シャンプーの使用済みボトルがオフィスチェアに――イトーキとユニリーバ・ジャパンが共同開発、高付加価値の循環を実現
ユニリーバ・ジャパンが回収したシャンプーなどの使用済みプラスチックの容器からアップサイクルされたイトーキのオフィスチェア。左から、ユニリーバのコーポレートカラーのブルー、主力ブランド「ラックス」のブランドカラーであるゴールド、「ダヴ」のブランドカラーであるライトブルーで染色し、ユニリーバ独自の取り組みから生まれたチェアであることを表現している
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イトーキとユニリーバ・ジャパンは、ユニリーバ・ジャパンが独自のプログラムによって回収したシャンプーなどの使用済みプラスチックボトルを再生した素材を、背部分などに採用したオフィスチェアを共同開発した。従来から廃棄ペットボトルのリサイクル繊維100%の生地を使用し、新品のポリエステルの椅子に比べて生産時のCO2排出量を約41%削減しているイトーキのオフィスチェアシリーズをベースに、より環境負荷の低減を図った製品で、ユニリーバ・ジャパンにとっては、これまでのアップサイクルの域を超え、回収した使用済みボトルが高品質の家具に生まれ変わるという、付加価値の高い循環を実現した形だ。(廣末智子)
椅子の素材に使われたのは、ユニリーバ・ジャパンが2020年から実施している「UMILE(ユーマイル)プログラム」で回収されたシャンプーなどの使用済みボトルを由来とするリサイクルポリエチレン樹脂。これを椅子本体の背面の10%に活用するとともに、背面に被せて使用することができるカバーにも、同じくシャンプーの使用済みボトルをリサイクルしたポリエステル繊維で編んだニットを採用した。
ユニリーバ・ジャパンでは、さまざまなパートナーと共に、回収した使用済み容器を「樹脂ペレット」や「繊維」などに再生しており、今回のチェアは、イトーキが、それらを上手く活用する形で共同開発を実現した。
左がUMILEプログラムで回収したプラスチックボトルから再生したポリエチレン樹脂(上)とポリエステル樹脂(下)。 右がポリエステル樹脂から作った糸。この糸を編んでチェアの背座カバーを製作した
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ベースになったのは、イトーキが機能性と環境負荷を両立させたオフィスチェアとして2022年から展開する「torteU(トルテユー)」シリーズ。同社は、リサイクル素材の活用や構成部材の脱プラ化、製品のロングライフ設計など「循環型社会の実現に貢献する製品開発」を続けており、同シリーズも、生地には廃棄ペットボトルのリサイクル繊維100%でつくられたサステナブルファブリックを採用することで、一般的なバージンポリエステル生地に比べて生産時のCO2排出量を約41%削減。背面と座面を一体成形したシンプルなデザインが特徴で、公益財団法人「日本デザイン振興会」が主催する2023年度のグッドデザイン賞も受賞している。
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ユニリーバ・ジャパンのUMILEプログラムは、消費者が、ボトル製品に比べてプラスチック使用量が約70〜90%削減できる詰め替え製品を購入するか、または、家庭で使用後に洗浄・乾燥したプラスチック容器をパートナー店舗の回収ボックスに持っていくか、の2つの方法によってポイントがたまる仕組み。たまったポイントはLINEポイントに交換したり、子どもたちのために活動している団体へと寄付することができる(1ポイント=20LINEポイント、または20円の寄付)。
プログラムは2020年11月にスタート。全国の自治体や企業、学校などとの共創・協働で回収ボックスの設置場所は2024年5月1日時点で150カ所にまで拡大し、参加者数は約114万5000人、ポイント付与数は約15万ポイント、容器の回収量は約250キログラムに上っている。
リサイクル材活用の大きな一歩
ユニリーバ・ジャパン営業統括本部の繁田知延氏によると、今回のオフィスチェアの開発は、UMILEプログラムを通じて、「使用済みボトルを回収するだけでなく、その出口を担保する」ことを目的に行われた。同社はプラスチックがごみにならない循環型社会の構築に向け、「みんなでボトルリサイクルプロジェクト」などを通じてボトル容器からボトル容器への水平リサイクルの検証を進めている。それと並行して、UMILEプログラムでは回収した使用済みプラスチックボトルやつめかえ用パウチから、これまでにも、カードケースやタペストリー、ごみ袋やエコバッグ、タオルなどのアップサイクル品をつくりだしていたが、イトーキをパートナーとすることで、オフィスチェアという、新たな選択肢が見えたという。
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半年がかりで共同開発したオフィスチェアは5月7日、創業60周年を機に全面リニューアルしたユニリーバ・ジャパンの本社オフィス(東京・目黒)に納入された。早速座った社員や、回収ボックスの設置に協力する企業の関係者らからは「シャンプーの使用済み容器のリサイクル材を使っているとは分からない」と驚く声が上がり、何より「(シャンプーの容器が)椅子になったんだね」と感慨深く、椅子を眺める人も多い。
チェアによって新しい循環の形が実現したことを、繁田氏は、「リサイクル材の新たな活用先となり得る大きな一歩だ」と表現。今回の椅子がユニリーバカラーを採用したように、「使用済みボトルの回収先の地域性などに合わせたチェアの製品化が実現できれば、さらなる広がりが期待される」と語る。
チェアへの大きな手応えは、イトーキも同様で、同社プロダクト開発統括部 商品企画チームの山本洋平氏は、「今後は量産品としての品質確保ができるよう検証し、素材循環に共感いただける方に届けられるよう、ユニリーバ・ジャパンと一緒に販路の検討を進めたい。オフィスチェアに限らず、他の家具や内装材の展開も視野に入れ、成形性、商品性、流通性などの観点からより良いアイテムを検討していきたい」とコメント。さらに今回のコラボを応用し、「他のメーカーで有効活用されていない廃材などを家具にアップサイクルする手法の開発も併せて進める」考えだ。
リジェネラティブな社会の実現に向け、業界や企業の垣根を超えたサーキュラーエコノミーの輪が広がる中、シャンプーの使用済み容器から生まれたオフィスチェアは新たな風となるか――。