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2030年の世界:知っておきたい9つのメガトレンド

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アンドリュー・S・ウィンストン

2030年、私たちはどんな世界を生きているだろうか?

私は未来で起きることを予想するようなタイプではない。どちらかというと、今日の世界を形成する移り変わりの速いメガトレンドの中で、いまここで起きていることに目を向ける現在主義者だ。しかし、クライアントからは2030年の世界でどんなことが起きているか、メガトレンドを教えて欲しいと頼まれる。だからそんな時は、11年後の世界がどうなっているかというある程度の予想はついていると答えている。(翻訳:小松遥香)

私たち人類が進み、選ぼうとしている方向は生活やキャリア、企業、世界に多大な影響を与えるだろう。2030年までに9つのメガトレンドがどうなるかーー。私の予想は次の通りだ。リストは確実性の高いものから並べている。

近い将来、起こりうる9つのグローバル・トレンド

人口動態

世界の人口は今よりも約10億人増え、平均寿命も延びる。2015年に73億人だった世界人口は2030年までに85億人に到達する。最も速く増加する層は高齢者だ。2030年までに、65歳以上の人口は10億人に達する見込みだ。この層の大半が経済的には中流階級であり、極度の貧困層は減り続ける。しかし中流階級が増えるにも関わらず、ピラミッドの最上段を占める新たな富裕層の割合は大きな課題であり続けるだろう。とは言え、特に気候変動などのメガトレンドは、人口増加を鈍化させるか、現在の予想とは異なる結果をもたらすだろう。

都市化

2030年、私たちの3分の2は都市に住んでいるだろう。都市化が進み、メガシティ(巨大都市)や小・中規模の主要都市がさらに誕生してくる。人が集まる多くの人気の都市で、生活費が上がる。より大きなビルが必要になり、レベルの高い管理テクノロジーも必要になる。ビッグデータやAIによって、ビルの効率化がさらに進むだろう。それから、食料がもっと必要になる。生産地から多くの人が暮らす都市へ運ぶが、アーバン・アグリカルチャー(都市農業)を迅速に増やしていくという方法もある。

透明性

世界はさらにオープンなものになり、プライベートという括りが少なくなってくるだろう。すべてのものを追跡・監視するという傾向がどこまでも行き渡ることは想像に難くない。しかも一方通行の追跡だ。すべての人やモノ、組織に蓄積される情報量は急速に拡大する。特に顧客や消費者に対して、情報を共有するプレッシャーは増していくだろう。情報分析ツールがより発達し、一部の意思決定は簡単にできるようになるだろう。例えば、二酸化炭素の排出量の少なさ、労働者の最高賃金、有害物質の少なさなどを基準に、商品を選ぶことが簡単になるだろう。しかし、こうしたツールはどれも使われる過程でプライバシーを保護することはないだろう。

気候変動

気候は急速に変わり、異常気象がどこでも発生するということが続くだろう。すべてが予想した通りに発生するかどうかはまだ不確かだが、気候が急激に、危険なほどに変わっているということは疑いようもない事実だ。大気圏の活動と経済・人間の活動のバランスを考えることが、わずか11年間にどんなことが起きるかをより正確に予測する手助けになるだろう。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、地球の平均気温の上昇を産業革命前の水準から1.5℃に抑制するために、二酸化炭素の排出量を迅速に減らすことがどれだけ重要な意味を持つのか明確にしている。しかし、現在の各国政府のコミットメントを見ると、そう簡単なことではないだろう。理論上、各国政府は2015年に採択されたパリ協定で、平均気温の上昇を産業革命前から2℃未満に抑えることに同意してはいる。しかし実際には、いま各国がコミットしているのはせいぜい3℃上昇させないというところだ。現状のままだと、2030年までには1.5℃上昇するだろうし、それに向かっているのが現実だ。

気候変動が引き起こす結末は容赦のないものだろう。人口密度の高い沿岸部の多くは、海面が上昇することで、共通の課題を抱えるだろう。自然界はさらにはるかにその豊かさを失い、多くの種の集団が壊滅的に減少し、サンゴ礁などの生態系は全滅する恐れもある。

