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これからの経営に求められる「リジェネラティブ・デザイン」

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GARY MICIUNAS
IMAGE: CUNINGHAM GROUP

SDGsが掲げる2030年目標を達成するために、経営者は「持続可能性」を超えて「再生/リジェネレーション」という考え方を持つ必要がある。建築環境に携わる部署が果たす役割も大きい。企業は「ネット・ポジティブ・インパクト」「ネット・ゼロ・エネルギー」「ゼロ・ウェイスト」を目指して挑戦しなければならない。(翻訳=梅原洋陽)

以前、2030年までにSDGsの目標を達成するためには、リーダーシップとマネジメントの両方において新たなレベルのイノベーションが求められていることを書いた。最高サステナビリティ責任者(CSO)や最高執行責任者(COO)、最高財務責任者(CFO)は今後、建築環境を管理する不動産・設備に関する部門に大々的な協力を求めるべきだ。そして、2030年までに目標を達成するには「リジェネラティブ・デザイン(再生型デザイン)」の考え方を共有する必要がある。ここではキーワードを紹介する。

ネット・ポジティブ・インパクト

「ネット・ポジティブ・インパクト」とはどういう意味だろうか。建築環境というのは害を減らすだけでなく、われわれが依存する生態系サービスに実際に恵みをもたらし、より良い影響を与えることができる。生態系サービスについては、タマンナ・カラム(Tamanna Kalam)氏がウェブサイト『ScienceABC』でこのように定義している。

「生態系サービスは、自然が私たちにもたらしてくれているすべてのプロセスと結果を指す。供給サービス(食糧、水)、調整サービス(汚染水処理、汚染の制御)、補助サービス(雨・風除け)、文化的サービス(レクリエーション、観光業)といったものが含まれる」

建築環境は、さまざまな形で生態系サービスに影響を及ぼしうる。例えば、建物の建造に用いられる木材は、森林破壊に加担し、生態系サービスを供給する森林の力を減らしていないだろうか。建築材料は産業協議会の基準に則り、責任を持って調達を行っているだろうか。あるいは、新しい木材の利用を最小限にし、代わりに再生木材を用いているだろうか。もっと具体的に言えば、CO2の排出総量を減らすために、構造用鉄骨フレームの代わりにクロス・ラミネーティッド・ティンバー(CLT)のような人工木材を用いることはできるだろうか。

これらの疑問を解消するには、自然資本を考慮しない線形のライフサイクルコストモデルではなく、循環型バリューサイクルの観点からトレードオフを分析する必要がある。代替の解決策は、人類のウェルビーイングや地球の健全さを支える生態系サービスにマイナスの影響もプラスの影響も与えることができる。

ネットゼロ・エネルギー

ネットゼロ・エネルギーとは、建物などの稼働のために年間消費するエネルギー量が、再生可能な資源(風や太陽光)を用いて生産したエネルギー量と釣り合うことを意味する。ネットゼロ・エネルギーはあくまで運用上の指標であり、生態系サービスへのネットポジティブ・インパクトを達成する時のように内包されるCO2については考慮していない。ネットゼロ・エネルギーは主に、建物の運用やエネルギー供給源からの温室効果ガスの排出を減らすことに重きを置いている。建物の運用だけで世界のCO2の排出量のうち28%を占めているため、建築環境セクターにおける温室効果ガス排出量の削減は、既存の建物を運用する上でも重点的効率化の取り組みであるべきだ。またネットゼロ・エネルギーは、徐々に建築においても新しい基準となりつつある。

ネットゼロ・カーボン

残念なことに「ネットゼロ」という言葉には混乱を招きやすい一面がある。ネットポジティブ・エネルギーは良い意味の用語で、建物がエネルギー供給源に対して、消費する量よりも多くのエネルギーを還元していることを表す。一方、ネットポジティブ・カーボンは悪い意味の用語だ。これは建物の温室効果ガスの排出量がゼロよりも多いことを指す。ネットネガティブ・カーボンこそがリジェネラティブ・デザインの究極の目標だ。これが達成できれば、建物は排出する量よりも多くの二酸化炭素を吸収または隔離できる。

ゼロ・ウェイスト

命ある生態系に廃棄物のようなものは存在しない。自然界では、生物からの排出物は他の生物の食料になるからだ。生態系のような手法はリジェネラティブ・デザインの基盤である。こうした手法では全てのエネルギー供給源を修復、刷新、復興させることを目的としており、使用される材料の循環は自然界のシステムをまねた方法である。こうした生物模倣型のアプローチは、自然と再生可能になるのだ。「サステナブル」な解決策が化石燃料の効率的な利用によって得られるエネルギーに依存しそうな中、「リジェネラティブ」な解決策は再生可能な資源を基にもたらされる。

「サステナブル」な解決策は原材料として天然資源の継続的搾取に依存することもある。一方、リジェネラティブな解決策は資源をより長期にわたって使い、廃棄物が副産物ではなく、次の段階の資源になることで、最後には再びその価値が回復する。

リジェネラティブ・デザインは、持続可能性に関する考え方を循環性思考へ、つまり直線的なサプライチェーンモデルから循環型のバリューサイクルモデルへと移行するものだ。ライフサイクルコストに基づく投資収益率分析から、クローズド・ループの中で素材が価値を維持し続けるバリューサイクルへとシフトする。建築環境を循環型に移行することは、建築時のエネルギーをネットゼロにし、建築に用いる材料の廃棄物ゼロ、そして後の解体のしやすさを考慮するということだ。