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フィッシュ2.0:保守的な産業でサステナブル・イノベーションを起こすには

モニカ・ジェーン (Fish2.0 創設者)

水産業界は複雑で、歴史的にも変革のスピードが遅く、サプライチェーン内の技術革新も少ない。「フィッシュ2.0」は、持続可能な水産業を拡大するためにイノベーションを持ちよるグローバルコミュニティだ。7年間かけてフィッシュ2.0を構築した経験は、業界を問わず、サステナブル・イノベーションを起こすためのヒントになるだろう。(翻訳=梅原洋陽)

今日、持続可能な水産業は、興味深いイノベーションが起きている分野だ。海の状態を改善しながら、全世界で約42兆円を生み出す産業でもある。いくつかの変化の例をあげると、水中のセンサー、ロボットやカメラ、そしてビッグ・データを利用した魚のインターネットなどがある。藻類は、緑色の粘着物というイメージを払拭し、栄養価のひときわ高いスーパーフードとなっている。牡蠣の養殖は経済を活性化し、重要な環境資源となっている。さらにトレーサビリティと透明性が高まったことで、水産物のバイヤーたちが待ち望んでいた海から皿にのぼるまでの明確な情報を伝えることに成功している。

2013年、私たちがFish 2.0(フィッシュ2.0)をうち出したときには、こんなことは不可能だった。水産業は複雑で、歴史的にも変革のスピードが遅く、サプライチェーン内の技術革新も少ないため、大きな変化を予想していた者はほとんどいなかっただろう。しかし、私たちはいくつかの障害を取り除けばイノベーションのスピードは上がっていくとも信じていた。投資家も企業も可能性のあるアイデアを打ち出し、必要な資源を産業に投資する知識やネットワークを持っていなかった。

喜ばしいことに、私たちは正しかった。世界規模のネットワーク「フィッシュ2.0」は起業家、投資家、専門家を繋げ、サステナブルな水産業のイノベーションのレベルとスピードを引き上げている。そして、環境や社会に良い影響を与え、投資家が利益を上げられる企業を生み出せる業界であるというイメージを生み出すことにも成功している。7年間をかけてフィッシュ2.0を構築してきた過程から、どのような業界であってもサステナブル・イノベーションを活性化できる5つの重要な教訓を学んできた。

1.望むものが手に入る

Fish 2.0はコネクションをつくり出すことを目的にデザインされている。表面上では、商戦に見えるが、中身はサステナブルなシーフード業界を拡大・成長させるために、必要な人たちを集められるように設計されている。時間や専門知識、そしてコネクションを他の人に提供した人には報酬があり、再度招待されるようになっている。ネットワークに貢献せず、自分の利益だけを受け取っているだけの人は、排除される。その結果として構成されたネットワークは人を引き付ける主な要因だ。Fish2.0を競争的と呼ぶことを昨年からやめることにした。

2.大きな変化には大きなネットワークが必要

企業の成長を加速する「アクセラレーター」やビジネスモデルを構築する「インキュベーター」のプログラムはイノベーションを起こす上で重要。しかし、これが大きな変化を起こせるわけではない。プログラムの性質上、参加者数は少なくなり(多くても10-20社程度になることが多い)、一般的な認知を広めることが難しい。プログラムに応募したが、落選した企業は投資家からフィードバックを受けることはほとんどなく、応募のプロセスに不満を持つようになるかもしれない。また、これらのプログラムの多くは特定の場所で展開されることが多い。内容の濃いトレーニングや助言を受けるには、ある一定の期間移住し、別の場所で過ごす必要が出てくる。

フィッシュ2.0はオンラインで機能し、世界中の忙しい起業家がどこにいても、自分のスケジュールで参加できるように設計された。これにより、40カ国以上の588人の起業家が専門的なフィードバックを投資家、インパクト・アドバイザー、そしてビジネス・リーダーから受けとっている。

投資家が効率的に関われることにも注意を払った。オンラインのポータルサイトは、忙しい投資家が自分の専門知識を匿名でかんたんに率直にシェアできるようにした。今まで388人の投資家や専門家がアドバイザーとして、持続可能な水産業を営む企業家をボランティアとして助けている。シーフードに関連する領域での経験がない投資家にも、積極的に関わってもらうことを呼びかけている。ビジネス的な知識を共有してもらいながら、この領域について学んでもらうためだ。実際にこの領域への投資を行った人達も出ている。

