サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

EU、難民危機で増加する現代奴隷

  • Twitter
  • Facebook
米国サステナブル・ブランド編集部
Image Credit: Huffington Post


英国の危機管理コンサルティング「ベリスク・メープルクロフト」はこのほど、欧州の移民・難民危機によって、この1年間で、EUの28カ国のうち20カ国で現代奴隷の数が急増していると発表した。(翻訳・編集:オルタナ編集部=小松 遥香)

198カ国を対象に実施されたこの調査は、法律の強制力、法の執行の有効性、厳罰などの観点から現代奴隷のリスクを評価している。

今回で2度目となる調査「現代奴隷指標(MSI:Modern Slavery Index)」によると、特に現代奴隷のリスクが高まっているEU圏の国は、移民・難民が入国する、ルーマニアやギリシャ、イタリア、キプロス、ブルガリアだ。ランキングは、リスクが高いほど順位が上位になる。

ルーマニアでは、現代奴隷が他の国よりも急増しており、前回のランキングから56位も降格し、198カ国中66位になった。同じく133位のイタリアも、昨年に比べ、強制労働や人身売買などが深刻化している。

イタリアで高まる現代奴隷リスク

IOM(国際移住機関)は、2017年の1年間で、10万人を超す難民が海を越えて欧州に入ってくると予測しており、そのうちの85%はイタリアから流入すると見ている。

以前は、多くの難民がギリシャからEUに入ってきていたが、EU-トルコ声明が2016年3月に合意されたことで状況は変わった。しかし、これまでの経緯から、ギリシャには依然として多くの移民・難民が暮らしており、人身売買の温床となっている。同国は今回、17位降格し129位だった。

ベリスク・メープルクロフトによると、移民・難民が最初に到着する国は、農業や建設、サービス業などのさまざまな分野で現代奴隷が増加する傾向にある。報告書は、EU-トルコ声明によって移民・難民の到着地が変わったことで、来年は、イタリアで現代奴隷のリスクが高まると予想している。中でも最も懸念されるのが、農業だ。

同社の上級人権アナリストのサム・ヘインズ氏は、「難民危機によって、ヨーロッパのサプライチェーンで発生する現代奴隷の被害は増加している。もはや、これまで現代奴隷のリスクがあると考えていたサプライチェーン上の国だけでなく、他の国にもリスクがあると考え、注視すべきだ」と警鐘を鳴らす。

ドイツやイギリスなどEUの大国であっても、現代奴隷が増加するリスクに直面する。今回の調査では、どちらの国も去年と比べわずかに点数が下がった程度だったが、カテゴリーは「低リスク」から「中リスク」に変わっている。新たに調査で分かったのは、イギリスに比べ、ドイツでは人身売買や強制労働が増加しているということだ。

EU以外の国はどうか

EU以外では、トルコは192カ国の中でも2番目に大きく順位を落とし、110位から58位になり、カテゴリーは「高リスク」に変わった。シリア内戦から逃れた何十万人もの難民の流入に、トルコの厳しい労働許可制度も手伝って、数千人が非合法な労働を行っている。政府にとっては、労働基準に違反しているかどうかを監督するよりも、リスクのより高い、政治的弾圧を監督することの方が優先事項になっている。

米国も135位と良い順位とは言えず、「中リスク」のカテゴリーに入っている。最近の不法移民への弾圧も、この順位の要因の一つだ。

しかし国外退去や入国禁止などの強硬措置は、強制労働や人身売買を抑制するような効果的で持続可能な解決策にはなり得ない。

同社の主任人権アナリストのアレキサンドラ・チャンナー氏は、「現代奴隷を根絶するには、問題の根本までさかのぼり、不法移民がなぜ生まれるかを突き止める必要がある。これをしなければ、この問題はさらに悪化するだろう」と話す。

同氏は、国外退去を強化し、移民・難民の保護区を制限するといった締め付け政策をとることは、不法移民が犯罪集団の下で人身売買や違法労働に巻き込まれる事態を招くことになるとも忠告している。

「移民・難民は、これまで以上に、生き残るために人身売買の被害者にならざるを得ない状況になっている。しかも国外退去を恐れて、人身売買の被害や虐待を訴えることもない。こうした違法行為が発生している国の業者と取り引きすることは、企業にとってもリスクになる」(アレキサンドラ・チャンナー氏)

現代奴隷リスクが高いアジア

アジアでは、製造業の中心地となっている、バングラデシュや中国、インド、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、タイが揃って、「極度のリスク」もしくは「高リスク」のカテゴリーに属している。

それでもタイとインドは、現代奴隷に関連する法律が施行されたおかげで、状況は改善され、どちらも順位を上げている。もちろん、奴隷労働は根強い問題として社会に存在する。

インドでは、建設業やれんが窯、衣料品工場、製造業、農業などでかなり酷い奴隷労働が存在する。タイでは、製造業や農業、漁業などで酷い虐待が未だに続いている。

中国は21位で、「極度のリスク」というカテゴリーから変化のないままだ。全体で、最もリスクが高かったのは、北朝鮮やシリア、南スーダン、イエメン、コンゴ共和国、スーダン、イラン、リビア、エリトリア、トルクメニスタンだ。