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NASAの元技術者が考える、不可能を可能にするムーンショット思考

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ジム・アダムス氏は最近まで、米航空宇宙局(NASA)で最高技術責任者代理を務めていた。10月17-18日に開催されるサステナブル・ブランド国際会議 マドリッドの基調講演に登壇する。アダムス氏に、いま人類に必要なムーンショット思考について話を聞いた。ムーンショット思考とは、人類が月面に着陸するというアポロ計画を立ち上げたように、壮大な目標を掲げ、その実現に向けて、既存の価値観を打ち破る、革新的な方法で課題に取り組もうとするもの。

ジム・アダムス氏

自分はグローバル思考の持ち主だと考えている人は多い。しかし航空宇宙産業に35年間、身を置いてきたジム・アダムス氏はそこにとどまらない。

同氏はNASAの惑星科学部門の副部長として、年間15億ドルの予算の責任を抱え、さまざまなミッションに関わり、地球や太陽、多くの太陽系の惑星を探索する30以上の宇宙飛行ミッションに携わり、率いてきた。例えば、火星探査車「マーズ・サイエンス・ラボラトリー」、無人探査機「ドーン」、今年1月に太陽系の最果てにある天体を観測した無人探査機「ニュー・ホライズンズ」、水星探査機「メッセンジャー」。米科学技術会議の戦略的コンピューティング・イニシアティブの委員も務め、国の宇宙空間でのコンピューティング需要はコンピューティング技術とインフラへの政府の投資でまかなえると進言した。

同時に、アダムス氏は才能あるスピーカーでありストーリーテラーでもある。若い科学者や起業家たちがクリエイティブで独創的な考え方ができるよう、インスピレーションを与えてきた。

1969年にアポロ11号が月面着陸し、今年はちょうど50周年。月面着陸は、まさにイノベーションで課題を打ち破ろうとするムーンショット思考の実現と言える。そんなタイミングで、われわれはアダムス氏に人類の豊かな未来を実現するために必要となる考え方について話を聞いた。

――50 年前に、人類が月面着陸するのに重要だったことはなんでしょうか。

アダムス氏:50年前、アポロ11号が月面に着陸し、さらなる探索のために5回のミッションが実施されました。72年以降、月面着陸は行われていません。あの時、人類は自らが夢に描くよりもさらに難しいことを実現できるのだと誰もが実感しました。われわれは、地球の重力や政治などに縛り付けられる必要もない、むしろ目の前の難題に挑み、対応できるということを理解し始めたのです。

――月を探索するロケットの打ち上げが成功したカギについて教えてください。

アダムス氏:人類は、動機があれば、信じられないようなことも達成することができます。NASAやアポロ事業の場合は、3つの重要な要素がありました。

まず、民間そして政府からの継続的な支援です。ジョン・F・ケネディ大統領がアポロ計画に挑戦すると決めてから、月面着陸が達成されるまでに8年かかりました。米国は、10年以内に、月に人類を着陸させ、地球に生還するという目標を達成するとコミットする必要がありました。ジョンソン、ニクソンと大統領は変わりましたが、そのビジョンを絶やすことなく持ち続けなければなりませんでした。連邦議会も同じです。

そして、単一の、明確な目標に、徹底的に集中するのです。NASAは、挫折の中でも、アポロ1号の火災による悲劇のときにも、レーザー光線を当てるかのごとく焦点を当て、集中を保ちました。時として、事業を止め、諦める方がいくぶん容易いと思うこともあったかもしれません。でもリーダーたちは全力を傾け続けました。

3つ目は、全身全霊で取り組むリーダーシップ。チームのメンバーというのは、自らのリーダーが個人的にその目標にコミットしているかどうかを本質的に気づいています。第2代NASA長官を務めたジェイムズ・エドウィン・ウェッブ氏やアポロ13号の飛行主任であるジーン・クランツ氏は、NASAを正しい方向に導き、目標に一心に向かい続けました。もちろん、そのほかにもそういったリーダーはいました。すべての人が果たすべき役割を担っていました。

――個人的に、人類が現在、直面している最大の課題はなにでしょうか。

アダムス氏:自己中心的な考えです。月面着陸のようなできごとというのは、自身のエゴや個人的な目標を隅に置いたチームによって達成されるのです。

いま、われわれ人類は、この地球上の多くの人々に影響を及ぼす本当に深刻な課題に直面しています。でも、すべての人類の利益のために、われわれは自分自身の利益や国家主義的な態度を捨てなければなりません。

――あなたのスピーチは、聴衆の好奇心や創造力を引き込み、若い科学者や起業家にクリエイティブで独創的な考えをもたらすようインスピレーションを与えるものです。どうすればそういう風なことができますか。

アダムス氏:私は、聴衆に20年間で世界はどうなっていればいいか想像してほしいと問いかけます。そして、その目的を達成するために自分に何ができるか考えてもらいます。さらに、一歩ずつ一歩ずつそれを実行するように意欲をかき立てます。

――個人的なムーンショットはなんですか。

アダムス氏:私は、キャリアを火星に定住することに捧げてきました。まずはロボット、次に人類です。われわれが火星に行くとき、そこに永住するために違いありません。そこに至るまでに、人類は地球でいま直面している課題を解決するでしょう。

火星に移住するということは、荒廃する地球から逃れるということではありません。われわれが生み出した問題を解決した先に、それはあるのです。