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トレンド:気候変動対策における農家の役割 米英で重要性の認識高まる

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米国サステナブル・ブランド編集部

気候変動対策における農家、農地の役割の重要性について、アメリカやイギリスで認識が高まっている。米国農業者と牧場主連合(USFRA)が公開した動画『30 Harvests』は、今後30年間が農業の歴史の中で最も重要だとし、チェンジメーカーとしての農家の役割を取り上げている。また全英農業者連盟(NFU)は、2040年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指す計画を発表した。(翻訳=梅原洋陽)

気候変動に立ち向かうための農業者の役割を映す『30 Harvests』

米国農業者と牧場主連合(USFRA)はこのほど、気候変動に対応していく上での農業者の役割に焦点をおいた新たなショートフィルム『30 Harvests(30回の収穫)』を公開した。経済的に不安定な時代にありながら、今後30回の収穫期において、農業者は変化を起こす中心的役割を担う。

「次の30年間が農業の歴史の中で最も重要な期間です。2050年までに、世界を養うために生産量を70%増やす必要があります。農地が減少する中でどうやって増える人口に食料を提供して行くのでしょうか。『30 Harvests』は経済や環境に関する現在や未来の世代の課題と向き合いながら、信頼できる食料を提供して行く農業者の情熱や希望を捉えています」とUSFRA のCEOであるエリン・フィッツジェラルド氏はいう。

このドキュドラマはテキサス州デルの農家ジェイ・ヒル氏とミズーリ州ボーリング・グリーンの農家であり土壌学者のメーガン・カイザー氏の話である。フィルムの中で二人は、農家が直面している問題を主張しながら、食料需要の増加というチャンス、そして現世代の抱える究極の課題である気候変動を解決できるかもしれないという機会について語っている。

ヒル氏は「農家が気候変動の課題の最前列にいることを世界に伝えなくてはなりません。ただ、現状を変えることは私たちにとっても恐ろしいことではあります」という。

『30 Harvests』は、人口が90億に達すると予想されている2050年までに残されている収穫サイクルだ。AFT(American Farmland Trust)によると、アメリカでは175エーカーの農地が1時間毎に失われている。その多くは都市開発によるものだ。

気候変動の影響はすでに肌で感じられるレベルに達している。平均気温の上昇、猛暑、大雨、干ばつ、異常な天候による極度の流水、洪水、土壌侵食、土壌炭素の減少、そして水質、得られる水の減少などは一例だ。

しかしながら、農地は炭素を保持することができる。全ての農地は今まで考えられてきた以上に重要性が高く、農家や牧場主はチェンジ・メーカーなのだ。

例えば、米Indigo Agriculture(インディゴ・アグリカルチャー)は6月に発表した”Terraton Initiative™” という野心的な取り組みで、これまでにないレベルで二酸化炭素の大気中への排出を抑制する炭素隔離を行なっていくと発表した。

「30 Harvestsはほんの一例です。他にも何百、何千もの農家達が新しい技術を取り入れ、環境に優しい農業を厳しい経済的状況下で行なっているストーリーがたくさんあります」とカイザー氏は話す。

USFRAは農業やフードバリューチェーンのリーダーを集め、かつてないほど多くの人口を養いながら、私たちの生活を支える環境をより良くするための、次の戦略を立てている。

「これは、食品、財務、金融のリーダーたちがアメリカの農家や牧場主と一緒になって、サステナブルな食糧システムをつくっていくための呼びかけです。気候変動、特に私たちの農場で炭素を引き下げることから始めています。私たちは、近いうちに国内初のカーボン・ニュートラルを達成したセクターになることを目指しています。そしてその後に、他のセクターのオフセットを手伝えるようになっていきたいです」とフィッツジェラルド氏は話している。

英農家、牛肉を消滅させずに2040年までに温室効果ガス排出量ゼロを目指す

全英農業者連盟(NFU)は、2040年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指す計画を発表した。

