欧州で着実に進む脱石炭火力発電の流れ アジアでは需要高まる
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ポーランドの電力会社エネルガ(Energa)とエネア(Enea)は先月、ワルシャワの郊外に新たな巨大石炭火力発電所を建設する共同プロジェクトを取りやめた。最大の理由は、14億ユーロ(約1690億円)の投資を集めることが難航したからだ。2023年末までに準備を完了させる予定だったが、一時的に中断することを余儀なくされたと伝えた。(翻訳=梅原洋陽)
国内電力の80%を石炭火力に頼っているポーランドにとって、これはとても大きなニュースだ。このニュースは石炭業界にとって、石炭はいつ終わってもおかしくないという警告となるだろう。
「欧州では、新しい石炭火力発電所などは言うまでもなく、古い石炭にも未来がないということに、ポーランドのエネルギー・セクターもようやく気がつき始めたのでしょう」とヨーロッパ・ビヨンド・コール(Europe Beyond Coal)のザラ・プリンク氏は語った。同団体は、2030年までに欧州各国が石炭火力発電から撤退するよう推進する市民団体連合だ。
気候変動対策のコンサル「カーボン・トラッカー(Carbon Tracker)」の最新の分析によると、世界の石炭関連企業はEnergaとEneaには続かないだろう。長期限界費用を考慮すると、世界の60%の石炭火力発電所が経済的ではないと分かっているのにも関わらずだ。「コストの減少や、収益性の増加など、大きな状況の変化がない限り、石炭火力発電は今後もリスキーだろう」とプリンク氏は言う。
西ヨーロッパでは、風力、太陽光発電は石炭火力発電の稼働コストを下回っている。実際に、50%以上の石炭火力発電所の原価費用は太陽光発電エネルギー、陸上風力発電所、洋上風力発電所の均等化発電原価を上まっている。地形的に低コストの風力や太陽光の再生エネルギーを利用しづらい日本のような場所でさえ、現在使用している石炭火力発電所を使い続けるメリットは2024年ごろには失われるだろう。
「新たな開発を止め、既存のものを座礁資産にしないためにも、使用停止のスケジュールを考えることが不可欠です」とカーボン・トラッカー(Carbon Tracker)の電力部門長マット・グレイ氏は言う。
電力会社だけでなく、多くの保険ブローカーも同様のことに気がつき始めている。欧州のチューリッヒ、アビバ、アクサ、アリアンツ、米国のブラックロック、チャブは石炭火力発電への関与を制限する方針を発表し、石炭スキームや収益の30%を採鉱や石炭から得ている企業の支援を打ち切ることを発表した。
もちろん、石炭火力発電所がなくなることは地球にとって喜ばしい。汚染が2.9%も増えた2018年、石炭発電が温室効果ガスの排出量が増加した最大の要因だった。現在、石炭火力発電による二酸化炭素の排出量は全体の約3分の1(30%)だ。
石炭を燃焼すると、二酸化硫黄、酸性雨を引き起こす窒素酸化物、PM10 やPM2.5などの微粒子物質を含むフライアッシュ(空気汚染や肺の障害を引き起こす)を排出する。石炭火力発電所から排出される水や土壌を汚染する人為的水銀排出量は全体の40%以上を占めている。
座礁資産となる恐れから、今後、世界的に石炭の需要は減少するだろう。国際エネルギー機関によると、2019年、石炭を使った電力供給は250テラワット以上(2.5%)減少した。米国と欧州での2桁レベルの削減が大きな要因だ。
しかし決して小さくないアジア圏の経済成長によって、次の5年間はあまり変化はないだろう。石炭火力発電の成長は2024年まで1%以下のわずかなものである。しかし2018年の総発電は38%だが、2024年には35%に下がる。それでも、世界の最も主要な発電源であることに変わりはない。
2024年までに5兆ドル(約556億円)まで経済規模を成長させようとしているインドでは、石炭の需要が他のあらゆる国を凌ぐレベルになるだろうと予測されている。これからの5年で、2024年まで毎年4.6%ずつ増えていくと言われている。
東南アジアでも石炭需要が2024年まで毎年5%以上高くなると予測されている。パキスタンは最近、4GW以上を供給できる石炭火力発電所を発注した。中国でも2024年までは石炭火力発電による電力消費は増えていくだろう。
良いニュースは、クリーンエネルギーが広がってきていることだ。石炭火力発電への依存を抜け出すことを約束する規制と政策を掲げるEU加盟国は、環境に負荷を与える石炭燃料から抜け出すよう企業にプレッシャーをかけている。米国では政府や多くの州が石炭事業を助成しているものの、シェール・ガスの成長が石炭の未来を暗くしている。
環境関係のさまざまなキャンペーンが期待するほど速くは取り組みを進められなかった。しかし、投資家は最悪の事態を恐れるようになり、世界経済も何十年と依存してきた石炭火力という電力源から少しずつ離れてきている。地球は安堵のため息をついているだろう。