消費文化をどう持続可能にするか 世界のブランドが力を入れる「カルチャー・チェンジ」とは
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米サステナブル・ブランドは9月、持続可能な消費行動やライフスタイルといった、人々が暮らしの中で築いてきた「文化」の変革を企業ブランドがどう促進できるかを議論するバーチャルカンファレンス「Brands for Good(以下、BfG)」を開催した。専門家やクリエイター、経営者などが集結し、変化を加速させるための最新の動向や「社会文化トレンド」調査の結果のほか、2020年以降の時代に求められるリーダーシップのあり方についても意見が交わされた。(翻訳=梅原洋陽)
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イベントは、BfGが米調査会社ハリス・ポールと行った「社会文化トレンド・トラッカー調査」の結果に関する議論から始まった。同調査では、消費者がより持続可能な行動をとるようになったことについての分析と、前例のない新型コロナウイルスに関する影響やその他の世界的なストレス要因がはびこる、この特異な時代におけるブランドの信頼度スコアを調べたものだ。
クリエイティビティを生み出すために必要な3つのこと
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考え抜かれたブランド・メッセージについて率直に意見が交わされる中、P&Gが展開する偏見や人種差別に関する一連の力強い広告「The Look」「Circumstances」「The Choice」から得られる、3つの教訓について登壇者らは語った。
1. ブランドのポジションを見定める
クリエイティブ・エイジェンシー、カートライト(Cartwright)の社長兼CCOのキース・カートライト氏は、「社会的な問題に関するキャンペーンを行いたい」とブランドから声をかけられることがよくあるという。その際、彼はまず企業ブランドに深く考えることを求める。「最初に、あなたの会社がどのようにその社会問題に取り組んでいるかを分析したか、という質問を投げる。分析をしたら、自分たちがブランドとしてどのような存在なのかを考える。そして、その後にどのようなステートメント(声明)を出すべきなのかを検討する。それから、辿り着きたい場所を明確にしてほしい。そうすれば、そこへ到達するための計画を立てることができる」と語った。
2.安全な空間をつくる
カートライト氏は「クリエイティビティは、あたたかさがあり、安全な場所で発揮される」と語り、若者や有色人種の人たちが快適に働ける環境をつくることの重要性を強調した。マーケティング・広告会社グレイ・ニューヨークのチーフ・クリエイティブ・オフィサーを務めるジャスティーン・アーマー氏は、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの間、自宅で仕事をすることになったことが彼女のチームにとってはプラスに働いた部分があった、と言う。特にあらゆるポジション(地位)のメンバーが上層メンバーとより連携して働くこととなったことが大きいようだ。「より基本的な部分での流動的なコラボレーションが実現できるようになった。リモートワークの場合、互いの仕事に対して一定レベルの信頼を持つことが不可欠になるからだ」と説明した。
3. 承認を得る
「獲得された承認」は重要だ。ブランドが、人々に行動の変化を求めるような広告をつくるためには、まず、繊細な社会問題に真摯に取り組んできたという歴史、経緯が必要になる。「まずは労力を費やすことです。その取り組みの内容は業務と一致していなければならない。私たちは何十年もそのことに取り組んできた」とP&Gの最高ブランド責任者であるマーク・プリチャード氏は説明する。カートライト氏は頷き、「マークは長い間このような会話を続けてきたからこそ、このような広告をつくる許可が得られたのだ。『The Look』と『The Talk』をつくったことで、『The Choice』をつくる許可が得られたのだろう」と話した。
新型コロナ危機はマーケティングの役割を変えた
