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持続可能なイベントがもたらすビジネスメリットとは? ――Sustainable Event Professional Forum 2024

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SB国際会議2024東京・丸の内

昨今、イベント運営でもCO2排出量の削減やフードロス削減に注目が集まっている。「SB国際会議2024東京・丸の内」の特別プログラムとして今年2月に開催された、「Sustainable Event Professional Forum 2024」には、MICEやイベント業界関係者らが参加。大阪・関西万博でのサステナビリティへの取り組みや、イベント各社が取り組む運営事例などが紹介され、イベントにおけるCO2排出量の測定方法や、取り組むメリットなどについて意見交換が行われた。また、サステナビリティマネジメント規格「ISO20121」の改定についての共有もあり、参加者は人権やダイバーシティ、児童労働など、主に社会面で内容が変わることに理解を深めた。(廣石健悟)

開会挨拶と「SB’24東京・丸の内」のサステナビリティ報告
白川陽一・博展 サステナブル・ブランド事業部 部長 兼 サステナビリティ推進部 部長

フォーラムの主催者である博展の白川陽一氏は、「本フォーラムは今回で5回目になり、(サステナビリティへ)具体的な実装・行動の段階に入ってきている。発表事例を皆さんのこれからの活動に生かしてほしい」と挨拶した。同社は、2021年からSB国際会議イベント全体のCO2排出量の算定やカーボンオフセットの取り組みを開始。取り組み内容はホームページで公表している。

SB国際会議のCO2排出量は、2021年の92.88トンから、2023年は225.15トンへと増加。白川氏はその理由を、「アフターコロナにおける来場者の増加や会場の規模が大きくなったこと」「出展者や来場者に交通手段や荷物の持ち込みなどをアンケートして算出し、測る範囲を広げたこと」などを挙げた。その上で、「まず、排出しているCO2排出量を正しく計測し、増えない努力を続けていくこと。また減らすソリューションをどう作っていくのか考えることが重要。1社ではできない部分もあるので、新たなイノベーションを起こす共創を生み出していきたい」と述べた。

「GREEN WAVE の発信とサステナブルな出展形態を追求
太田康生・オカムラ マーケティング本部 プロモーション部 部長
ファシリテーター
村松加奈江・博展 サステナビリティ推進部 サステナブル経営推進室 室長

太田氏

オカムラの太田康生氏は、自社のサステナビリティに関する取り組みを紹介した。同社は2050年にCO2排出量の実質ゼロを目指す「GREEN WAVE Road to 2050」を発表。GREEN(環境配慮)のWAVE(波)を自ら起こし、その波に乗るという「GREEN WAVE」の考えの下に、カーボンニュートラルに取り組む。具体的には、リサイクル性を考慮した製品を開発・製造しているほか、J-クレジットを利用しているという。

ファシリテーターを務める博展の村松加奈江氏が、「価格転嫁について顧客の反応は? 価格が上がるとなかなか選んでもらえないのでは」と質問すると、太田氏は「(カーボンニュートラルに関して)意識の高い企業が増えており、当社を選定していただいている。(カーボンニュートラルは)企業姿勢としてお客さま自身が納得していただき取り組んでいる」と答えた。

また同社は、2023年に開催された、オフィスおよびファシリティの国際専門展示会「オルガテック東京」に出展した際に、CO2排出量の測定を実施。CO2排出量は53トンで、そのうち44トンが生産活動(展示する製品の生産)によるものだったと太田氏は説明した。こうした同社の取り組みは、CDPの気候変動に関する調査でも、2023年度は最高評価である「Aリスト」として選定、評価されているという。

マーケティング活動におけるGHG排出量の可視化と削減の取り組み
荒木丈志・電通 パブリック・アカウント・センター シニア・プロデューサー
越川延明・セレスポ 執行役員 人事総務部長 兼 広報室長、一般社団法人日本イベント産業振興協会(JACE) サステナビリティ委員会 委員長

越川氏
荒木氏

電通の荒木丈志氏は、「マーケティング活動におけるGHG排出量の可視化と削減の取り組み」と題して活動を発表。映像制作のCO2排出量計算ツールである、カーボンカリキュレーター「Carbon Calculator for Movie Production(CCMP)」を紹介した。

映像制作を含むマーケティング活動のCO2排出量は、スコープ3(サプライチェーン排出量)に含まれる。しかし、従来はコスト型連動の計算方法(産業連関表)が用いられ、その正確性に疑問があったという。「これでは排出量削減とコスト削減が同義となってしまい、過度なコスト削減がメディアのクオリティを下げる恐れがあった」と荒木氏はいう。