干ばつや洪水は世界の穀倉地帯に打撃を与え、主要穀物の生産地域も変わっていく。北極圏は夏、氷がなくなるだろう。もちろん船が通れるようになるので、サプライチェーンを短縮できるという利点はあるが、ピュロスの勝利のようなもので、払う犠牲に比べて得るものが少なく、割に合わないだろう。

海面上昇や水源が変わることで、居住地を移さなければならない大規模難民が生まれ始めている。2030年までには、それ以降の数十年がどんな状態になるのかより明確になるだろう。私たちは生きている間に、主要な氷床が溶けることで多くの海岸沿いの都市が浸水するかどうか、そして、人の住めない地球に本当に近づいているのかどうかを知ることになるだろう。

資源不足

さらに積極的に資源不足問題に取り組まなければならなくなるだろう。経済成長に合わせて、金属などの主要な鉱物資源の埋蔵量を保つためにも、早急に循環型モデルに移行する必要がある。例えば、新たに採掘した資源を使用する量を減らし、リサイクルしたものや再生製品を使用すること、そもそもの直線型の経済を見直すといったことが必要だろう。

水は不足している資源だ。多くの都市が頻繁に水不足に直面するようになると考えられている。水に関するテクノロジーや、水不足問題の解決策となる脱塩技術へのさらなる投資が求められている。

クリーンテック(環境保全技術)

ゼロ炭素技術をつかった送電網や車道、ビルは予想よりも遥かに拡大しているだろう。いい知らせは、クリーンテクノロジーのコストが下がり続けているため、再生可能エネルギーは劇的に増えていることだ。2015年以降、毎年、世界の電気容量の半分以上は再生可能エネルギーでまかなわれている。2030年までには、事実上、石炭火力技術から生まれる新たな発電能力はないだろう。

電気自動車が輸送手段の大半を占めるだろう。道路を走る電気自動車の割合は、内燃エンジンの車が早々に使用されなくなると考えると、2030年までに10数%からほぼ100%近くになると予想されている。一方で、新しく販売されるほぼすべての自動車が電気自動車になるだろう。バッテリー価格の大幅な値下げや、化石燃料によって動くエンジンが法律で禁止されることで、この流れは加速するだろう。さらに、ビルや送電網、鉄道、水道システムなどを大幅に、より効率的にするデータドリブン・テクノロジーの台頭を目の当たりにすることになるだろう。

テクノロジー・シフト

IoTは勝利を収めるだろう。新しい機器はすべてコネクテッドになり、インターネットに接続される。AIが人間の知性を超えるとされる「シンギュラリティ(技術的特異点)」を支持する人たちは、2030年あたりまでには、手頃なAIが人間の知性を超えるだろうと予想している。AIと機械学習は私たちの暮らしの計画を立て、より効率的に、上手く交通を最適化し、車のルートを選べるようになるだろう。技術は私たち人間を今日よりもさらに操るようになるだろう。米国の選挙へのロシアの干渉も、古くさく映るかもしれない。AIは新しい種類の仕事を生み出すだろうが、トラックやタクシー運転手からパラリーガル、エンジニアと言った高い技術を必要とする仕事まて、ほぼすべての仕事の一部に取って代わるだろう。

国際政策

重要な物事をどう成し遂げればいいだろうか。私がとりわけ考えを巡らせているのは、世界の国々や機関が協調し、気候変動や資源不足に積極的に取り組むのかどうか、膨大な数の不平等や貧困の解決に取り掛かるのか、もしくはすべての地域や民族が自らのために立ち向かうのかどうかということだ。政策を予測するのはほぼ不可能であり、気候変動やそのほかのメガトレンドに対して世界政策がどう展開するのかを想像することは難しい。パリ協定は歴史的な幕開けだった。しかし、いくつかの国、特に米国は国際協調から離脱した。貿易戦争や関税の問題は2019年を席巻している。今日よりもさらに、ビジネスはサステナビリティを推進する大きな役割を担うだろう。

ポピュリズム

ナショナリズムや急進主義の台頭が盛んになるかもしれないし、ならないかもしれない。ましてや、政策が異なる統治思想の大多数の人々を支えるのか、そうでないのかも明確ではない。近年、米国やブラジル、ハンガリーなどあらゆる国においてポピュリストが選挙で支持され、権力を強化している。なおかつ、この数週間、トルコやアルジェリア、スーダンといった国々の人たちは独裁制へと押し戻されている。こんな状況が続いていくのだろうか。

企業は未来にどう備えるべきか?

