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ミシュランの事例に学ぶ、サステナビリティボンドの透明性の重要さ

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NITHIN COCA
Mighty Earth

持続可能なサプライチェーンの構築に取り組む国際NGO「マイティ・アース(Mighty Earth)」は10月に発行したレポートで、タイヤ大手ミシュランが、後に9500万ドル(約100億円)規模のサステナビリティボンド(サステナビリティ債)が発行された「天然で環境に優しいゴムの生産」事業を発表する数カ月前まで、その周辺地域で森林破壊を行なっていたことを批判している。さらに、アジア初と言われるこのサステナビリティボンドを世界の大手金融機関や環境団体などが購入していることを受け、透明性を高める必要性について指摘する。(翻訳=梅原洋陽)

世界最大の天然ゴム消費企業の一社、ミシュランは2015年5月、インドネシアで「天然で環境に優しいゴム」を生産する合同事業を発表した。この旗艦事業は、農園で使用する日用品やプラスチックの原料を生産するバリト・パシフィック・グループと共同で着手したものだ。マイティ・アースによると、2社は2014年12月に同事業に合意したという。無秩序な森林伐採によって荒廃した「伐採権のある3カ所の土地(総面積8万8000ヘクタール)を再生」し、半分はゴムの木を植林し、もう半分を「自然環境の再生と現地で消費される作物の栽培」のために活用するとして高く評価された。2018年、このプロジェクトに対し、アジア初の9500万ドル(約100億円)規模のサステナビリティボンドが発行され、インドネシアの気候変動対策を支える一つの手法として世界中の投資家に紹介された。

しかし、マイティ・アースはレポートで、バリト・パシフィック・グループとロイヤル・レスタリ・ウタマ(インドネシア拠点の統合天然ゴム企業で、ミシュランの合併事業の提携先)が先住民族や絶滅危惧種の住処である森林地帯を伐採していたと断言する。ゴム農園のために土地を整地し、その半分を復元するための事業として、公的な承認と投資を求めていたというのだ。

特に懸念されるのは、このサステナビリティボンドはBNPパリバやADMキャピタルを含む世界規模の金融機関の支援を受けていることだ。他にもノルウェー国際気候・森林イニシアティブ、地球環境ファシリティ(GEF)、米国際開発庁(USAID)などもこのサステナビリティボンドを購入している。これは、ミシュランも会員に名を連ねる、公平、公正で環境にやさしい天然ゴムのバリューチェーンを確立することを目指す「持続可能な天然ゴムのためのグローバルプラットフォーム(GPSNR)」の2018年の立ち上げから1年あまりで起きた出来事だ。

マイティ・アースのキャンペーンディレクターを務めるアレックス・ワイジェラトナ氏は、米サステナブル・ブランドの取材に対してこう話している。

「世界のゴムサプライチェーンでは、多くの森林破壊と天然資源の劣化が発生している。われわれは声を上げ、情報を広めることで、このセクターを改善しようとしている」

ミシュランはメールでこの疑惑に異議を唱えたが、調査には協力する姿勢を示している。そして、「マイティ・アースの主張の裏にある真実が明らかにされることを望んでいる。…ミシュランは、調査委員会の提示するどんな推奨事項でも実行する」と見解を述べる。

マイティ・アースのレポートは、関係書類やメディア報道、現地インタビューや衛星データなどを精査し、ミシュランが合同事業を発表する直前の2012年6月中旬から2015年1月中旬までの間に、プロジェクトの周辺地域や近隣の野生動物保護地域において産業森林破壊を行っていたことを示す証拠を上げている。

天然ゴム産業は、タイヤや医療器具、消費財など、いずれも世界的に伸びる需要とともに、今後も発展していくことが期待されている。ゴムの木は、世界で最も重要な生物多様性を有する熱帯地域に生息していて、注意していなければ、あまりに重大な環境破壊につながりかねない。他のプロジェクトの模範となるはずのグリーン事業ですら森林伐採に関わっているともなれば問題だ。

東南アジアにおける他の森林破壊の事例と照らし合わせると、約2590ヘクタールという数字は比較的小さいほうだ。しかしこのプロジェクトは、そもそも、この地域における持続可能なサプライチェーンのモデルとなるべくして始動したものである。

