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再生型農業が開くサステナブル・ファッションの未来 廃棄食材、発酵がキーワード

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Image:AGRALOOP TRANSFORMS AG WASTE INTO TEXTILES.

世界中で専門家が議論しあうことで、サーキュラーエコノミーのあるべき姿や、どのようにそれを達成するかというアイデアは常に進化している。そして、米バイオミミクリー・インスティチュートは今、その答えを導き出すことで、さらに前進しようとしている。もしファッション業界が自然のエコシステムのように機能するとしたら、どんな形態になるのかを探っているのだ。(翻訳=梅原洋陽)

バイオミミクリー・インスティチュートとラウデス財団(前C&A財団)との共同報告書『ファッションの自然の姿:より再生可能なシステムへの移行を目指して(The Nature of Fashion: Moving Towards a Regenerative System)』は、プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)を守り、地域経済と調和しながら、新たなファッション業界が繁栄していく、先進的かつ現実的な取り組み方を投資家、出資者、イノベーター、ファッションブランドに提案している。

報告書は、自然システムを支えている物質の流れと、偏ったファッション業界の素材の流れを詳細に比較している。そして、ファッション業界が既存のテクノロジーを活用し、自然と調和することで、自然の物質の流れに逆らうのではなく、それをうまく使って、今すぐ変化していく方法について説明している。

今回の報告書は、環境NGOキャノピーが、今年の1月に出したレポートの結果にも合致する。キャノピーの報告書は、世界の森林を保護し、気候危機を回避するための10カ年計画を発表している。繊維や製紙業を抜本的に見直し、パルプ製造からレーヨンやビスコースなどの原料である木材繊維を50%取り除き、農作物の残余物などの新たな代替繊維に置き換えることを目指そうとしている。

バイオミミクリー・インスティチュートの報告書は、素材に関するイノベーションについても取り上げている。Allbirdsは靴のアッパーをメリノウールで、靴底を発酵させて製造している。Werewoolはサンゴ、牡蠣やクラゲなどのタンパク質のDNAを利用し、生物に害を与えずに次世代の生地を作り出している。そして、きのこは生分解性の繊維素材として多くの可能性がありそうだ。MycoWorks、MycoTex、そしてFungi Fashionなど多くの企業が菌から布を作り出している。

ファッション業界で求められる再生型農業

Agraloop BioFibre by Circular Systems from Circular Systems SPC on Vimeo.

報告書は、農作物の余剰物が責任あるファッション業界を構築するための解決策になると強調する。循環・再生型の技術開発に取り組む材料企業、Circular SystemsのAgraloop™ Biorefineryという、農業残渣を糸や紙、繊維製造に必要となる繊維に作りかえる取り組みが紹介されている。同社によると、麻実油、アマニ油、バナナ、パイナップルの皮、ワラ、そしてサトウキビの皮の6種類の作物で2.5億トン以上もの繊維を生産している。これは現在の世界の繊維需要の2.5倍を上回る量だ。また、この方法によって有機肥料も生産し、通常であれば放置されて腐敗するか、燃やされる植物の廃棄物を除去することで、農業関連の温室効果ガスの排出や大気汚染の抑制にもなる。こうした技術や同様の技術をさらに拡大することで、新たな埋立地を開発することなく、既存の廃棄物の流れに対処していくことに大いに役立つだろう。

バイオミミクリー・インスティチュートは、「再生型農業(リジェネラティブ農業:Regenerative Agriculture)を代替素材市場の有力な供給源とするだけではなく、多様な業界にとって利益をもたらし、共生可能で再生可能なエコシステムの連鎖を生み出せる」とも指摘している。報告書は、Fibershedの常任理事であるレベッカ・バージェス氏の言葉を引用している。

「統合された農業システムが、健全な方法でウールや麻、小麦、羊、そして乳製品などを作り出せることは容易に想像できる。しかしそれだけではなく、新たな農地を開墾することなく、米国だけで年間1億1200万トンもの天然繊維を生み出すことができるのだ」

同レポートは当然、堆肥化できない、石油由来の素材からの脱却を主張している。多くの繊維業者やブランドは、無限にリサイクルし続けられるプラスチックがサーキュラーエコノミー実現の最適な方法であると信じてきた。しかし、最も耐久性の高いプラスチックであっても、いつかは生物圏に流れ出てしまう。そして、再利用プラスチックからできた繊維からは、マイクロプラスチック繊維が危険なレベルで大量に世界の水源に流れている。さらには、皮膚に密着することを想定していない有害な化学物質が含まれている危険性もある。

Worn Againのような企業は、以前はリサイクルできないとされていたポリエステルの混じった繊維を分離する技術を開発している。FairbricのAirwearという二酸化炭素をサステナブルなポリエステルに作り替える技術にも期待する気持ちもある。しかし報告書は、いくらリサイクル可能とはいえ、自然に分解されない新たな素材を開発すべきではないとしている。ポリエステルは、石油補助金や長年の研究開発により、価格的なメリットが大きい。経済的な要因から脱却し、研究と開発を続けることで、業界は色付きの綿や麻、イラクサなどの天然繊維をより安く作り出し、価格競争力のあるものにできるだろう。

綿といえば、信じられないほど土地や水を必要とする植物で、再生型ファッションのサプライチェーンにおいては本質的に持続不可能なものだ。しかしGALYのようにコットンを研究室で栽培する企業も出てきており、そこでは従来の綿の20%しか自然資源を使わず、10倍の速さで成長する綿を育てている。

報告書が示す重要なポイントの一つが、自然界に存在する「漏れのある循環ループ」もまたチャンスを提供してくれているということだ。「分解」は避けられないものだが、従来のシステムをデザインする時に分解は考慮されてこなかった。分解をシステム内に組み込むことは、新たなビジネスモデルを生み出すことになり、その過程で既存のゴミを処理していくことができるだろう。

バイオミミクリー・インスティチュートは、主なファッション業界のコラボレーションやサーキュラーエコノミーのコンソーシアムと協働し、レジリエントな(回復力のある)サプライチェーンを作りながら、生態系の回復、地域雇用に貢献する取り組みを始めていく。この実験的な取り組みは、調達から分解までの過程で生物界と適合する繊維に的を絞って行われる。