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「今年は、マーケティングとは一体なにか、ということに再びスポットライトが当たった年となった」と、ネスレ・ウォーターズのエグゼクティブ・バイスプレジデント兼CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)であるユミ・クレベンジャー・リー氏は話す。
登壇者らは、新型コロナ危機が自らの仕事に与えた影響を振り返った。パンデミックは、世界中のマーケターが今まで取り組んでいたことをすべて振り出しに戻した。そして、「人々は今、いったい何を求めているのか」というシンプルな質問を考え直す必要に迫られた、と同氏は語った。
「人々が別の広告を必要としていた、ということではない」。人々は衛生に関する情報を求め、子どもたちが学校給食を利用できなくなったために、何かしらの支援を必要としていた。「われわれのマーケティングチームは留まることも可能だった。しかし、私たちは自分たちの力とブランドの資金をフルに活用して、世界に役立とうと決めた。私たちのチームのマーケターの中には、今までの自分のキャリアの中で最も誇りに思える仕事を成し遂げた人もいるだろう」とリー氏は振り返った。
米食品大手ゼネラル・ミルズのチーフ・ブランド・オフィサーであるブラッド・ヒラナガ氏も同様のことを語った。彼は、ロックダウンによって人々の生活により共感ができるようになったと言う。「消費者が何を解決してほしいと考えているのか、より明確に定義することが可能になった」。
ヒラナガ氏によると、2月以降、食品大手は、不特定多数の人に一方的に発信するインタラプションマーケティングではない、より有益なマーケティングを行っているようだ。新しいメッセージやコミュニケーションは、小さな問題(家庭での調理に関するヒントやアドバイス)だけではなく、大きな課題(今まで以上に多くの人々が失業に直面していることによる、格差の増加など)の解決にも役立っている。
「こうした変化の中心にいることはエキサイティングなことでもある。マーケティングという分野は、これまで以上に必要とされている。マーケティングは、消費者、文化、そして目まぐるしく変化する危機的な状況に最も近い存在だ」と同氏は付け加えた。
多くのCMOがパンデミックの中で方向転換をしなければならなかったように、メッセージの伝え方やエンゲージメント戦略を変化させていくこともやりがいのあることだろう。
米農業スタートアップ、インディゴ・アグリカルチャー(Indigo Ag)のCMOであるジェニファー・ベトカ氏は、COVID-19がきっかけで、人々が自宅などのプライベートな環境をビデオ通話で共有することになり、「完璧さの基準が下がった」と考えているようだ。「私たちは完璧さよりも人間味を優先させている。そして、それがステークホルダー間のつながりを加速させている」と話した。
行動科学を活用して文化の変容を加速させる
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午後の分科会の一つでは、より持続可能な行動にシフトしたいという願望が高まっている、という話題が取り上げられた。
サステナビリティに関する戦略や変革を推進するコンサル「Futerra」は、米・英の人々に、気候変動に対処するために、コロナウイルスを押さえ込むのと同じくらいの大きなライフスタイルの変化を起こすべきだと考えるか、というアンケートを実施した。その結果、圧倒的多数が「はい」と答えた、とCEOのルーシー・シェア氏は明かした。
変化を起こそうとする気持ちは存在するものの、これまでの消費者の人口統計学に基づいたコミュニケーションの試みでは、約3分の1の人にしか届いていない、と従業員のエンゲージメント・プラットフォームを展開する「WeSpire」創業者兼CEOのスーザン・ハント・スティーブンス氏は分析している。今までより多くの大企業が、過去に行われてきた罪悪感や説教、または破滅的なテーマを利用する方法には頼らず、持続可能なライフスタイルへのシフトに向けて、従業員や顧客を巻き込む新しい方法を模索している。WeSpireとFuterraのチームは、Brands for Goodが近々発表する「ライフスタイル・トランスフォーメーション・ロードマップ(Lifestyle Transformation Roadmap)」で示されるような、心理的属性によってカスタマイズされたアプローチが必要な時期に来ていると結論付けた。
