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新型コロナで水産業はどう変わる? MSCニコラス・ギュイショー氏に聞く

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新型コロナウイルス感染症の爆発的な拡大は、地球上のあらゆる側面に影響を及ぼしている。何より重要なのは入院する人や死者を減らすことだが、途方もないレベルの経済・社会的インパクトは長期的に続くだろう。特に食料安全保障におよぼす影響は深刻だ。

コロナ危機は水産業界にも必然的に大きな影響を与えている。ロックダウンやレストランの営業停止によって、簡単に保存ができるマグロの缶詰、冷凍の魚といった食料品の需要は高まった。同時に、新しい日常の中で求められる安全対策やソーシャル・ディスタンスをとることは業界のロジスティクスにも課題を突きつける。

この危機的状況の中で、水産物がどこで水揚げされどのような経路で店に並んでいるかを追跡できること、持続可能な漁法で獲られたものであるということは消費者にとって大事だ。持続可能な水産物にのみ認められる海のエコラベル「MSC認証」を付与するMSC(海洋管理協議会)のCPO(チーフ・プログラム・オフィサー)、ニコラス・ギュイショー氏に話を聞いた。

――新型コロナウイルス感染症の爆発的拡大は水産業界を含むすべての業界に多大な影響を及ぼしています。この状況下で、水産業者は持続可能な水産物をどう継続的に提供し続けられるのでしょうか。

ギュイショー氏:まず初めに、影響の大きさはサプライ・チェーンによってかなり異なります。小売業界では、保存期間の長い水産物、例えば冷凍の魚や、ツナの缶詰などの需要が伸びていることを感じています。そのため、そうした商品を販売する企業の売上高は大幅に伸びています。しかし、レストランは営業をできず、レストランや高級な魚を扱う漁師達はかなり大きなダメージを受けています。MSC認証のシーフードのほとんどはレストランやカフェではなくスーパーで販売されるため需要は増えていると言えます。

多くの生産者は商品数を減らし、最も売れ筋の良い商品に特化することでこの状況に対応しています。例えば、オーストラリアの比較的小さな生産者「ウォーカーズ・シーフード」は通常、レストランに水産物を提供していますが、製品をサプライ・チェーンに流すために同社の敷地内で小売店を始めることに決めました。現在、消費者はそこに行けばMSC認証のキハダマグロやメカジキを購入できます。

――現在、直面している最大の課題はなんでしょうか。

ギュイショー氏:私たちと一緒に活動をしているほぼすべての漁師たち、MSC基準のサステナブルな水産業者は400以上いるのですが、何かしら影響を受けています。私たちのチームが行ったどんな支援が必要かを判断するための緊急分析によると、全体の約45%が中から高レベルの影響を受けているようです。

大きく分けて3つの影響があります。

まず、漁を中止したり厳しく制限されたりしています。これにより、外食産業向けの市場にサービスを提供する生産者や生鮮魚介類を扱う小売店が大きな影響を受けています。残念なことに、小さな漁船の漁師が最も打撃を受けていることが多いです。仮に操業の制限がなかったとしても、市場からの需要の減少によるダメージがあります。さらに、小さな漁船ではソーシャル・ディスタンスのルールを遵守することが難しく、乗組員の病気といったことによる影響もあります。

2つ目は、漁獲量が多少なりとも制限されていることです。大型の漁船を使用している漁師は影響が比較的少ないようです。現在、需要が高まっている缶詰や冷凍品を多く扱っているのも彼らです。市場の要求が高まる中、フィジカル・ディスタンシングやロジスティックスの影響を受け十分に対応できていない部分もあります。

3つ目は、工場の生産能力が低下した状態で稼働している場合など複合的な理由で影響が変わります。操業は続けているものの、出勤者を減らしている可能性もあります。労働者の出勤の制限は、短期の季節労働者に依存しているアラスカ産サーモンを販売する企業に大きな影響を与えています。

