• 公開日:2018.10.30
米、紙容器入り「ジャスト・ウォーター」販路拡大
  • 寺町 幸枝

ディスカウントストアチェーン、Target(ターゲット)で販売が開始されたジャスト・ウォーターのフレイバー水(インフューズドウォーター)。

紙容器入りミネラルウォーター「JUST Water(ジャスト・ウォーター)」が注目を集めている。立ち上げたのは、俳優ウィル・スミス氏の息子ジェイデン・スミス氏(20)だ。2015年の販売開始以来、ホールフーズ・マーケットが独占販売してきたが、今年米国内での販売経路が拡大し、現在1万5000を超える小売店が取り扱っている。さらに8月から英国での生産・販売を開始し、国際的な広がりを見せる。(寺町幸枝)

共同創業者は若手セレブのジェイデン・スミス氏

インスタグラムでは、ジェイデン氏のラップ付きSNSコマーシャルが展開された。

同製品を作るのは、ニューヨーク州北東部にあるグレンズ・フォールズを拠点に置く「JUST goods, Inc.(ジャスト・グッズ・インク)」。共同創業者は、環境問題に積極的に取り組むことでも知られている若手俳優兼ラッパーのジェイデン・スミス氏。父親であり、俳優のウィル・スミス氏(50歳)とともに、「この世界がより良い場所になるように」という思いから、この事業を始めた。

ジェイデン氏は、10歳の時サーフィン中に海に浮かんでいるペットボトルを発見したことと、学校で学んだマイクロプラスチック汚染問題を知ったことをきっかけに、地球環境問題へ真剣に取り組み始めたという。

水そのもの以上に価値ある仕組み

ジャスト・ウォーターが最も注目されている理由の一つが、これまで一般的に用いられてきたプラスチック容器を使わずに、再生可能率82%を誇る紙容器と、サトウキビ由来のバイオ素材プラスチックのキャップを使ったミネラルウォーターだという点だ。マイクロプラスチックが引き起こす環境破壊(特に海洋環境)問題に配慮したこの容器は、今や希望の星と言ってもいいだろう。

加えて、ジャスト・ウォーターは1950年から25%も人口が減少し、過疎化が進む地域に本社を置くことで、雇用と税金収入をもたらし、コミュニティの再生を図ることを試みている。

ボトルに入れられた水は、ニューヨーク州のグレンズ・フォールズ分水から採取した100%スプリングウォーター。年間3億ガロン(約11億リットル)の摂取が可能なこの分水で、コミュニティが利用する1.3ガロンを差し引いた残りから、ジャスト・ウォーターが通常の水の価格の6倍で購入し、販売している。

さらにボトル詰めを行う工場は、歴史ある元教会をジャスト・ウォーターが市から購入し改装したもの。税収入が不足していたことで、古くなったインフラ設備の手直しも進んでいなかったこの街に、私財を投じて新しいインフラを敷き、環境を改善し、街ぐるみの大きな事業へと発展させている。

こうした一連のジャスト・グッズ・インクの活動から、グレンズ・フォールズ市は、数年で100万ドル(約1億1240万円)の収入を得る見込みだ。

米国内の販路拡大と、英国での販売開始

ジャスト・ウォーターは、16.9オンス(500ml)ボトルを1本1.29ドル(約144円)で販売し、今年デビューした新作の3種類のインフューズドウォーターを1.59ドル(約179円)で売っている。

2017年からCEOを務めるイラ・ラウファー氏
©JUST Water

現在CEOを務めるイスラエル出身で、ヘルス・フード業界のアドバイザーとして知られてきたイラ・ラウファー氏は、2017年からこの会社を指揮している。ラウファー氏に引き継いで以後、国内拠点を一気に広げ、英国での生産、販売を開始した。英国製は、アイルランド北部のブレイド川から採取された水を採用している。

なおBコーポレーション認証を受けている企業でもあるジャスト・グッズ・インクは、温室効果ガス排出量を考慮しているため、米国製の水の輸出はそもそも考えていなかった。

本サイトの取材に応えたジャスト・ウォーターのブランドおよび製品戦略のVP、カーラ・ルビン氏によると「ジャストが定める水の純度、生産量、味、そしてサステナビリティ性から検討して選定した場所から水を採取している。個別の味試験をすると、厳密には異なる味になるが、一般的なジャスト・ウォーターの味は、クリーンで、すっきりとした味わいの水と知られており、米国製も英国製もいずれも同等の印象を与える味になっている」という。

さらに今年4月WWDジャパンの取材に応えたジェイデン氏によれば、日本への上陸も検討しており、日本国内で現在協力可能な水源を探しているという。

創業以来名実ともに、ジャスト・ウォーターに投資し続けているスミス親子
©JUST Water

この9月から、アメリカン航空が会員向けに空港ラウンジ内での提供を始め、さらに2019年からは、ドラッグストアチェーンのCVSでも展開が開始されるというジャスト・ウォーター。スミス親子は、ジャスト・ウォーターのSNSにも度々登場し、このプロジェクトに名実ともに投資している。

世界規模で、プラスチック製品への規制が高まる中で、ビジネスプラットフォームとしても、応用の利く生産、販売スタイルを構築しつつあるジャスト・ウォーターは、その名が認知されればされるほど、社会へさらにポジティブな影響力を与えるブランドに成長するに違いない。

written by

寺町 幸枝(てらまち・ゆきえ)

Funtrapの名で、2005年よりロサンゼルスにて取材執筆やコーディネート活動をした後2013年に帰国。現在国内はもとより、米国、台湾についての情報を発信中。昨年より蔦屋書店のT-SITE LIFESTYLE MAGAZINEをはじめ、カルチャー媒体で定期出稿している。またオルタナ本誌では、創刊号以来主に「世界のソーシャルビジネス」の米国編の執筆を担当。得意分野は主にソーシャルビジネス、ファッション、食文化、カルチャー全般。慶應義塾大学卒。Global Press理事。

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