SUSTAINABLE BRANDS JAPAN のサイトです。ページの先頭です。

SUSTAINABLE BRANDS JAPAN のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

これからの観光業のカギを握るサステナビリティの視点

JOANNA HAUGEN

新型コロナウイルス発生までの数ヶ月間、観光業は急速に成長していた。WTTC(世界旅行ツーリズム協議会)によると、世界全体の経済成長率が2.5%なのに対し、2019年の観光業の成長率は3.5%だった。国連世界観光機関(UNWTO)は2010年、2020年には海外旅行者は14億人に上るだろうと予測した。しかし、予想よりも2年早く2018年にはその数字に達した。(翻訳=梅原洋陽) 

止まった成長、求められる新たな形

この成長は、直接的にも間接的にも多くの恩恵をもたらした。経済的影響は世界のGDP(国内総生産)の10.3%を占め、およそ3億3000万人もの雇用を創出した。しかし、この急激な成長は持続的ではなかった。新型コロナウイルスの発生に伴い、観光業は事実上一夜のうちに崩壊したのだ。WTTCは4月24日、新型コロナウイルスのパンデミックによって1億80万人の失業と、2.7兆米ドルものGDP損失につながるだろうと推定している。

この停滞は観光業がもたらすいくつかの環境課題、社会文化的な問題を浮き彫りにした。その多くは以前から認知されていたものの、観光業が成長していた時には十分な対処が行われていなかった。4月末までの情報に基づくと、航空産業による二酸化炭素の排出量は60%減少した。

人気の観光地では自然環境が改善したところもある。例えば、ヴェネチアではオーバーツーリズムによる水質汚染が何年も問題となっていたが、透明な水が水路を流れるようになったのだ。一方、コンゴ民主共和国のような観光と生物多様性の保全活動を結びついている国は、観光客の減少により保全活動も不十分となり、野生動物が密猟者の乱獲から無防備な状態になってしまっている。

「観光業は正しく行えば、高所得国からさまざまな地域コミュニティに直接お金を流すことができます。複雑な関税なども必要ありません。観光業ほど、地元の知恵や文化、伝統、そして自然環境を重視する産業は少ないです」と話すのは英レスポンシブル・トラベル(Responsible Travel)の創設者ジャスティン・フランシスCEO。同社は、責任ある旅行の推進に取り組む旅行代理店だ。

観光業も過去には、質より量を重視する経済モデルを追求するという失敗を犯している。

「われわれは、観光業による経済的影響が特定の国や地域に集中するマスツーリズムなどによりもたらされる悪影響を目の当たりにしてきました。それによって一部の地域経済は景気づくかもしれませんが、環境や地元の文化に悪影響をもたらすこともあります」と、サステナブルツーリズムに関する情報発信を行う『Travara』の創設者兼CEOのミシェル・マーティン氏は語る。

観光業の「見えない負荷」に関する2019年の報告書には、観光客が観光地へ与える経済的、社会文化的、そして環境的コストについて詳しく書かれている。インフラ構築や維持費にはじまり、生活費の増加、水の消費、その他まだ認知されていない多くの要素が含まれている。

観光を再構築する SDGsが果たす役割とは

パンデミックによって観光業は損失を被ったが、世界規模の休止期間の中で、この産業が地球、人、利益をどのように優先するかを再考するチャンスにもなっている。

人々が仕事に戻ろうと懸命になる中で、「再び自由に旅行ができるようになった時、観光業には何ができるのか、どうあるべきなのか」を、新たに想像する機会ととらえている観光地もある。

オーバーツーリズムの代表格として長らく知られてきたオランダ・アムステルダムでは、より地元に焦点を絞り、適切な訪問者を確実に魅了しようとしている。ヴェネチア市長は、都市をスローペースな暮らしに戻し、かつて旅行者を泊めていた場所を賃貸アパートにして学生を呼び込もうとしている。パリやミラノ、シアトル、ベルリンやその他の都市では、自転車レーンや歩行者に優しい歩道がつくられている。

地域に寄り添い、よりスローに、より深い考えに基づいて観光地を再構築していこうとする潮流は、観光業界のSDGs(持続可能な開発目標)の実践への関心が高まっていること示している。

「観光業は責任を持って行えば、社会的影響力を高めることもできるのです。だからこそ、観光業について考える時にSDGsは重要事項なのです。重要視するものが一致していれば、ホテルやツアー、アクティビティなどの環境業はSDGsのいくつかの目標を同時達成することができます」と、マーティン氏は言う。

SDGsの17目標に基づいた、より考え抜かれ、責任ある観光業を構築する機会というのは決して新しいものではない。ただ、この業界が規模を拡大するための青写真になっていなかっただけだ。観光業は仕事を生み出し、収入を提供し(目標1)、公共・民間のインフラ整備を加速させ(目標9)、沿岸観光は健全な海洋生態系(目標14)に依存している。

SDGsは産業がどのように改善する必要があるか、具体的な指針も示している。例えば、観光のために浄水施設に投資することで、その地域の「水へのアクセスと安全」(目標6)を達成する援助もできる。観光業はエネルギー集約的産業だから、「再生可能エネルギー」(目標7)の発達も加速できるだろう。そして何より観光業は「責任ある消費・生産モデル」(目標12)を採用しなければならない。見えない負担を可視化し、SDGsのレンズに基づいて、観光業がもたらす真の影響を評価する必要がある。

「まずは二酸化炭素を減らし、生物多様性の喪失を阻止し、所得の不平等に対処することから始める必要があります。他のSDGsの達成は、これらに取り組むかどうかにかかっています」と、フランシス氏は言う。

歴史的に見ると、観光業はSGDsを事業運営に組み込み、報告することに積極的ではなかった。その理由の大部分は、サプライチェーンが複雑な点、国や国際的な規制が不足している点にある。

「たいていの規制は地方自治体を通して、市町村、国立公園、文化施設といった特定の場所で行われます。まだまだ十分とは言えず、観光客の数しか考えていなかったり、より広範に及ぼす影響についてほとんど理解されていません」と、フランシス氏は述べた。

観光地が再開し、ビジネスが動き始めると、経済的損失を速く取り戻し、以前のような非持続可能な観光モデルに戻りたいという誘惑に駆られるかもしれない。しかし、観光業に関係する行政機関、サービス事業者、観光地の管理機関などの代表がSDGsに沿った政策の実行においてより積極的なリーダーシップを発揮することが求められる。

「観光業に携わる一人ひとりが、自らがどう事業運営を行っているのか、どのホテルやツアー運営者などが、例えば、どんなプロモーションを行っているのかを考える必要があります。地元のビジネスを支援する小規模で質の高い観光、環境意識の醸成と実行が今後の基準となるべきです」とマーティン氏は説明する。

英Future-Fit財団のジョフ・ケンダル氏とジョアンナ・ロバートソン氏も指摘しているが、安全で、健全なポストコロナの未来のための青写真はSDGsの中にすでに存在する。SDGsは「われわれが目指すべきゴールの共通認識」を示してくれているのだ。観光業にとっては、フットプリントを適切に管理し、地域コミュニティに利益をもたらしながら環境への負荷を最小限に抑えることができる観光地をどう開発するかの指針を提供するものでもある。

「持続可能な観光事業はニッチなものではありません。観光業全体で持続可能になる必要があります。われわれには、コロナ・パンデミックによって一度立ち止まり、どのような変化をもたらすことができるかを考える機会が与えられているのです」(マーティン氏)