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循環型経済へ 再生材の“売り手”と“買い手”を結ぶ、再生材版のフリマアプリ的なシステムとは

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使用済みのプラスチック製品などを新しい製品の材料や原料として利用できるように処理した、ペレット状のプラスチック再生材のイメージ(日立ハイテクのHPより)

2030年、2050年に向けて資源が循環する経済、サーキュラーエコノミーを確立させることが重要課題となるなか、日本でもさまざまな素材メーカーが、ステークホルダーとの連携を通じてプラスチックの再生材の活用を進める機運が高まっている。その中で、日立グループの2社と積水化学が、廃材を再生材として循環させたいという“売り手”と、再生材を原材料として活用したいという“買い手”とを結ぶ、再生材版のフリマアプリ的な位置付けで事業化を進める新システムに着目した。(廣末智子)

日立ハイテクと、日立製作所が、長年培ってきたプラスチック材料に関する知見やコア技術に、生成AIなどの先進デジタル技術を用いて連携し、独自に開発した、「再生型マーケットプレイスシステム」で、プロトタイプ版での有用性が確認された。積水化学はその実証に当たって、自社の製造工程で発生した廃材を提供するとともに、ユーザー視点での改善点の提案などを通じてシステムの検証に貢献している。

循環型経済への移行を巡っては、欧州で新車生産に使うプラスチックの25%以上を再生材とすることが2030年ごろまでに義務付けられるなど、世界的に規制を強化する動きが目立つ。日本でもそうした環境変化に対応し、資源を輸入に頼り続けないためにも、設計・製造段階からリサイクルしやすい循環配慮型設計や、再生材利用の拡大に向けた政策が進められている。

ここでいう再生材とは、使用済みの製品や、製造工程から出る廃棄物を回収し、新しい製品の材料や原料として利用できるように処理した材料を指す。そのように国内でも再生材の活用や、製造工程で発生する廃材の再資源化に対するニーズは高まる一方で、廃材由来の再生材は、品質が安定せず、取り扱いには専門知識や多くの手間が必要なことから、国内では売り手と買い手のマッチングの難しさが活用の課題となっていた。

再生材導入のハードル低減につながるノウハウを提供

そこで再生材の活用促進を目的に開発されたのが、再生型マーケットプレイスシステムだ。この中で、日立は、再生材を使いこなす知見や独自のビックデータやソリューション、生成AIを用いて、再生材の活用実績のない企業に用途に応じた再生材を薦めるとともに、活用実績がすでにある企業に対しては、より効率的な再生材の設計・開発を提案する。また日立ハイテクはそのコア技術である計測・分析力を活かして再生材の成形や品質管理をサポートする。システムはそのように2社が連携し、全体として再生材導入のハードル低減につながるノウハウを提供する仕組みになっている。

その上で、従来から、情報科学を材料開発に応用するマテリアル・インフォマティクス(MI)の推進に向けて、日立と協創を進めてきた積水化学がシステムに参画。再生材の売り手の素材メーカーの立場から、製造工程で発生した廃材をシステムのプロトタイプ版に提供するとともに、買い手の立場から、それらが自社製品の材料として採用できるかどうかを検討し、システムの検証に大きな役割を担った。

プロトタイプ版での成果を踏まえ、日立と日立ハイテクは、2025年度中のシステムの事業化を目指し、売り手と買い手の双方がより活用しやすい環境の整備を行う。事業化後は、専門商社としての知見と幅広いネットワークを有する日立ハイテクを中心に、国内外の製品メーカーや素材メーカーに、買い手や売り手になってもらうよう、サービスを展開する方針だ。

日立製作所 公共システム事業部の森田秀和氏は、「このようなMIや生成AIを活用したマッチング支援を含むシステムは先進的という認識だ。これからもOne Hitachiで挑戦を続けるとともに、積水化学をはじめとするステークホルダーとの連携・協創を進め、サーキュラーエコノミーを実現することによって、気候変動や生物多様性の損失、廃棄物の増加、資源不足といった社会課題に対応していきたい」と話している。

再生資源の循環を、官民挙げて推進する動きが活発化

プラスチックの資源循環においては、市場に投入される製品の製造元や使用材料、リサイクル性などの情報を製品のライフサイクル上で共有する、デジタルプロダクトパスポート(DPP)と呼ばれる、トレーサビリティの仕組みの構築が世界的に加速している(関連記事=サステナブルな製品を当たり前に――EUが施行した「新エコデザイン規則」が企業に与える影響とは)。日立の再生型マーケットプレイスシステムも、このDPPの一つに数えられる取り組みであり、日本ではNECによる「プラスチック情報流通プラットフォーム」や、日本IBMによる「資源循環プラットフォーム」などの先行事例もある。

経済産業省は昨年、サーキュラーエコノミーに関する産官学のパートナーシップである「サーキュラーパートナーズ」を立ち上げ、400以上の企業や経済団体、自治体や大学などが加盟。今年7月には、マテリアルリサイクルによる再生プラスチック市場の拡大を目指すイニシアチブも発足するなど、高品質な再生資源の循環を、官民を挙げて推進する動きが、いま日本で活発化している。

EUを筆頭に規制が進む循環経済政策に取り残されることなく、世界的にも高いリサイクル技術を有する日本の国際競争力をどう高め、リスクをチャンスとしていくか。1企業や業界の枠組みを超えて、再生材活用のユースケースを積み重ねていくことが、これまで以上に重要な局面に来ていると言えるだろう。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年10月からSustainable Brands Japan 編集局デスク 兼 記者に。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。