消費者の変化

――新型コロナウイルス・パンデミックが消費者の行動や選択に与えた影響はどうでしょうか。

ギュイショー氏:レストランで食べるのではなくスーパーで水産物を購入するようになり、消費者は食品がどこで獲れているかをより気にするようになっています。中国では、食の安全だけではなく魚介類の健康も注目されています。

消費者は自身の健康のために食べ物が安全で健康的かを知りたがっています。もし何かが起きた時のために、食料を備蓄したいとも思っています。

しかし、これは消費者だけではありません。政府もまた水揚げされてから食卓に並ぶまでに食品がどのような道筋を通るかに興味を示すようになっています。そしてその産地が将来性があり、持続可能であることを求めています。このことは、サステナブル・シーフードへの関心が今後も継続的に高くなることを示していると言えるでしょう。

――MSCが水産物の持続可能性を促進していることは、業界がこの危機に対処する上でどう役立っているでしょうか。

ギュイショー氏:人々は魚だけに限らず、果物やその他の食品もどこから来たのかを知りたいと思うようになってきています。現在の状況はすでにあったトレンドを後押ししているといえます。かつてないほど、購入する食品が安全で健康的であり、さらに持続可能であることの保証が求められています。

経済が下降することは確実で、これが消費者の購買力にも大きく影響するでしょう。しかしこのようなことは過去にもありました。消費者はこうした価値観が重要だということが分かっています。そのため、MSC認証の商品需要が減るとは思っていません。2008年の経済危機の後、人々のMSCへの関心は高くなりました。これはMSCに限らずその他のサステナビリティ・プログラムでも同じでした。

中国のいくつかの加工業者からMSCに、MSC認証のサプライヤーを探す支援をしてほしいとの連絡がありました。これは中国内で持続可能な冷凍製品や缶詰の需要が高まっているからです。購買力に影響はあるでしょうが、人は大切に感じる価値観を忘れるわけではないと思います。

――ポスト・コロナの世界経済を立て直すにあたり、サステナビリティ(持続可能性)はどれほど重要でしょうか。また、MSCはその中でどのような役割を果たしていくでしょうか。

ギュイショー氏:私たちは、漁業関係者が継続的な需要を満たすために、持続可能な水産物の需要に応えられるよう支援をしてきました。感染が拡大する中で、すべてのMSC認証と審査を6ヶ月間延長することにしました。この猶予期間により、認証を受けている水産業者は安全に操業するために必要な措置を講じられるようになります。

さまざまなセクターの約200社のパートナーから状況を聞き取り、調査を行いました。これは全体像を業界関係者に提供し、私たちの今後の決定の参考にするためです。例えば、ルールに従って事業を行っているかをチェックする監査官を雇うことが困難な企業には、デジタル監査やサーベイランスなどの選択肢に関するガイダンスを提供しました。

MSC認証のロゴを使用する小規模レストランのライセンス料の支払いを今年後半まで延長しました。これによって認証が継続され、通常営業に早く戻る手助けになるでしょう。

こうした判断は感謝されているようです。現実的であることは大事ですが、同時に、MSC認証のついた水産物の持続可能性と追跡可能性の信用性を維持する必要があります。これらの措置により、持続可能な水産業に関わる人たちが新型コロナウイルス・パンデミックによる影響から一刻も早く回復できる助けになることを願っています。

水産物は1300億米ドルを超える世界で最も取り引きされている商品の一つです。多くの国の経済にとって不可欠な収入源であり、世界中で約10人に1人が水産業によって生計を立てています。こうした経済の長期的な未来のために、十分な魚の量が将来的に収穫できなければなりません。そのため、持続可能な漁業は、長期的にさまざまなセクターの経済を再建するために重要になります。マーケットにとっても新たなチャンスとなるでしょう。地球環境に配慮した製品の需要がこれからも持続的に高まることを期待しています。

翻訳=梅原洋陽