生物多様性COP16、2030年世界目標の実施加速へ採択できず異例の「休会」――「先住民地域共同体」の役割強化などに成果も
会期を1日延長し、昼夜を徹して議論を続けたにもかかわらず、主要項目を採択する前に時間切れとなり休会したCBD-COP16(コロンビア・カリ)
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10月21日からコロンビアのカリで開かれていた、国連生物多様性条約16回締約国会議(CBD-COP16)は、2030年までに生物多様性の損失を止め反転させるための世界目標である「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」の実施加速に向けた具体の議論を巡って、各国が合意に至る前に時間切れとなり、閉幕予定日を1日過ぎた11月2日に採択ができないままに休会(Suspend)する異例の展開となった。主要な論点の中で、各国の生物多様性保全の取り組みを評価する指標案はほぼ固まったが、生物多様性の資金ギャップを埋めるための「資源動員」などを巡って議論が難航した。
一方で、公式サイトによると、ホスト国のコロンビアが力を入れる、先住民地域共同体(Indegenous People and Local Communities)による自然を守る取り組みに対する役割の強化と、生物のデジタル遺伝情報から得られる利益を共有するための新たな多国間メカニズムに関しては“画期的な合意”がなされたという。(廣末智子)
取り組み指標はほぼ決定も……「休会」で一旦宙に
今回のCOP16は、2022年12月にカナダのモントリオールで開かれたCBD-COP15で、GBFが採択されてから初めての会議。2030年までに世界の陸域と海域の30%以上を保全する30by30(サーティ・バイ・サーティ)など23項目に及ぶGBFのターゲットの達成に向けた各国の取り組みや今後の進め方を明確化することが求められていた。
このうち、各項目の取り組み状況などを測る指標を巡っては、作業部会で議論が行われ、30by30などについては生物多様性が良好に保たれている地域の割合などで評価し、数値的に成果を示しにくい部分についてはバイナリー(選択解答式)指標で評価することなどがほぼ決定していた。今後は、気候変動枠組み条約において、締約国が5年ごとに温室効果ガスの排出量削減目標の提出を義務付けられているのと同じように、生物多様性条約においても2026年2月までに各国が国内での取り組みを国連に報告する方向で調整が進んでいるが、本会議の休会により、一旦宙に浮いた格好だ。
196の締約国のうち、これまでにGBFに基づく国家戦略や国家目標を提出しているのは日本を含む69国にとどまる。今回の作業部会では、国家目標を提出していない途上国から「目標はあくまでグローバルでの進展を図ることに主眼を置き、特定の国の進捗の遅さが批判されるような内容にはしてほしくない」といった意見が出ていたという。
また、生物多様性の資金ギャップを埋めるための努力を先進国に求める「あらゆる資源からの動員」については議論が難航し、途上国側が強く求めた「新基金」という言葉は議長テキストに盛り込まれなかった。
デジタル遺伝情報の利用から生じる恩恵は「全ユーザーの共有が望ましい」
一方で、今回のCOP16では、DSI(遺伝資源に関するデジタル配列情報)と呼ばれる、生物のデジタル遺伝情報の利用から生じる恩恵を公平に配分するための仕組みづくりに関しても世界の関心が集まっていた。これについては時間をかけて議論を行った結果、医薬品や化粧品などすでに商品化されているものに限らず、「すべてのDSIユーザーがその恩恵を共有することが望ましい」とする方向性を確認。具体的には、製薬会社などDSIを使って多大な利益を得る大企業に対し、利益や売り上げの一部を規模に応じて国際基金(カリファンド)に拠出することを求める内容で合意した。
悲願の「先住民地域共同体」の役割明文化に当事者共同体ら歓喜
さらに、今回、ホスト国のコロンビアは、「自然とともにある平和(Peace with Nature)」をテーマに掲げ、生物多様性保全における「先住民地域共同体」の役割の強化を焦点の一つとして力を入れていた。この結果、悲願であったCBD-COPにおける、先住民地域共同体の作業部会の常設化や、「アフリカ系コミュニティ(Afro-Descendant)」という用語を追加することなどを決定。国連自然保護連合日本委員会の事務局長、道家哲平氏のレポートによると、採択が決まった瞬間には、本会議場に詰めていた先住民地域共同体から歓喜の声が上がり、「歴史的な瞬間だ」とする声明も出された。アフリカ系コミュニティの貢献を明記したことに関しては、コロンビアとブラジルの両国から、喜びと感謝が聞かれたという。
国連事務次長 兼 国連環境計画事務局長のインガー・アンダーセン氏は、COP16の成果について、「各国の決意と『人民のCOP』のエネルギーのおかげで、大きな進歩を遂げることができた。地球規模の生物多様性枠組みを実現するための取り組みに、先住民族と地元の管理者の知識と役割を組み込むことを約束したのは重要な前進だ」などと総括。その上で、本会議が休会となったことを踏まえ、「もちろん、私たちは資源動員や監視枠組みの前進についてより多くの成果を達成したいと考えていたが、作業のペースを落とすつもりはない。2030年は急速に近づいており、行動を待つことはできない」とするコメントを発表している。
COPの事務局などによると、休会となったCOP16は今後、特別COP(Ex-COP)か、COP16-2といった形で開催される方向ではあるものの、11月4日時点で時期や会場は未定となっている。