「ネットゼロを目指す:農業の2040年目標」は業界の挑戦的な目標を達成するために3つの柱を設定している。

・ 農業の生産効率の向上
・ 農地管理の改良と、炭素をより確保できる農地への転換
・ 再生エネルギーとバイオエコノミーの増加

最初の柱は、排気ガスの減少だ。さまざまな技術を活用して、生産性を向上させることで、少ない資源で今と同等かそれ以上の食料を全ての農地から提供する。

2つ目は、農業の炭素捕獲量を増やすことだ。より大きな生垣、木、森林を活用し、土壌の有機物質を増やし、既存の炭素をより多く保存できようにする。

3つ目は、化石燃料からの温室効果ガスをなくすことだ。バイオ・エネルギー、バイオ由来の資源、例えば麻繊維や羊毛などを利用して、空気中の二酸化炭素を取り除く。

「気候変動は私たちの時代における最大のチャレンジであることに間違いはないでしょう。急速に、世界中の政治的関心事になっています。イギリスの農業従事者を代表してお伝えすると、私たちが温室効果ガスを発生する要因であることも、貯蔵する可能性があることも理解しています。今後20年で気候に負荷をかけない農業を築いていくことが大切です」とNFU代表のミネット・バターズ氏は語る。

「私たちの直面している環境問題に絶対の正解がないことは分かっています。だからこそ、世界的に認識されている余剰農産物の問題に取り組み、最新の科学を駆使し、政府と連携し、必要な支援を受け、ステーク・ホルダーや多様なサプライ・チェーンと取り組んでいく必要があります」

「この白書は私たちの取り組みに参加することを呼びかける際の基本となるものです」とバターズ氏は付け足した。

牛肉の生産が引き起こす環境的ダメージや植物由来の食料にシフトすることが気候変動を引き止める上で重要だとする研究が増え続けている。しかし、バターズ氏が英ガーディアンに伝えた通り、英国における牛肉生産は高密度で行う訳ではなく、牧草地のために森を切り倒してもいないため、世界的な牛肉生産と比べると排気ガスの量は平均以下だ。そのため、NFUは牛肉の生産を減少させることが環境的な目標を達成するために必要だとは考えていない。

「私たちは世界で最も環境に優しい食料生産を目指しています。イギリスの牛肉生産の炭素フットプリントは世界平均の40%です。そして私たちはこの数値をさらに下げます。生産性を高め、農地を活用し、生垣や木を増やし、炭素をさらに吸収し、再生可能エネルギーの利用を増やしていきます。食料生産を維持、もしくは増加させながらネットゼロを目指していきます。イギリスの農家達は世界最高レベルの動物と環境保護を達成しながら食料を提供することを誇りに思っています」

米ゼネラル・ミルズ、再生型農業を目指しサステナビリティ報告書発行

一方で、このような全ての取り組みを実践に移そうとしているのが米食品大手ゼネラル・ミルズだ。3月に、世界最大の食料品企業は再生型農業を2030年までに100万エーカーの農地で行なっていくと明かした。

誠実な製品をつくっていることで知られる食品ブランド「Annie’s」「Cascadian Farm」「EPIC Provisions」「Muir Glen」の4ブランドは、ゼネラル・ミルズの「トリプル・ボトムライン・オペレイティング・ユニット」に入っている。これは、トリプル・ボトムライン、地球・人・経済(利益)においていい成果を出すことを目指すブランドの集合的な取り組みだ。このほど発表されたサステナビリティ報告書では、特に同社がどのように目標を達成するかについて掘り下げている。

4ブランドはそれぞれ独自の製品があり、顧客もいるが、どのブランドもトリプル・ボトムラインを前進させるための経営判断をしていく。

「私たちは4つのブランドに共通する価値観によって、他のブランドと区別してもらえるようにしました。もしかすると、企業の部門に一般的ではない名前をつける戦略的重要性を理解できない人もいるかもしれませんが、私たちは意識的にこのような選択をしました。この企業で誰かが私たちについて話題にするたびに、彼らは3つの主軸から私たちが与える影響について学ぶことができます」と同ユニット代表のカーラ・バーノン氏はいう。

同ユニットが出した最初のサステナビリティ報告書の中で重要な部分は、再生型農業への取り組みだろう。

ゼネラル・ミルズの自社評価ツールの第2版は、使いやすく、農家が自分の取り組みが再生型農業かを判断できるオープンソースのツールだ。また、農業を測定し、農家や科学者、関連団体が共同で農地レベルの影響を測定するためにも使われる。また同レポートは、素晴らしいサプライヤーである、ホワイト・オーク牧場のライフサイクル評価に関しても詳細に伝えている。これによると、同社の牛肉生産における二酸化炭素の排出量はマイナスのようだ。