利益を追求し、人を幸せにする持続性が経営におけるESG――未来の世界と日本のデザイン(1)
第6回未来まちづくりフォーラム
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「ポストSDGsの検討元年」とも言われる2024年。これまで企業や自治体は、SDGsの規定に沿った取り組みを進めてきたが、今後その取り組みを深化させ加速させるには、各社・各地域の“らしさ”を発揮することが必要だ。SB国際会議2024東京・丸の内と同時開催された、第6回未来まちづくりフォーラムでは、「未来の世界と日本のデザイン」をテーマにセッションが展開された。本セッションでは、「全国市区SDGs先進度調査」(令和4年度調査、日本経済新聞)で2年連続全国1位となった、さいたま市の取り組み事例を共有。ポストSDGsにおけるサステナビリティへの考え方について議論した。(原 由希奈)
ファシリテーター
笹谷秀光・未来まちづくりフォーラム 実行委員長/千葉商科大学 教授 サステナビリティ研究所長
パネリスト
清水勇人・さいたま市 市長
小野塚惠美・エミネントグループ 代表取締役社長 CEO
名和高司・京都先端科学大学 教授/一橋大学ビジネススクール 客員教授
名和氏
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冒頭、グローバル経営や成長戦略などを専門とする名和高司氏は、ポストSDGsには“利益”と“社会貢献”の共存が求められるとし、「CSV(社会価値と経済価値の両立)」という考え方の必要性について語った。その具体例として、2007年にキリンと国内有数のホップの産地である岩手県遠野市が連携し発足した「TK(遠野×キリン)プロジェクト」を紹介。その内容の一つが「遠野ビアツーリズム」だ。遠野市のホップ畑で収穫を体験し、おいしいビールも楽しめるこのツアーは、海外からの観光客などに好評だという。地域資源を最大限活用し、企業と自治体が連携した街づくりを、名和氏は「鍵となる絵」だと語り、「単に社会に良いことをするだけではなく、それによって経済が回るCSVの理想像」だと述べた。
清水氏
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続いて、清水勇人さいたま市長が、SDGs先進度調査で同市が評価された背景を紹介した。清水氏は、さいたま市が「市民一人ひとりがしあわせを実感できる都市」を目指し、それがSDGsの理念と合致している点、また東日本大震災後に被災地と首都圏とのつなぎ役として、復興と東日本の経済発展に貢献してきたことを挙げた。
また、さいたま市はもともと、市民の「住みやすさ」の満足度が80%を超えていたが、清水氏は就任後、2030年までに市民満足度90%以上を目指す「さいたま市CS90+運動」を進めた。もともと同市の強みであった交通の利便性の良さ、災害に強く治安が良いこと、教育レベルの高さなどを積極的に発信したところ、それが市のブランディングとなり、人口増や、目標とする市民の満足度アップにつながった。財政状況も非常に良い状態だという。
小野塚氏
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ゴールドマン・サックスで20年間、資産運用関連事業を手掛けた経歴をもつエミネントグループCEOの小野塚惠美氏は、ESGについて「金融」と「企業経営」の2つの視点から解説した。ESG投資とは、脱炭素に積極的に取り組む企業へ投資し、そうした企業の脱炭素化を促進することだと改めて定義した。さらに「利益を追求し、人を幸せにし続ける力の持続性が、経営におけるESG」であり、企業が環境に配慮した経営をするべき理由だと述べ、互いに相関関係にあることを説明した。
また、ESGとSDGsを理解するポイントとして、「企業活動は個人や社会、地球のサステナビリティ(持続可能性)に責任があること」「地球環境(外部性)は企業にとっての資本であり、意識的なマネジメントが必要であること」「企業のステークホルダー(株主、従業員などのほか、将来世代)への説明責任が期待されること」を挙げた。
ファシリテーターの笹谷秀光氏は、「SDGsの活動は進化プロセス。ゴールを達成したから終わりではなく、さらに高みを目指すことが大切。それには“ウェルビーイング”がキーワードになる。“幸福で満たされた状態”を、世界中で議論しながら目指すべきだ」と話し、「さいたま市にもぜひ取り組みをけん引してほしい」と期待を寄せた。
“自分の存在を認めてもらう”ことがキーワード
最後に、各登壇者が会場の参加者に向けてメッセージを送った。名和氏は「異業種や行政、民間企業がいかにつながる環境をつくれるかが大切。イノベーションが確実に必要」だと強調した。小野塚氏は「自分がポストSDGsに18番目の柱を立てるとするなら、人を幸せにする文化やアートにする。お金や仕組みばかりを先行させるのではなく、心の中から見直し、そこに国が予算をつける時期だ」と語った。
また清水氏は、「サステナビリティは経済的な豊かさだけでは実現できない。“自分の存在を認めてもらう”ことが大きなキーワードだと考えている」と話した。笹谷氏は、「混迷の時代だからこそ、足元から見直していく必要がある。そうすれば素晴らしいものが発見できる」とセッションをまとめた。