3.月並みではなく成功を目指す

フィッシュ 2.0を設計していたとき、多くの人のアドバイスはとても控えめな結果を目指すものだった。私たちは大規模な変革を引き起こすことを目指していた。そのためにはスケールさせていくことが必要だった。達成が可能なそこそこのゴールではなく、もしかしたら不可能かもしれない大胆な目標を設定したかった。そしてほとんどの観点において、達成するだけでなく、ゴールを大きく上回ることができた。これは多くの人の助けのおかげである。これらの人たちは私たちの大胆なゴールに魅力を感じ、より大きなことを目指すように助言してくれた。

初年度は84のビジネスの中から20の企業が選ばれ、スタフォード大学で行われたグローバル・イノベーション・フォーラムでプレゼンテーションを行った。ほとんどがアメリカを拠点とする企業だった。今年度は、151の応募の中から、オーストラリア、ブラジル、インドネシア、オランダ、ノルウェー、太平洋諸島、フィリピン、ロシア、イギリス、アメリカから40社が選ばれてプレゼンを行う予定だ。

初めは、ほとんどのフィッシュ 2.0の参加企業は創設期であった。しかし今は情報ルートが成熟し、より多くの資金を得ることができるようになった。現在、ほとんどの参加企業はプロトタイプか製品を市場に出している。資金援助を見ればこの発展は明らかだ。投資家は3000億ドルを最初の3つの企業に投資した。そしてそのうちの2000億ドルは2017年に選ばれた企業のみに使われた。11月5日、6日のフォーラムで発表する予定の企業はさらに多くの資金援助を受けることができそうだ。現在700以上の投資家が、私たちのネットワークに参加している。始めたときには実質的に、何もなかったのにもかかわらずだ。

4.知識を広くアクセスしやすいように共有する

水産業界の情報格差を埋めるために、フィッシュ2.0は投資家用に27の情報を要約したものを用意している。藻類の製品のことや水産養殖技術、トレーサビリティやマグロに関してなど幅広いトピックをカバーしている。私たちのパートナーは信じられないほど忙しいので、情報を1枚のシートにまとめることにしている。知的な投資家が自分たちで調べる手助けとなる情報を提供することを目的としている。

さらに、メディアを通してストーリーを語ることで、さまざまな販路や大きなメディアとともに活動してきた。フィッシュ 2.0は直接的、もしくはネットワークの参加者を通して少なくとも365のシーフード・イノベーションやサステナビリティに関する記事や番組を生み出している。

5.アイデアのあるパートナーを見つけ、積極的に連携する

パートナーシップはネットワークを広げ、充実させるために不可欠だ。どのような場面においても、私たちは専門知識を探し、その結果大きな恩恵を得ている。現時点で言えばNOAA(アメリカ海洋大気庁)との連携を始めた。NOAAはアメリカの3カ所でワークショップを水産養殖センターやラボで開催することを支援している。

ノースカロライナ大学ウィルミントン校とは牡蠣の温床に関する技術開発で連携している。米国務省からの長期的支援により、太平洋諸島の水産経済を推し進めるサポートができた。そしてFRDC(オーストラリア漁業研究開発公社)との新たな連携により、同国の革新的な水産業界に入っていくことができている。

そして、目的を共有でき、そこに達成する道のりを柔軟に考えられる投資家を探すことも重要だ。デイヴィッド & ルシール・パッカード財団とゴードン・アンド・ベティ・ムーア財団はフィッシュ2.0の初期段階から、発展していく過程での実験的な取り組みも、失敗にも評価を下すことなく支援してくれている。このおかげで、この記事に書いてあるようなことを学ぶことができ、現在の成功に大きな貢献をしてくれている。

扉は開かれている

現在の水産業界を見てみると、より速い成長も、業界にさらに大きな影響を与えられる可能性もあると考えている。

起業家や起業経験のある投資家は水産業界に、テクノロジーやほかの領域での経験値などの専門性を持ち込んでいる。例えば、農業関連のテクノロジーを魚の養殖の技術やシステムに応用している。水産養殖はとても大きな進歩をしている。陸上で行う水産養殖は空想だと考えられていたが、現在は将来の食料を考える上で重要な位置を占めている。高品質の水中カメラとセンサーが水中内で何が起きているかを詳細に伝えられるようになった。ロボット技術と合わせて、トレーサビリティと透明性を持つ解決策を生み出している。

多くの人や組織、活発なマーケット、そして社会のトレンドによって、持続可能な水産業はここまでくることができた。フィッシュ 2.0の役割は、扉を開き、多くの人を連れてくることだ。魅力的な機会を示すと、多くの人たちは参加するということがわかってきた。関わってくれた全ての人がこのネットワークを作る手伝いをしてくれている。そのおかげで、海も料理もより健康なものになるだろう。