このロードマップの狙いは、アーキタイプ(元型)に基づき、行動変容に向けた道筋を提案することだ。ブランドは、従業員やステイクホルダーにアンケートに答えてもらい、どのアーキタイプに属するかを調べる。アーキタイプには、リアリスト、フィクサー、ウィナー、エナジャイザー、クリエーター、パイオニアといった分類がある。アンケートの回答者はその後、それぞれのコミュニティに参加し、より持続可能な行動に向けた課題に取り組んでいく。取り組む課題自体は一緒だが、それぞれのアーキタイプに訴えかける提示方法は異なる。Brands for Goodのパートナーブランドは、それぞれの社内でLifestyle Transformation Roadmapのテスト運用を開始しており、2021年に一般向けにリリースされる予定だ。
J&Jが取り組もうとしていること
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消費財・医薬品大手のジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は、今後10年間で8億ドルを投じて製品をよりサステナブルなものにし、人々の健康と地球の健全性を向上させることを発表した。最優先事項は、同社のすべての消費者向けヘルス関連ブランドの成分を完全に透明化することだ。
このコミットメントには包装材も含まれる。2025年までに、同社は全ブランドで100%リサイクル可能もしくは再利用可能、堆肥化可能なプラスチック、認証済みの再生紙と再生パルプベースの包装材を使用することを目指している。また、喫煙や皮膚がんなどの予防可能ではありながらも複雑な健康問題に取り組むことを重要な課題として挙げる。J&Jは、社内外を問わず、協働して取り組みを進めていくことを公言している。
J&Jのスキンヘルス パッケージングとイノベーションの責任者であるラファル・リモック氏は、野心的な目標を達成するための同社のアプローチについて詳しく解説した。「私たちは製品の有効性、また安全性を犠牲にすることなく、地球の健全性に配慮した方法で製品をつくり、提供することで、人々の健康を向上することに努めている」。同社は、今後も消費者のニーズや嗜好に関するデータを活用しながら、「人々の健康に意味のある違い」をもたらす製品を生み出していくという。しかし、J&Jチームが認めるように、2030年の目標、特に包装材に関する目標を達成するのは簡単ではないだろう。戦略的なパートナーシップが鍵になる。
ボトルの製造を再利用可能な樹脂で100%行うことは、機械的なリサイクルの現状を考えると、かなり難しい。リモック氏によると、現状ではリサイクルされたプラスチックの割合はわずか14−16%に過ぎないようだ。この割合を大幅に増加させるためには、教育やMRF(材料回収施設)の進化、そして包装材だけでなく他の多くのことを変えていくことが不可欠だ。
「この課題にこそ、業界として私たちが団結して関与し、後押しする必要がある。個人のグループとしてではなく、一緒に推し進めていくのだ」とリモック氏は述べた。
危機的状況下でもカルチャー・チェンジを押し進める
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COVID-19、人種的不平等、気候変動といった複数の危機が重なるこの時期に、ブランドは消費者とのコミュニケーション方法をどのように変えているのだろうか。非営利イニシアティブ「One Project」の著者であり、エグゼクティブ・ディレクターでもあるジョナ・サックス氏は、「ブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter)運動」へのブランドの対応の中に変化を見つけた、と言う。
「初めて、ブランドは自分らの話をしようとしなかった。ブランドはこの運動を理解し、立ち上がり、そしてサポートを行った。各ブランドは、この問題が自社のことよりも大きな課題だと捉えた」とサックス氏は語った。
この対応は、ブランドがどのようにして気候変動対策を促進していけるかということと関連する。「ブランドが成功するには、人々の持つ大きな可能性を切り開き、人々がより高い目標を達成するためにどのような支援ができるかを問うことが重要だ。生活者を、自分たちのブランドの消費者として扱ってはいけないのだ」と力を込めた。
