米経済団体が「株主至上主義」から脱却、人や社会を重視へ
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米国経済が一つの転換点を迎えた。米国大手企業のCEOらが所属する団体「ビジネス・ラウンドテーブル」は19日、企業のパーパス(存在意義)について新たな方針を発表。これまで20年以上掲げてきた「株主至上主義」を見直し、顧客や従業員、サプライヤー、地域社会、株主などすべてのステークホルダーを重視する方針を表明した。181社のCEOが署名した今回の見直しについて、同団体は「時代に合わせ、長期的視点に立った方針に変更した」と見解を示している。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=小松遥香)
このほど発表された声明には、アマゾンやアップル、JPモルガン、ジョンソン・エンド・ジョンソン、バンク・オブ・アメリカなど181社のCEOが署名している。
ビジネス・ラウンドテーブルは1978年以降、コーポレート・ガバナンス(企業統治)原則を定期的に公表してきた。1997年以降、企業は第一に株主に仕えるために存在するという「株主至上主義」の原則を表明してきた。
ジョンソン・エンド・ジョンソンのアレックス・ゴースキーCEO は「新たな原則は、今日の企業経営のあり方とあるべき姿を的確に表したもの」と評し、JPモルガンのジェームズ・ダイモンCEOは、「多くの経営者が従業員や地域社会に投資するようになっている。なぜなら、長期的に成功する唯一の方法だからだ。今回の現代的な原則への見直しは、すべてのアメリカ人のために経済を推し進めていくというビジネス界の揺るがない決意の表れだ」と説明している。
「CEOは利益を生み、株主に価値を還元するために働く。しかし、一歩先を行く企業はそれ以上を目指す。そうした企業は顧客を最優先し、従業員や地域社会に投資する。最終的には、そうすることが長期的価値を構築する最も有力な方法なのだ」――保険会社 プログレッシブ・コープ トリシア・グリフィスCEO
「すべてのステークホルダーにとって長期的な価値を生み出し、直面する課題の解決に取り組むことに焦点を注ぐことが、21世紀を生きる企業にとってかつてないほど重要な意味を持つようになっている。結果的に、企業と社会が共に豊かに、持続可能になる方法だからだ」――フォード財団 ダレン・ウォーカー会長
背景にミレニアル世代の台頭
米国では、2000年代に成人を迎えたミレニアル世代の労働者が全労働者の約3分の1を占めると言われる。米ビジネス誌「ファスト・カンパニー」は、今回の見直しを後押しした企業へのプレッシャーの大きな要因として、「若い労働者が、経営者に対し、単に利益を最大化するよりもより高尚なパーパス(存在意義)を掲げることを求めている」「消費者が人や環境に良いことをしているように見える企業に注目するようになってきている」「社会的意識の高い投資家らが持続可能性、企業責任、社会的インパクトといった観点を持つ金融商品に膨大な額の投資を行うようになってきている」ということを挙げている。
米経済誌「フォーチュン」は若者の資本主義に対する関心の低下を要因の一つに挙げる。2016年のハーバード大学の調査によると、調査した18-29歳の米国人の51%が「資本主義を支持しない」と回答、3分の1は「社会主義に変わることを望んでいる」と回答した。さらに米調査会社ギャラップの2018年の調査でも、「資本主義を肯定的に捉えている」と回答したのは約45%で、2013年から23%下がっていたという。
企業の存在意義
新たに発表された「企業の存在意義」は、顧客、従業員、サプライヤー、地域社会、株主ごとに定義されている。
● 顧客への価値提供:我々は消費者の期待に応え、さらにその期待を上回ることで道を切り開いていくというアメリカ企業の伝統を推進していく。
● 従業員への投資:従業員への投資は、従業員を平等に保障し、重要な恩恵を与えることから始まる。急速に変化する世界で生き残るために、新たな技術を習得する手助けとなる訓練や教育を行い、従業員を支援する。ダイバーシティとインクルージョン、尊厳と尊敬を育んでいく。
● サプライヤーを公平に、倫理的に扱う:規模の大小を問わず、他の企業と良いパートナーになるために尽力する。それはミッションを達成することにもつながる。
● 事業を行う地域社会を支援:ビジネス全体を通して持続可能な取り組みを行うことで、地域社会の人を尊重し、環境を保全する。
● 企業が投資し、成長し、改革を行うための資本を提供してくれる株主の長期的価値を創造:株主に対し、透明性の確保と効果的なエンゲージメント(対話)を行う責任を果たす。