サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

生活の利便性や働きやすさが、ライフスタイルの変革を促す――オカムラ、日本製紙クレシアらが目指す持続可能な社会

  • Twitter
  • Facebook

第6回未来まちづくりフォーラム

サステナブルな社会を実現するためには、企業や団体が課題解決に取り組むだけではなく、人々のライフスタイルを変革し、より大きなうねりを生んでいく必要がある。SB国際会議2024東京・丸の内と同時開催された、第6回未来まちづくりフォーラムのパネルディスカッションでは、商品開発を通じた生活利便性の向上、障がい者と健常者の働きやすさ、プロボノ人材の活用といった側面から、パネリストらが議論を交わした。(横田伸治)

ファシリテーター
田口真司・エコッツェリア協会 コミュニティ研究所長
パネリスト
石川貴志・一般社団法人Work Design Lab 代表理事
七野一輝・オカムラ サステナビリティ推進部 DE&I推進室
髙津尚子・日本製紙クレシア マーケティング総合企画本部 取締役

髙津氏
  • 消費者の利便性向上と環境配慮の両立――日本製紙クレシア

まず、暮らしに無くてはならない、ティッシュペーパーやトイレットペーパーなどを手掛ける日本製紙クレシアの髙津尚子氏は、「メーカーとして、作る責任・使う責任の側面から取り組みを進めている」と自社の理念を説明した。そうした取り組みの一つが、主力商品であるトイレットペーパー「スコッティ」だ。「長持ちロール」を商品名に冠しているように、通常の3ロール分の紙を1ロールに巻くことで、取り換え頻度の減少、持ち運び負担の軽減、収納スペース削減等を実現したほか、運送コストや芯の廃棄量の削減を通じて環境へのメリットも生んでいる。

またティッシュペーパー商品についても、空き箱の古紙回収率向上を目指して、同社が工場を置く埼玉県草加市と連携して取り組みを進める予定だ。市内の公共施設にティッシュペーパーの空き箱回収ボックスを設置し、同社が定期的に回収して、段ボールなどの商品としてリサイクルする仕組みを実装する。髙津氏は「今後は学校など、実証拠点を増やしていきたい」と話し、自治体や地域の教育機関と連携することで、消費者にライフスタイルの見直しを訴求していくという。

七野氏
  • 障がい者も健常者も働きやすいオフィスの実現――オカムラ

パラリンピック卓球選手としても活躍するオカムラの七野一輝氏は、「アスリート雇用」で同社に入社した。オフィスの設計・整備を手がける同社では、働く上でのDE&I推進を社内で実践。特に障がい者支援の軸としているのは、「アクセシビリティの向上」「コミュニケーション促進」「メンタルヘルス支援」だという。

七野氏は、オフィス内でも「最低限、車いすでも移動できるよう、段差がなかったり、通路幅が確保されていたりする必要があるが、それだけでなく身体的なストレスがないことも重要」と語り、車いすの高さに調整できる電動昇降デスクや、顔認証システムを導入した自動ドアなどの設備を紹介。「障がい者はもちろん、健常者にとっても便利。誰もが働きやすくなり、互いのアクセシビリティが向上する」と語った。

同社ではそのほか、障がいについて社員同士が話し合ったり、体験したりするイベントを開催して、社内での理解を促進し、心理的安全性の高い職場づくりも進めているという。七野氏はこうした自社の実践例を踏まえ、「障がいの有無に関わらず、誰もが働きやすいオフィスや社会の実現を目指したい」と力を込めた。

石川氏
  • 金銭的報酬にとらわれない新しい働き方を考える――Work Design Lab

一般社団法人Work Design Labでは、経営者や会社員など、本業を持っている約200人のメンバーをコーディネートし、プロボノ活動による地域の課題解決を行いながら、「非金銭的報酬」を軸とした多様な働き方を提案している。

具体的には、農業や医療など多岐にわたる分野の企業や団体と連携し、登録メンバーをプロボノ人材としてプロジェクトチームに派遣。本業での得意領域を生かして、地域の事業をサポートする仕組みを整備した。また、全国の市町村や都道府県と連携協定を結び、こうした人材活用モデルの展開も進める。

一方で、登録メンバーのライフスタイルとしては、本業以外に副業を行うことでプライベートな時間がなくなる懸念もある。同法人の石川貴志氏は「仕事と家族、のように目的ごとに時間を分けるのではなく、(地方出張が家族旅行を兼ねるなど)時間をシェアしていく暮らし方のひな形を作っていければ」と今後の展望を語った。

  • 新たなライフスタイル事例が増えれば、組織文化も変化していく

ディスカッションではまず、ファシリテーターの田口真司氏が「ライフスタイルを転換する上で、どのようにして『常識』を疑ってきたのか?」と登壇者に質問した。

髙津氏は「トイレットペーパー生産を『長持ちロール』に転換した際は、社会課題解決の視点を取り入れて発信することで、メディアの注目が集まり、文化を変えるきっかけになった」と説明。七野氏は「障がい者をひとくくりにせず、できること・できないことは個々に異なるという前提に立つことが重要」と話し、石川氏は「(ステークホルダーを納得させるためにも)できるだけ早くプロジェクトを進め、事例を作るべき」と述べた。

さらに田口氏は「仕事と生活の区分けをどう考えるか?」と問いかけた。髙津氏は「もともと日用品のメーカーとして、消費者の目線を持ちながら仕事もしている。だがコロナを経て、境界は一層あいまいになっていると感じる」と振り返る。

七野氏も、仕事をしつつパラアスリートの側面を持つ立場から、「試合前後でオフィス業務と練習の時間を変えるなど、流動的にバランスをとっている。そもそも卓球をしている時間は自分の中でプライベートな気持ちもあるが、(業務の一部と見なされるからこそ)結果も求められる点で、境界線はグラデーションになっている」と自身の経験を語った。

石川氏は「仕事と生活の再定義が進んでいる」とまとめ、「金銭的な報酬の有無が決め手ではないし、自分自身が本当にやりたいことは、仕事を通して表現できることもある。今後はより多くのロールモデルが現れていくことで、それに続く形で会社組織側も変化していくのでは」と話した。

最後に田口氏は、「ライフスタイルの変革は、地域との接点が裏テーマでもある。この大手町・丸の内には約35万人の就業者がいるが、その人たちに地域や全国、世界とつながってもらい、新しい社会づくりを一緒に進めていきたい」と会場に呼びかけ、セッションを終了した。

横田伸治(よこた・しんじ)

東京都練馬区出身。東京大学文学部卒業後、毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバを経てフリーライター。若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりの領域でも活動中。