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欧州で進む人権デューデリジェンス義務化 世界はどう追随するか:国連ビジネスと人権フォーラム②

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リチャード・ハウイット IIRC(国際統合報告評議会)前CEO

欧州の動きを受け、企業の人権デューデリジェンスを法制化する動きは避けられないものとなっている。11月に行われた「国連ビジネスと人権フォーラム」でも新たな動きがあった。(翻訳=サステナブル ・ブランド ジャパン編集局)

最も脆弱な人は自社のサプライチェーンに:国連ビジネスと人権フォーラム①

実務に携わっていない読者に説明すると、デューデリジェンスとは、企業がサプライチェーン上で生み出している環境や人権に与える影響を監視・管理する義務のことだ。この概念自体は「ビジネスと人権に関する国連指導原則」の一部として、企業に広く支持されている。

フォーラムでは、法制化の実施を後押しする大きな進展があったと同時に、新たな法律がどのようなものになるかについていくつか重要な議論が行われた。

以下が、10の重要なポイントだ。

最初の大きな進展は、欧州委員会のディディエ・レンデルス氏が、欧州が人権デューデリジェンスの法制化を実施することを明確に約束したことだ。国民の意見を募るパブリック・ コンサルテーションが行われている最中だったかもしれないが、同氏が示した新法を提出する意思は疑う余地のないものだった。

「世界は新しいビジネスモデルを求めている。それは、より持続可能で、平等で、公正で、回復力のあるものだ」(レンデルス氏)

次に重要なポイントは、国内のスタンダードよりグローバルスタンダードに関心が高い人にとってだが、世界が欧州のイニシアティブを歓迎しているということだ。開会式では、国連グローバルコンパクトに加盟する1万1000社の新たな事務局長サンダ・オジャンボ氏や、グローバル・ビジネス・アライアンス、PRI、欧州のamforiなどのさまざまな団体のトップがこれを支持している。

通信大手エリクソンの法律顧問テオ・ジャエケル氏は、「公平な競争条件を生み出し、基準に調和し、法的確実性を提供するために、この法律を支持するという方向でビジネス界の意見が一致しようとしている」と説明する。そして、フランスの「Devoir de vigilance(注意義務)」法、そしてオランダやスイスなどの同様のイニシアティブについて、ジャエケル氏は「各国のイニシアティブよりも、EUレベルで行う方が企業にとっても良い」と付け加えた。BMOグローバル・アセット・マネジメントのローザ・ヴァン・デン・ビーム副社長も「人権デューデリジェンスの義務化は、投資家が求めているレベルの透明性を提供するだろう。企業が取り組まない限り、投資家は人権リスクを評価することはできない」と主張した。

3つ目は、新たな法律が単に将来のグローバルスタンダードと整合性がとれているというだけではなく、それ以上の意味があるということだ。国際運輸労連の法務部長、 ルワン・スバシンゲ氏は「われわれはグローバルガバナンスを必要としているが、EUが先行することは素晴らしいことだ」と話す。新法を担当する欧州議会のララ・ウォルターズ欧州議会議員は、「人権デューデリジェンスの義務化は欧州のビジネスにおいて利益となるだろう。先発者は優位だ」と語る。

4つ目に、企業責任は法律をつくる上で繊細な問題だが、全体の中では明確なものということだ。「制裁のない法律は、法律とは言えない」――。European Coalition for Corporate Justice(ECCJ)代表のクラウディア・サラー氏は、欧主委員会委員の発言を引用した。シフト・プロジェクトのフランシス・ウエスト氏は「指導原則は、企業の説明責任の一形態として法的責任の関連性を明確に示唆しており、よりよい行動と成果を推進してきた」と話した。

5つ目は、複雑なサプライチェーンにおいて企業の責任があまりに拡大しすぎていると懸念している人たちに対するものだ。その最良の答えは、国連の指導原則自体が提供している。サラー氏によると、原則17には、人権の侵害を「引き起こす」ことと「助長する」ことの違いが書かれており、ビジネス上の関係の緊密さに基づき、異なるレベルの企業責任を適用する選択肢が示されている。

6つ目は、講演者の多くが、企業が人権デューデリジェンスを実施して報告する内容について透明性を確保することで、企業が単に自社の名声を守るだけでなく、よりよい成果を実際に生み出せるように、公共政策上のインセンティブを設けることを主張したことだ。「国連ビジネスと人権に関するワーキンググループ」は欧州委員会に書簡を送り、財政支援や貿易特恵、輸出信用などさまざまなインセンティブを提案したことを発表した。

7つ目は、大企業だけに留まらず範囲を広げることに対して支持があったことだ。スバシンゲ氏は、ILO(国際労働機関)の「仕事の未来に向けた ILO創設100周年記念宣言」に沿って、非公式(インフォーマル)部門を含む「すべての労働者」を対象にするべきだと語った。ウォルターズ氏は、救済措置へのアクセスが法制化において不可欠なものだと主張した講演者の一人だった。

8つ目は、すでに堅牢なデューデリジェンス制度を備えている企業が示すように、企業の経済的メリットについての議論だ。フォーラムでは、サプライヤーとの長期的関係から生まれる効率性、品質、忠誠心といったメリットが今年初めに発表された欧州の調査でも強調され、OECDの研究でも同様の結果が出ていることが発表された。

9つ目は、国連ワーキンググループのアニタ・ラマサストリー議長自身が強調しているもので、デューデリジェンスのための合理的措置がとられていたとしても、もし何らかの被害が証明された場合は、企業の責任を完全になかったことにする「セーフハーバー」は存在しないということだ。同議長は、腐敗防止法を提案した自身の経験を用いながら、それぞれの事例は、その長所に基づいて裁かれるべきだと語った。

最後に、人権の専門家は、今回のフォーラムでの議論よりも環境デューデリジェンスの課題のいくつかがさらに複雑だということを知って驚くかもしれない。環境法には単一で包括的な体系がないため、新法が多様な基準に基づくものになることは避けられない、とプレゼンテーションで説明された。ドイツの環境庁は、法律は保全されるべき環境財をすべて定義すべきだと提案する研究を発表した。ウォルターズ氏によると、政治的交渉では、法的な確実性を提示するために、同様の人権への影響を法律で定めるべきだという議論もあったという。

しかし、今回のフォーラムでも多く議論されていたように、労働組合を含むステークホルダーと連携し、ローカルレベルで苦情メカニズムを適用し、働く環境を理解できるようにするなどし、企業に裁量を委ねるべきという主張が大半を占めた。

デューデリジェンスは、自社のビジネス上の関係性の質に関わる。最終的には、関わるすべての人たちが満足することにつながる。来年のフォーラムでは、欧州が提案する立法論的検討が十分に進んでいるだろう。問題は、他の地域がいかにその動きを追随するかだ。