そこで映像制作に特化したCCMPを開発して、案件ごとの排出量算出を可能にした。制作費1000万円の北海道ロケ案件の場合、CO2の排出量は、産業関連表で21.42トンとなるがCCMPを用いると8.70トンになるという。スタジオで仮想背景を利用するバーチャル撮影に変更した場合は、3.74トンだ。このようなカーボンカリキュレーターの開発は、国内初。従来の海外製のものと遜色ないレベルであり、実際に海外の第三者機関の認証も得ている。

一方、セレスポの越川延明氏からは、ISO20121の改定についての案内があった。同規格はイベントにおけるサステナビリティマネジメント規格であり、2012年に開催されたロンドンオリンピックをきっかけに策定されたものだ。現在は国際オリンピック委員会(IOC)が取得するなど、あらゆるイベント関係の企業・団体が取得している。策定当時と現在では社会環境が大きく異なることを踏まえて、人権やダイバーシティ、児童労働など、主に社会面の内容が改定されることが共有された。

サステナブル・イベントがもたらすビジネスメリットとは?
犬塚圭介・セレスポ 事業支援部 イベントサステナビリティ推進チーム 課長
大見絢音・セレスポ さいたま支店 営業課
野上慎介・ユタカ/ユタカワンファブリカシステムズ プロジェクトマネジャー
鈴木亮介・博展 サーキュラーデザインルーム ルームリーダー
ファシリテーター
白川陽一・博展 サステナブル・ブランド事業部 部長 兼 サステナビリティ推進部 部長
※所属・役職は開催当時

(左から)野上氏、鈴木氏
(左から)白川氏、犬塚氏、大見氏

はじめに、セレスポが「『シンチャオ!さいたま』ベトナムフェス2023」でサステナビリティに配慮した運営を紹介。主催者の「SDGsに貢献できるイベントに」との思いに応えるべく、大型美術造形を再利用したり、資源ステーションと名付けたごみ回収場所を設置したという。同社の大見絢音氏は「イベントにおける一施工会社ではなく、サステナビリティの観点から提案したり資材調達をサポートできた」と自社の取り組みを話した。

続いて、組み立て式のアルミフレームにファブリック(布)を被せて照明で演出を加える「Onefabrica」を紹介したのはユタカだ。Onefabricaは、使う度に廃棄する従来の木工造作に比べて、売り上げはまだ少ないという。しかし、労働力不足や長時間労働、運搬物や廃棄物の削減などを解決できるものだと強調した。同社の野上慎介氏は、「Onefabricaは複数年にわたって使用できる。実際にそういった契約も結んでおり、顧客との継続的なリレーションシップを獲得できている」と強調した。

博展は、日本製紙クレシアやトヨタ自動車のブースなどの実績を説明した。それぞれ、木質資源や自動車部品の端材を用いてサステナビリティを表現。そうしたサステナビリティを意識した設営事例により、サステナビリティ案件の相談や直接指名が増加し、高い受注率につながっているという。「サステナブルマテリアルを調達すると、コストが上がるのは事実。しかし、分解性を高めた設計にすることで施工の工数が少なくなったり、解体して体積を小さくすることで運搬コストが下がったりする」と鈴木亮介氏は説明し、取り組みのメリットを挙げた。

大阪・関西万博の持続可能性についての取り組み
永見 靖・公益社団法人2025年日本国際博覧会協会 持続可能性部 企画局 持続可能性部長

最後に登壇した永見 靖氏は、2025年4月から大阪市の夢洲(ゆめしま)で開催される大阪・関西万博における持続可能性に関する取り組みを紹介した。現在力を入れて取り組んでいるのが、万博に関わるすべての人の人権に関することだという。有識者を交えて人権デューデリジェンス(人権DD)に力を入れている。来場者が対象となるのはもちろん、協会職員やボランティアだけでなく、会場建設に携わる外国人を含む労働者、また、地元住民やメディアなど幅広い人が対象となる。

永見氏は、「より多くの人の意見を聞くこと。対象者別に通報窓口(グリーバンスメカニズム)を設けることを進めている」と話した。さらに「PDCAのうちできていなかったのはP、つまりリスクの特定だ。万博に関わる多くの人が、どのような人権侵害を受ける恐れがあるのか、きちんと調べる必要がある」と続けた。また、環境問題は数値化できるが人権問題は定性的であること、以前では問題にならなかったことが現在では問題になることもあるなど、人権問題の難しさを語った。