ここまでに書いた未来を企業が生き抜いていくための戦略を説明するには本一冊分の長さが必要になるだろう。ここではいくつかのテーマについて提言させてもらおう。

●ビジネスを通して気候変動に取り組む
気候が危険なほど変わるというのは、人類がこれまでに直面した中でも最大規模の脅威だ。しかし、なす術がないわけではない。企業はできる限り悪影響を減らすために、その経済力を使うこともできるし、道徳的責任もある。従業員を巻き込み、商品を通じて、消費者や顧客に対して気候変動問題について伝えよう。気候対策に投資できるよう、企業財務の内部規定を変えよう。最も重要なことだが、上昇している炭素価格を請求するために、政府のあらゆるレベルにおいて、影響力やロビー力を使おう。何もしないロビーグループには公然と勧告を行おう。

●ビジネスの人的側面についてもっと考えよう
新しいテクノロジーは社会やビジネスに浸透し、その変化は快適なものではないだろう。こうした変化やプレッシャーは、解決策を約束するポピュリスト主導者に人々が注目する理由の一つでもある。ビジネスリーダーたちは、このビッグ・シフトが企業とバリューチェーン、地域社会の人々にとって何を意味するのか考え抜くべきだ。

●透明性を確保する
率直に言うと、選択肢はない。後に続く世代は、自分たちがものを買う企業、働く企業がさらに情報開示することを求めている。

●次の世代の人たちの声に耳を傾ける
2030年までに、ミレニアル世代やZ世代が労働人口の圧倒的多数を占めるようになる。彼らの優先順位や価値についていま耳を傾けよう。

未来を予測するということは、すでに起きていることから生じるし、人間がつくり出した制度や自然体系に予想しうる慣性を投げ込むことでもある。未来の世界を描いた、ものの見方やアイデアを与えてくれる。

個人としても、組織や機関としても、我々の選択というものは極めて重要な意味を持つ。特に、ビジネスは世界の行く末を左右する大きな役割を担っている。従業員や消費者、投資家でさえも、ビジネスは未来に対して積極的な役割を果たすべきだと考えるようになってきている。

歴史の波が私たちをさらうのを待ち、それを見ていることもできるだろう。しかし私は、今よりもいい、より豊かな未来を私たちが選択したことを証明できるように、積極的に働きかける方を選びたい。

  • アンドリュー・S・ウィンストン

ウィンストン・エコ・ストラテジーズ創設者。キンバリー・クラーク、HP、ユニリーバのサステイナビリティ・アドバイサリー・ボードのメンバーを務めるほか、PwCのサステイナビリティ・アドバイザーとして活躍。
プリンストン大学卒業後、コロンビア大学でMBA、イェール大学で環境マネジメント修士を取得。ボストン・コンサルティング・グループで企業戦略コンサルティングに従事したのち、タイム・ワーナー社とMTVでの戦略・マーケティング部門の管理職を経て、ウィンストン・エコ・ストラテジーズを創設。同社で、バンク・オブ・アメリカ、ボーイング、ブリジストン、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ペプシコなど、世界のトップ企業にコンサルティングを行ってきた。ハーバード・ビジネス・レビュー・オンライン、ガーディアン、ハフィントン・ポストに定期的に寄稿しているほか、自身のブログにも多くの記事を書いている。主な著作に、『グリーン・トゥ・ゴールド』(共著、アスペクト)、『Green Recovery』(未邦訳)、『ビッグ・ピボット―なぜ巨大グローバル企業が“大転換”するのか』(英治出版)などがある。