気候・エネルギー・環境心理学者であり、Project InsideOutの創設者でもあるレニー・ラーツマン氏は、現在のような状況下では組織は異なる姿を見せる必要がある、と言う。彼女は証拠に基づいた研究から生み出した5つの原則を紹介した。これらは持続可能な行動変容を促進するための最も強力な方法だと言う。ラーツマン氏によると、ブランドがこれらの指導原則を活用することで、やる気があり、エネルギーのある人たちにリーチするための戦略を設計できるようだ。
調和させる: 調和を通し、信頼を構築する。
打ち明ける:思いやりのある真実を伝える。
与える:人々にツールやリソースを提供する。
集める:小さなグループが交流する力を促進する。
持続させる:1つのキャンペーンを超え、継続性と関係性を構築する。
ラーツマン氏もキース・カートライト氏の発言に同意し、安全な場所づくりに投資をすればするほど、信じられない規模の変化を生み出すことができる、と語った。「安全な空間をつくり出すのは、私たちが本当の自分自身であるときだ。傷つきやすく、率直で、自分自身の人間性をきちんと持っているとき。信頼に身を委ね、弱さを受け入れよう」と助言した。
愛をもって導く
コロナ禍で、パーパス主導型のCEOになるために必要なこと
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この半年間で多くの産業を衰退させたパンデミックの影響が残る中、ジェフ・フィエルコフ氏のような前向きな姿勢と熱意を共有しているCEOはほとんどいないかもしれない。しかし、テトラパックの社長兼CEOのフィエルコフ氏は、今回の危機は、持続可能性はビジネスの重要な推進力としても必要だということを明らかにしたと考えている。そして、それは良いことだ、と彼は言う。「新型コロナウイルス感染症は、すべての企業にとって、生活に本当に欠かせない要素に、自社がどう関わっているかを確かめるリトマス試験紙のような役割を果たした」と加えた。
テトラパックにとって、サステナビリティとは、革新的なパッケージで食品を安全に、人々の手に届くようにすること。そして人々に気を配ることでもある、とフィエルコフ氏は言う。「パンデミックによって、食品の安全性と食品の入手可能性が注目されることになった。私にも、大きなひらめきをもたらしてくれた。われわれの会社は私たちが考えていた以上のことができるということだ。大義のもとに結集することができれば、止めることのできない力になる。人々に力を与えることができるのだ」。
バンブルビー・シーフードのヤン・サープCEOも前向きな見解を示した。6月に開催されたサステナブル・ブランドのリーダーシップ・サミットの参加者を対象とした調査では、47%の参加者がCOVID-19の影響でサステナビリティへの取り組みを加速させるだろうと答えている。そしてこの結果の通り、同社は取り組みを止めるのではなく、サステナビリティへの新たな取り組み方法を見つけて行くのみ、との姿勢を示す。社会監査業務の一環として、フィジーの船の乗組員をインタビューするためにFaceTimeを使用し、サプライチェーンのトレーサビリティを強化するためにブロックチェーン技術を採用するなど、同社は 「なすべきことをするため」に新たな技術を見つけ続けるだろう。
それでは、2020年にパーパス主導型ブランドのCEOになるとはどういうことなのだろうか。フィールコフCEOが言うように、2020年向けの戦略は存在しない。「私たちはその場その場で学んでいくしかない。しかし、そんな中でも、コミュニケーションの重要性は変わらない。たとえ何も話すことがなかったとしても、コミュニケーションをとり、コミュニケーションをとり、コミュニケーションをとらなければならない。そうすることで、人々はあなたと一緒に旅をしているように感じられるのだ」と彼は言う。
パンデミックの中で、人々が惹きつけられ、団結するものは企業の中核的な価値観とパーパスだ。「私にとって、それは人々を守ること。安全は、肉体的にも精神的にも譲れないものだ」とフィエルコフ氏は語った。
サープ氏はリーダーシップの秘訣は「傾聴」だと言う。
「私はいつも、CEOになるには特定の性格を持ち合わせていなければならないと思っていたが、私自身は内向的だ。しかし、心を開いて話を聞くことができれば、偉大なリーダーになることは可能。私はそれを『愛をもって導く』と呼んでいる。思いやりを持って、チームの話を聞き、その内容を選択し、それに応じて行動を起こすことだ。これは極意などではない。身に着けられる筋肉であり、スキルだ」と加えた。