する方法の一つである。それは、事業が天然資源に与える影響を理解することである。天然資源がなければ、ビジネスを含めて世界は生き残ることができなかった。ここでいう資源とは、十分な水、エネルギー、土地、つまり鉱物や他の資源、きれいな空気と海、安定した気候と生物多様性を含むものである。

企業は何もない真空に存在しているわけではない。ビジネスリーダーはますます自社の役割を、実際には自社の将来のサバイバルを、地球のレンズ、社会のレンズを通して検討する必要が出てくるだろう。過去60年近く、企業の発展の多くの部分が天然資源の開発によって成し遂げられているという事実からも、それは明らかだ。ストックホルム・レジリエンス・センターによる「プラネタリー・バウンダリー」は、地球が安定し、回復力を保てる安全域や限界値を、「気候変動」「海洋酸性化」「土地利用の変化」などの9つの地球システムの軸で示しているが、それによると、私たちは多くのティッピングポイント(臨界点)に近づきつつある。

つまり、もし企業が社会をステークホルダーとして言明するならば、企業はその責任を行動に反映しなければならず、事業を今までとは違う形で行うために、新しいパートナー、ソリューション、エコシステムを模索する準備が必要だということなのだ。

スカニア社における、ステークホルダーとしての社会

スウェーデンの商用車大手のスカニアでは、サステナブルな輸送への転換を推進する取り組みの一環として、地球と社会の両方のレンズを適用し、移動手段の世界における今後の見通しを、より広い視点で考えることになった。それは、スカニアが、自社の属する産業を超え、自動車メーカーとしてではなく、移動手段のエコシステムの一部として自社の役割を今までよりも広く認識することを意味していた。

地球と社会のレンズという考え方は、スカニアのステークホルダーに対する見方に影響を与え、同社はステークホルダーを、従来の競合、サプライヤー、顧客を越えて、顧客の顧客、政策立案者、学術研究機関まで含めて考えるようになった。スカニアは、サステナブルな輸送に「シフト(転換)をドライブ(推進)する」という、自社のパーパスを達成するために、再生可能燃料の生産、電気自動車の充電、電力供給基盤設備など、モビリティに関して重要な役割を担う他のプレーヤーたちと協力しなければならなかった。また、それはさまざまな経路からの社会や地球への影響を理解するために、科学を深く理解することも意味していた。

その社会的な観点をとることは、2つの重要なことにつながった。

パスウェイズ・スタディ :調査によって、化石燃料によらない商業輸送を2050年までに達成することは、パリ協定の枠組みの中で可能であるだけでなく、エコシステムの中で考えると、経済的にも魅力があることがわかった。

パスウェイズ連合 :化石燃料によらない輸送システムへの移行に向けた取り組みを目的とする、パートナーシップが生まれた。そこにはスカニアに加え、世界第2位の小売業H&Mグループ、電力会社のエーオン・ノルディック(E.ON Nordic)、電力システムプロバイダーのシーメンス(シーメンス・イーモビリティ)とICTのトップ企業のエリクソンが含まれる。

スカニアにとって社会的エコシステムというアプローチは、特に、社会と地球に関する同社の影響を文脈化するために、世界の新しい見方を与えてくれるものだった。

社会を焦点に持ち込むことは、リップサービス以上のものを要求する

文化と価値観に深く根ざしているという理由によって、スウェーデンの企業は特に自社の社会における影響を考えることに慣れているようだ。しかし、世界のすべての人がスウェーデン人だというわけではない。その他の人が同じマインドセットを取り入れるためには、どうしたらいいのだろうか。

答えは、レンズを調整して、社会と地球に焦点を合わせるということだろう。その結果、得られた新しい視点で、企業は自社のビジネスモデルに疑問を投げかけ、価値提案を再考し、自社のビジョンを現実化するために必要なパートナーを集め、同時に自社のステークホルダーとの信頼を築くことができるのだ。

社会に深く根付くため、このアプローチはブランド構築やステークホルダーのブランド認知よりも有効だ。社会と地球のレンズはより広い世界観と、新しい方法で社会と相互作用する企業の能力を、明るく照らしてくれる。そしてそれは、企業が「社会はわが社のステークホルダーです」という言葉を、リップサービス以上のものとして行動に反映するときにのみ、得られるものなのだ。

これまでのところ、熱い注目を集めたビジネスラウンドテーブルの変化は、行動計画ではなく、向上心ある声明にとどまっている。実際のシステム変化を生み出すには、サステナビリティ・リーダーシップが、事業価値と同時に社会的価値を生み出そうとする必要がある。結局のところ、事業と社会両方の目標を達成することは、事業と社会がレジリエンス(回復力)を維持するために重要で、唯一の価値創造なのである。