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国際

温室効果ガス「2035年までに60%削減を」 IPCCが政策決定者向け第6次報告書で新基準

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IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)は20日、地球温暖化に関する最新の科学的知見を集約した報告書(第6次統合報告書)を発表した。パリ協定の事実上の長期目標である、世界の平均気温上昇を産業革命以前から1.5度以内に抑えるためには、CO2を含む温室効果ガスの排出量を2019年比で2030年までにほぼ半減し、2035年までに60%削減することが必要であると明確に指摘。各国に温室効果ガス削減目標のさらなる引き上げとともに、効果的で公平な気候変動対策を実施するよう求めている。(廣末智子)

IPCCは、地球温暖化に関して世界中の専門家の科学的知見を集約している国際機関で、温暖化の科学(自然科学的根拠)と、温暖化の影響(影響、適応、脆弱性)、温暖化の対策(気候変動の緩和策)からなる3つの作業部会がある。今回の第6次報告書は2021年から22年にかけて3作業部会が発表した報告書の中から、最も重要な知見を政策決定者向けに要約したもので、9年ぶりの公表となった。

今回の報告書の中で、IPCCは2018年に『1.5度特別報告書』を臨時発行し、「温暖化を1.5度に抑えるために必要な、前例のない規模の課題を強調した」と振り返り、「5年後のいま、温室効果ガスの排出量は増加し続けているため、この課題はさらに大きくなっている。これまでに行われたことのベースと規模、および現在の計画は、気候変動に取り組むには不十分だ」と指摘。「1世紀以上にわたる化石燃料の燃焼、不平等で持続不可能なエネルギーと土地利用」により、2020年までの10年間で世界の平均気温は産業革命前よりも 1.1度 上昇していることを明らかにした。

報告書はさらに、温暖化が進むたびに、より激しい熱波、より激しい降雨、およびその他の異常気象により、人間の健康と生態系に対するリスクが高まるほか、気候に起因する食料と水の不安が増大すると予想。そのリスクが「パンデミックや紛争などの他の有害事象と組み合わさると、管理がさらに困難になる」と厳しい見通しを示し、警鐘を鳴らした。

今後の気温上昇を1.5度に抑えるための具体的な数値としては、これまでにも示していた基準年の2019年比で、2030年までに温室効果ガス排出を43%削減(CO2は48%削減)に加えて、新たに、2035年までに60%削減(CO2は65%削減)、2040年には69%(CO2は80%削減)し、2050年までにカーボンニュートラルを達成する必要があることを明示している。

今回の統合報告書は、政策決定者に向けた要約であり、各国の政策や国際交渉に強い影響力を持つ。現在、各国はパリ協定に対して2030年の温室効果ガス削減目標を提出しているが、同協定では5年ごとの目標の更新・提出が求められていることから、まずは次の2035年の削減目標が焦点となる。同目標は、今年11月に開かれる予定のCOP28での議論を経て2024年末のCOP29において各国が提出する予定だが、今回の内容を踏まえて各国がどこまで目標を引き上げるかは、2050年までのカーボンニュートラル達成を左右する大きな問題だ。

日本は現在、2030年度に13年度比で46%減の目標を掲げる。今回の統合報告書の公表に合わせて談話を発表した西村環境大臣は、統合報告書の内容を「継続的な温室効果ガスの排出はさらなる地球温暖化をもたらし、短期のうちに1.5度に達するという厳しい見通しが示されたが、今すぐ対策を講じることで、海面水位の上昇や洪水、熱中症の増加など、温暖化に関連したリスクを抑えることが可能であることも示された」と総括。その上で、「政府としては、IPCCの科学的知見を踏まえ、緩和策・適応策の両面から対策を強化していく」と述べ、来月のG7=主要7カ国 の気候・エネルギー・環境大臣会合では「議長国として、世界全体の脱炭素化に向けて国際社会をリードしていく」考えを示した。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年10月からSustainable Brands Japan編集局デスク兼記者に。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。