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国際

世界で40秒に1人が自殺ーーWHOは農薬規制が自殺率減少に効果的と指摘

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世界保健機関(WHO)は9月10日の「世界自殺予防デー」にあわせ、世界で40秒に1人、年間約80万人が自殺していると発表。各国政府に対し、効果の高い自殺防止戦略を国の健康・教育施策に取り入れる持続可能な対策をとるよう求めた。新たな報告書は、主要な自殺手段の一つである危険性の高い農薬を規制することが年間数千人の自殺防止につながる可能性があるとしている。(サステナブル・ブランド ジャパン=小松遥香)

「すべての死は家族や友人、同僚にとっての悲劇だ。でも自殺は防止できる」と同WHOのテドロス・アダノム事務局長は話し、各国政府に自殺防止策の強化を求めている。

世界で発生する自殺の約8割は低・中所得国で発生しているが、自殺率は高所得国の方が高いという。とりわけ高所得国の男性の自殺率は女性の3倍に上る。一方、低・中所得国では男女の自殺率はほぼ同等だという。

自殺は、自動車事故に次いで15-29歳の若年層の死因の第2位。また15-19歳の未成年女性の死因でも妊産婦死亡に次いで自殺は2位、男性では自動車事故、対人暴力に次いで自殺は3位だ。世界的にもっとも一般的な自殺方法は、首つり、農薬の服毒、銃器という。農薬の服毒は低所得・中所得国で発生する自殺の多くを占める。

WHOは自殺防止の鍵となる対策として、「自殺手段の制限」「メディアが自殺について責任ある報道を行う」「若年層が生活上のストレスを建設的かつ効果的に対処できるよう技能を身につける機会を用意する」「自殺リスクのある人を早期に特定し、寄り添い、経過観測をする」の4つを挙げる。

強毒性の農薬を規制することで自殺が減少

WHOはこのほど、国連食糧農業機関(FAO)と共同で「自殺防止と農薬規制」をテーマに報告書を発行した。報告書は、強毒性の農薬を規制することで自殺率が下がると言及している。

そのために重要な役割を担うのが農薬の登録・規制を担う機関だ。報告書は、同機関を国民の食の安全を保障し、昆虫媒介性疾病を予防する重要な存在としながらも、頻繁に農薬を使わなくても、WHOやFAOが推進する総合的病害虫管理や総合媒介生物管理を含む代替手段があると説明。さらに農薬の中には人間にとっては極めて毒性の高い農薬があり、職場や家庭で長期的に暴露することで、皮膚炎や呼吸器疾患、がん、繁殖障害、神経発達障害、行動障害などを引き起こす危険性もあるとしている。

しかし危険性が高い薬物でありながら、農薬の入手や管理は厳格に行われているわけではない。世界的に農業が盛んな地域では農薬が家庭や職場に置かれており、都会でも家庭の害虫駆除などに使われている。

こうした農薬の手の届きやすさが服毒自殺の多さを招いているという。さらに毒性が高い農薬の場合、医療機関や効果的な治療が受けられない場所であればあるほど、死に至る可能性が高くなる。

強毒性の農薬の規制が自殺率の低下に有効的だとする背景に、自殺率上位国のスリランカと韓国の事例がある。スリランカでは、強毒性の農薬を禁止したことで自殺率が70%下がり、1995年から2015年で約9万3000人の命が救われた。韓国では、2000年代に入って服毒自殺に使われた大半が除草剤「パラコート」によるものだった。2011-2012年に同製品の販売を禁止したところ、2011-2013年の農薬による服毒自殺は半減したという。

報告書は農薬による服毒自殺を防止することは、SDGsの目標2「飢餓に終止符を打ち、食料の安定確保と栄養状態の改善を達成するとともに、持続可能な農業を推進する」、目標3「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する」の達成にもつながるとしている。

WHOは、国家レベルで自殺を適切に記録、観察することが国家の自殺対策戦略の基盤になるとしていると呼びかける。しかしWHOの加盟国で適切な人口動態登録をしているのは183カ国中80カ国のみで、低・中所得国の多くは適切な情報を記録できずにいる。

小松 遥香 (Haruka Komatsu)

アメリカ、スペインで紛争解決・開発学を学ぶ。一般企業で働いた後、出版社に入社。2016年から「持続可能性とビジネス」をテーマに取材するなか、自らも実践しようと、2018年7月から1年間、出身地・高知の食材をつかった週末食堂「こうち食堂 日日是好日」を東京・西日暮里で開く。前Sustainable Brands Japan 編集局デスク。