2018年当時、このプロジェクトに対する周囲の関心は今とは明らかに違った。パートナーシップ・フォー・フォレスト(Partnerships for Forests)は、「先進的な持続可能な天然ゴムプランテーション」と評していたし、国連環境計画(UNEP)は「『持続可能な開発のための2030アジェンダ』を支援するために民間資金を導入する新たな方法を実証している」とコメントしていた。

明らかに、何かが間違った方向に進んだ。ワイジェラトナ氏によると、その答えは、エシカル・サプライチェーンにおいてしばしば問題になる「透明性の欠如」だという。

「われわれが調査を行った時、デューデリジェンス関連の書類を見つけることができなかった。これは危険信号だと思った」と彼は言う。そして、マイティ・アースが見つけたのは、地元メディアの報道と、この地域社会が抱いていた同プロジェクトに対する懸念だった。ミシュランや資金提供者はその懸念を無視したか、あるいは気づいていなかったのか。他にも怪しい点はあった。

「環境・社会デューデリジェンス評価報告書に機密保持契約を見つけた時は本当に驚いた。彼らは透明性の確保にもっと誠実に対応するべきだ」とワイジェラトナ氏は主張する。「この活動が準備を経て創設されるまでの重要な期間である2013年-2015年に、誰がデューデリジェンス査定に関与したのかも不明だ」

このプロジェクトを推進している組織(土地利用セクターのビジネスに変化をもたらすための助成金や技術支援を行うNGO「Partnerships for Forests」やサステナビリティ・ボンド設立に携わった「Tropical Landscapes Finance Facility」)に連絡を試みたが、失敗に終わった。

UNEPは、マイティ・アースの調査結果は「事実無根」であり、透明性に関する問題を全て否定するとしたロイヤル・レスタリ・ウタマの回答をなぞっただけだ。

マイティ・アースはいまだに金融機関からの回答を待っている。金融機関がグリーン資金の投資に対して、より責任ある力強い役割を果たすことを願っている。

ワイジェラトナ氏は、「私たちは銀行や資金提供者に一時休止をもちかけ、『独立した調査を行い、全ての書類を公開し、われわれが何を知るべきだったのかを判断しよう』と言う必要がある」と主張する。

もし今回の疑惑が真実だと証明されれば、今回のプロジェクトを立ち上げた企業の評判も「グリーンさ」への信用度も損なわれる可能性が高い。このプロジェクト、そして今後のプロジェクトへの資金提供者は注意して成り行きを見守るべきだろう。

資金提供者は、適切なデューデリジェンスを重視し、プロジェクトのすべての段階において透明性を確保すべきである。さもなければ、森林破壊と人権侵害の危険性が高まるだろう。

資金提供を行う企業や団体が行動を起こさなければ、今回のような事例によって、信頼が鍵となる、グリーンボンドや持続可能な金融セクター全体の信頼を損なう可能性もある。

「グリーンボンド市場は近年、急拡大している」とワイジェラトナ氏は言う。「こうしたプロジェクトが正確で、信頼でき、一貫しているかどうか、情報を見極めることが本当に重要だ」。

マイティ・アースは、今回のレポートをこのタイミングで発表したのは、パーム油や木材産業など他の産業で起きたように、問題が大きくなりすぎる前に対処できるようにするためだとしている。

天然ゴムに関して言えば、こうした構造的問題に対処できる機会はまだある。「持続可能な天然ゴムのためのグローバルプラットフォーム(GPSNR)」があるということは、サステナビリティを推進するプラットフォームが存在するということだ。そして重要なのは、マイティ・アースもミシュランもGPSNRのメンバーで、今回の役者を全員集められるということだ。しかしこの組織は設立されてからわずか1年半しか経っておらず、いまだに苦情や抗議処理のシステムすら確立されていないのが現状だ。

ミシュランや資金提供者、そしてGPSNRが今回のレポートにどのように回答するかを注視することが重要だ。今回の問題は、「グリーン」や「持続可能」と宣伝されているからといって、必ずしもそうであるとは限らないということを改めて認識されるものだ。The devil is in the details――悪魔は細部に潜んでいるのだ。