「世界で最も持続可能な100社」首位はデンマークのエルステッド、日本は6社選ばれる
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「世界で最も持続可能な100社」のランキングが発表され、1位にはデンマークの洋上風力発電最大手のエルステッドが選ばれた。同社は2009年以降、事業の主軸を石炭火力発電から洋上風力発電事業に転換。2023年までに石炭火力事業から撤退を目指す。国内では12位の積水化学工業を筆頭に武田薬品工業など6社がランクインした。同ランキングは毎年、カナダのメディア・投資調査会社コーポレート・ナイツが世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)の開催にあわせて発表している。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=小松遥香)
北欧企業が上位に
『コーポレート・ナイツ』は、企業を取り巻く情勢について「COP25で各国政府の気候変動への取り組みが失敗に終わり、企業の取り組みの重要さはかつてないほど増している。未来の消費者、有権者は気候変動や社会正義に関する問題への対応が失敗していることにますます我慢できなくなっている。企業や投資家は、現在の危機が未来にとってどんな意味を持つかに気づき、真剣に取り組み始めた。十分に備えた企業はリスクと同時に機会を見出し、適切に取り組みを進めている」と説明する。
トップ10には、エルステッド(デンマーク)に続き、昨年1位の食品・化学薬品大手クリスチャン・ハンセン(デンマーク)、製油大手ネステ(フィンランド)、ネットワーク機器大手シスコシステムズ(米国)、ソフトウェア大手オートデスク(米国)、バイオテクノロジー企業ノボザイムズ(デンマーク)、金融大手INGグループ(オランダ)、電力大手エネル(イタリア)、ブラジル銀行(ブラジル)、電力アルゴンキン・パワー・アンド・ユーティリティーズ(カナダ)が選ばれた。
日本企業では、昨年89位だった積水化学工業が12位に入り、68位に武田薬品工業、72位にコニカミノルタ、86位に花王、89位にパナソニック、92位にトヨタ自動車が入った。
上位100社の約半数にあたる49社は欧州企業。他の地域は、米国・カナダから29社、アジアから18社、南米からはブラジル企業が3社、アフリカ大陸では南アフリカ企業が1社だ。100社の平均存続年数は83年と長寿企業が多く、長期的に存続し成長する力は持続可能性を測る真のバロメーターだと『コーポレート・ナイツ』は説明する。
ランキングは、売上高10億米ドル以上の企業7395社の財務報告書やサステナビリティ報告書など開示情報を21のKPI(重要業績評価指標)を基に評価し、上位100社を選出している。
基準となるKPIは、エネルギー生産性、温室効果ガス生産性、水生産性、廃棄物生産性、揮発性有機化合物生産性、窒素酸化物生産性、硫黄酸化物生産性、微小粒子状物質生産性、イノベーション力、納税率、CEOの報酬と従業員の平均報酬の比率、企業年金、サプライヤーのサステナビリティ・スコア、休業災害率、死者数、離職率、経営幹部の女性比率、取締役の女性比率、サステナビリティ目標と連動した役員報酬制度、罰金の割合、クリーンレベニュー(クリーンテクノロジーなど環境・社会への貢献度の高い製品やサービスから得た収益)の21項目。
金融サービス業が最多
業種で最も多かったのは金融サービス業。トップ10に入った2社のほか、BNPパリバ(フランス)やインテーザ・サンパオロ(イタリア)などの銀行や資産運用会社など18社が選ばれた。
100年に1度の大変革期に直面し、「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング・サービス、電動化の頭文字の略)」への早急な対応が求められる自動車業界からは、34位に自動車部品メーカーのヴァレオ(フランス)、74位に電気自動車テスラ(米国)、85位にEV最大手の比亜迪(BYD、中国)、92位にトヨタ自動車の4社が入った。
さらにサーキュラエコノミーの取り組みが加速するアパレル業界からは、昨年2位だったグッチやサンローランを傘下に収めるケリング(フランス)が23位、H&M(スウェーデン)が27位、アディダス(ドイツ)が55位、ザラを擁するインデックス(スペイン)の4社が入った。
エルステッドや積水化学が評価された理由
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1位のエルステッドは2009年以降、石炭火力発電事業から再生可能エネルギー事業へと主要事業の転換を進めてきた。1972年にデンマークの国営電力・ガス会社として創業した同社は、既存事業が経営不振に陥る中、2009年に同国でCOP15(第15回気候変動枠組条約締約国会議)が開催されたことが後押しとなり改革に乗り出した。現在もデンマーク政府が株式の5割を保有する。
ヘンリック・ポールソンCEOは1位になった理由として「ビジネス・トランスフォーメーション(事業の変革)」を挙げ、『コーポレート・ナイツ』でこう話している。
「この10年間で劇的な変革を果たした。10年前、事業の85%は石炭火力発電事業で15%が再生可能エネルギー事業だった。今やその割合は逆転し、2025年までにカーボンニュートラルになることを目指している。二酸化炭素の排出量は2006年比で80%削減した。石炭火力への投資を撤退することで去る者もいれば、大きな成長への旅路に加わってくれる者もいた。
当初、2040年までかかると思っていたが20年前倒しで実現することができた。2050年までに二酸化炭素の排出量をゼロにする『2050年目標』を掲げる企業は、もっと速く、より多くのことができなるのではないか改めて考えてみて欲しい。われわれの事例が示すのは、自らが考えるよりもさらにずっと早く実現できるということだ。
利益のためだけに企業を経営するのは無意味だが、大きな目標を達成するためだけに経営を行うのも長期的には持続可能じゃない。良いことをすることと上手くやることを両立しなければならない」
日本企業でトップの積水化学工業は昨年から大きく順位を上げた。高く評価されたのは、資源・廃棄物等の管理やイノベーション力、安全への取り組み、従業員の定着率、クリーンレベニュー(環境・社会への貢献度の高い製品やサービスから得た収益)など。
『コーポレート・ナイツ』は「最も持続可能な企業はクリーンレベニューを伸ばすことに努め、競合相手と差をつけている」と評す。クリーンレベニューについて、積水化学工業ESG経営推進部の三浦仁美担当部長はこう話す。
「クリーンレベニューの向上に関しては、環境貢献製品制度を設け、環境や社会のさまざまな課題を解決する課題解決型の製品の創出や市場拡大を推進してきた。同制度を通じ、どのような課題解決が求められているかの認識を持ち、どの課題の解決にどの程度貢献してきたかを把握し、今後の方向性については社外アドバイザーの意見を聞きながら検討し、情報開示してきた。
日本の中でも持続可能性の高い企業と並んで選出されたことを嬉しく思うとともに責任の重さを感じる。今後も、ステークホルダーの皆さまとの対話や連携の機会をさらに増やし、環境や社会課題の解決に寄与する製品やサービスの創出や普及を加速させ社会や地球の持続可能性を高めることに貢献していきたい。そして、そのような事業を継続していくことのできる持続可能性が高い企業であり続けられるよう努力していきたい」
サステナビリティやESG投資への関心はかつてないほど高まり、いよいよビジネスのメインストリームに入ってきた。サステナビリティは、すべての企業にとって本業と同時に取り組まなければならないものではなく、本業として取り組むことが当たり前のものになる。エルステッドのポールソンCEOは「過去8-9年間、事業の根幹を少しずつ解体し、その売り上げを洋上風力発電事業に費やすことで現在の地位を築いてきた」と語る。気候危機による自然災害の悪化や政治不安などさまざまな問題が起きる中、変革が迫られる企業も増えるだろう。