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コロナ禍の旅行業界で、気候非常事態宣言が広がる

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JOANNA HAUGEN

厳しい状況に置かれている旅行業界で、気候非常事態宣言の波が広がっている。2016年12月、オーストラリア・ダレビン市議会は気候非常事態宣言を発表した。メルボルン郊外に位置する同市は、気候危機に対処する行動が必要だと認め、宣言を発表した最初の議会だ。それ以来、33カ国、1850以上の地方行政、個人事業、機関、そしてぶどう園から学術機関にいたるまでのコミュニティが気候非常事態宣言を行なっている。さらに、2020年は新型コロナウイルス感染症の拡大によってほとんどの国外旅行が禁止されたにも関わらず、ツーリズム業界の気候危機への連携した取り組みはこの数カ月間に急速に勢いを増している。(翻訳=梅原洋陽)

観光業界の専門家たちは長年、環境保全の話題を避けてきていた。膨大な二酸化炭素の排出量に責任があるにも関わらず、問題に対処する必要があることをその場しのぎのように認めてきただけだった。2007年、そして2010年以来、それぞれカーボン・ニュートラルを達成している米ナチュラルハビタット・アドベンチャーズ(Natural Habitat Adventures)や豪イントレピッド・トラベル(Intrepid Travel)などの企業は、サステナビリティ事業の一環として、環境関連イニシアティブを設立。アドベンチャーツーリズム最大の団体、米アドベンチャー・トラベル・トレード・アソシエーション(Adventure Travel Trade Association)のような機関は、気候変動に取り組む必要性を訴え、加盟者が大きな変化を起こす後押しを行うプログラムを発表している。

ツーリズム業界の気候非常事態宣言

2020年に入るまで気候変動問題に対する結束力がなかった業界だったが、業界全体が問題を認識し、ツーリズム業界の気候非常事態宣言「Tourism Declares a Climate Emergency」(以下、ツーリズム宣言)の下、初めて一丸となって気候変動問題の解決に取り組むために集結している。

「確かな答えが何一つない中、われわれの産業はオープンで正直な対話を促進し始める必要があると感じていました」と、ツーリズム宣言の共同創始者であり、英マッチ・ベター・アドベンチャーズ(Much Better Adventures)のCEOでもあるアレックス・ナラコット氏は米サステナブル・ブランドに語る。

「最初の重要なステップは、われわれがオープンに気候危機を認識できる、安全な環境をつくり出すことです。そしてそれを取り巻く科学を受け入れ、一つの社会としてどこまでの対応が必要かを把握し、計画を立て、低炭素排出産業に移行するためにパートナーや競争相手と共に歩むのです」

ツーリズム宣言は、公式に気候非常事態宣言を行った旅行機関、企業、専門家によるコミュニティだ。コミュニティの参加者は、共同で解決策を追求し、互いに活動を支援しあい、観光業と気候変動の間に存在する難しい課題について話し合いを正常化する。2020年1月に14団体の署名で始まったツーリズム宣言は現在、旅行業者や貿易協会、DMC、宿泊施設、メディア、旅行代理店、地域航空会社を含む143の加盟者がいる。10月には、ビジット・スコットランド(Visit Scotland)が気候非常事態宣言を行った最初の観光地となった。

署名団体は気候変動対策を発展させ、公約と進行状況を公にし、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の二酸化炭素排出量削減の提案を受け入れ、実行できるようにする。そして、最も効果的な実践を共有することで連携し、サプライヤーやパートナーが宣言を行うよう後押しし、業界全体で変化を起こすことに賛同している。

「私たちが期待しているのは、『到達する必要のある目標を達成するためにはいくつもの方法がある』と業界に提言することです。そして、各々が違う方向に進むのではなく、連携して共通の方法をより早く発見するのです。そのためには、まず共有された目標や期限に同意するところからです」と、サステナブル・ツーリズムを取材するライターでコンサルタント、ツーリズム宣言の共同設立者のジェレミー・スミス氏は話す。

新型コロナウイルスが観光業に与えた壊滅的な影響を考えると、観光業にとって気候非常事態宣言を行う理想的なタイミングは今ではないようにも思える。しかし、このパンデミックは飛行機の飛ばない世界のポジティブな影響を明確に浮き彫りにし、多くのコミュニティが国際観光業に依存していたことを露わにし、観光業全体に今後どのように運営して行くか深く考える時間を与えた。

ツーリズム宣言に署名した団体の間では、このような対話が多く行われている。すべての署名団体は、無料でオンラインコミュニティに参加し、繋がることができるよう招待される。このコミュニティは、競合相手とも多面的で難解な問題に対して共に取り組む価値を見出すことのできる場所だ。

「私たちには気候危機に対する共通の目標があり、それらはすべて団体が連携し協働することによって達成できるものです」とナラコット氏は言い、個々に活動をすることは逆効果だと強調する。「自分たちだけでは、結局同じことを繰り返してしまいます。そして、連携して同じ課題に取り組み、互いに挑戦しあい、疑問をぶつけ合い、アイデアを共有し、互いに鼓舞しあうことで得られる大きな利益を逃してしまうのです」。

旅行者を巻き込んだ気候変動対策が必要に

業界の担い手たちは共に気候危機に取り組み始めている。同時に、それぞれの運営部分を超えた影響を生み出せる大きな可能性があることも明白になってきている。

観光業の行動は、気候変動対策に対する意識を生み出し、旅行者や地方自治体にも積極的な関与、行動の変化を促すことができる。この波及効果をみれば、ツーリズム宣言のような集まりが業界になぜ必要かは明らかだ。人々が再び自由に旅行を始めるにあたって、なおのこと必要になる。

「懸念しているのは、観光業、特に短期賃貸分野において、旅行者が楽しみを通して知り、学び、世界の素晴らしさを体験するお手伝いをするという目標と、われわれには一つの地球しかなく、それを壊しているという事実との間に断絶があることだ」と、気候危機を宣言したイタリアのマルケ州にある宿泊施設Casal dei Fichiのオーナーのボブ・ガーナー氏は言う。

ガーナー氏は、自身のビジネスの中に気候変動対策を取り入れる必要性だけでなく、ゲストと気候危機について有意義なコミュニケーションをとる、巧みな方法を見つける必要性についても次のように言及した。

「私たちには、ゲストに地球環境のサステナビリティについて新たな視点を持たせてから帰路につかせる必要があります。そうすれば、私たちは本当の意味で毎年、何百人もの人々に変化をもたらすことになるのです」