温暖化を逆転させ、希望に満ちた持続可能な社会の構想を示す――映画『2040 地球再生のビジョン』
© 2019 ALL TERRITORIES OF THE WORLD © 2019 GoodThing Productions Pty Ltd, Regen Pictures Pty Ltd
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地球温暖化によって、多くの犠牲者を出す猛烈な異常気象が続く中、将来的に人間は地球に住み続けることができるのだろうか――。『2040 地球再生のビジョン』は、「4歳の娘にこんな世界で生きてほしい」という願いを込め、父親であるデイモン・ガモー監督が現実的な解決策を模索し、娘が大人になる2040年に向けて明るいビジョンを描いていく映画だ。気候変動が起きている原因をひも解きつつ、世界の子どもたち約100人にもインタビュー。場面のところどころに挟まれる子どもたちの意見は、ユニークでありながら核心を突くようなものばかりだ。映画はドキュメンタリーにCG映像を交え、難解な問題をポップに表現。楽しみながら、包括的な気候変動対策やサステナビリティを学べる作品になっている。(松島香織)
ガモー監督はまず、家の中を地球に見立てて、世界で何が起きているのかを説明する。暖炉の前では温暖化の原因となる炭素について、人間による開発で地中にあった炭素を過剰に放出させてしまったことを、そしてバスルームでは、大気にこもった熱の9割以上は海に吸収されていることなどを話す。こうした温暖化のサイクルは熱い空気を生み、熱い空気は水分を多く含むため大雨や嵐をもたらしている。「過去5000年の間にこんなに急速な変動はなかった」と話すガモー監督の足元は水浸しだ。
ガモー監督は言う。「地球は後世から借りているみんなの棲(す)みかだ。排出ガスは極力減らさなくてはいけない」と。そして彼は、問題の解決策に焦点を当てた物語をつむぎ、娘のために明るい未来を描こうとする。
太陽光発電のネットワークが広がっていくイメージ © 2019 ALL TERRITORIES OF THE WORLD © 2019 GoodThing Productions Pty Ltd, Regen Pictures Pty Ltd
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2040年の構想を考えるルールは、「今ある最良の解決策を採用して描くこと」。はじめにガモー監督はバングラデシュを訪れ、太陽光発電を使ったエネルギーの分散化システムを学ぶ。ある村では、さびたりへこんだりした各家のトタン屋根にソーラーパネルを置き、自家用の太陽光システムをつないで、電気を取引してシェアしているという。
また、電力があることで地域に現金が流入し、夜でも人々は市場を開きにぎわいが生まれた。家では子どもがその明かりの下で勉強をしている。ガモー監督はこうした社会システムを称賛する一方、再エネを推進すると職を失う可能性がある化石燃料業界の人々に「再就職の支援が必要だ」と配慮を忘れない。
バングラデシュの取り組み例を参考に、ガモー監督は「マイクログリッドの一部になった家」「太陽光パネルのガラス窓が新築家屋の基準になること」などを未来の住居として構想した。作品中、俳優が大人になった娘のベルベットを演じ、この構想に基づいた家の中で、紙のように薄く壁に貼り付いたAIから報告を受け、「余剰エネルギーは寄付して」などと指示を出している。とても快適な生活を送っていることが伝わってくる場面だ。
クリーンエネルギーを使った自動運転車が街中を走っていくイメージ © 2019 ALL TERRITORIES OF THE WORLD © 2019 GoodThing Productions Pty Ltd, Regen Pictures Pty Ltd
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次にガモー監督は、人間の基本的なニーズと地球の限界との間のバランスをとる経済モデル「ドーナツ経済学」を提唱するオックスフォード大学環境変動研究所のケイト・ラワース博士に会いに行く。博士は「私たちは今、私たち全員が共に繁栄できる地球という”家”を創造するビジョンを持つ必要がある」と、ガモー監督を勇気づける。
さらに「クリーンエネルギーを使った自動運転車とシェアライドの普及」「農薬を使わず微生物を活用し土壌に炭素を閉じ込め、牛を放牧し土壌の保水力を保つリジェネラティブ農業」「海洋で植物を育てる海洋パーマカルチャー」などの専門家に会いに行き、ガモー監督はそれぞれヒントをもらう。映画を見終わって分かることは、取り組むべきテーマは一つひとつあるが、すべてはつながっており、どれひとつ欠かすことはできないということだ。
環境問題を扱ったドキュメンタリー映画は、「こうすべき」という視点で撮られたものが多いが、ガモー監督は、作品中決して「こうすべき」とは言わない。解決策を見つけに出かけ、素直に専門家の意見に感嘆しうなずく。未来のベルベットが「ノルウェーのサーモンを中国でさばいて、再びノルウェーで売る」ことを知り「何考えているの!」と憤った時、「何も考えていなかった」と反省し、自家用車を持たないことがCO2削減につながると分かっていても「自家用車がくれる自由が好き」と便利さを手放す難しさを隠さない。とても人間臭く、共感できるのだ。
だからこそ、最後にガモー監督が、自分は「肉を食べる回数を減らし、コンポストを作る」と決意し、「多くの人が行動を変えれば何かが変わる」と力強いメッセージを発信した時、見ている側もうなずくことができる。「もう手遅れ」ではなく、まずは、自分ができることを始めればいい。そんな明るい展望を見せてくれる作品だ。
11日より、シアター・イメージフォーラム他 全国順次ロードショー。
『2040 地球再生のビジョン』
https://unitedpeople.jp/2040