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サステナビリティを目指すことは「人間の存在意義」を考えること――映画『アニマル ぼくたちと動物のこと』

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©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

英国に住んでいるベラとパリに住んでいるヴィプランは、気候変動問題に取り組む16歳だ。デモやストライキに参加するが、依然として状況が変わらない社会に怒りや失望を感じ、科学者たちが「6度目の大量絶滅」と呼ぶ地球の危機に絶望している。映画『アニマル ぼくたちと動物のこと』は、そんな2人が7つの国を巡って、活動家や研究者などと対話し、解決策を模索するドキュメンタリーだ。旅を通して、解決には「人間がどう生きるか」が大切だと気づいた2人は、最後に明るく輝いた表情を見せてくれる。(松島香織)

世界自然保護基金(WWF)の「生きている地球レポート2022 (Living Planet Report 2022)」によると、脊椎動物の個体数は、1970年から2018 年の間に地球全体の平均で69%減少したという。科学者たちはこうした生物多様性の危機的減少を「6度目の大量絶滅」とし、現在のままでは50年後に人類は生存していないかもしれないという予測もある中、早急な対策を呼び掛けている。

冒頭に登場するベラとヴィプランは、こうした科学的知見を目の前に突きつけられ、ひどく疲れていて表情が暗い。自分たちがいくら頑張って気候変動への対策を呼び掛けても、一向に何も変わらないからだ。特にベラは「子ども時代をデモに捧げているのに、何も得られていない」と悲観的だ。さらに2人は、世界の活動家たちに会いに行くために飛行機に乗り、CO2排出に加担してしまうことに罪悪感があるらしい。

彼らがまず訪れたのは、米国スタンフォード大学だ。古生物学者のアンソニー・バルノスキーは、2人に生物多様性の重要性を説き、種の絶滅の主な原因として、「生息環境の破壊」「乱獲」「気候変動」「環境汚染」「侵略的外来種」の5つを挙げた。そして「この原因のすべてが、エネルギー生成や食料生産など人間活動に結び付いている」と説明した。

次に2人はインド・ムンバイのごみの山となった海岸に降り立った。プラスチックらしいカラフルな色のごみがスクリーンいっぱいに果てしなく広がり、見ている側も彼らと同じように言葉を失う。「次々と波がごみを運んできて絶望しないの?」と言うベラに、ビーチクリーンを続ける弁護士のアフロズ・シャーは「清掃は自分たちがやるべきこと。毎日シャンプーする時に絶望しないだろう?」と明るく答える。

©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

彼と仲間たちはビーチクリーンのほか、市民にプラスチック製品の選び方を教えたりする地道な活動から「行動のお手本」を示している。さらに有権者としてプラスチックに関する法整備を支持するよう呼びかけ、マハラシュトラ州に使い捨てプラスチックに関する規制を導入させることに成功した。根源から改善するには法整備も必要だと学んだ2人は、次にブリュッセルの欧州会議を傍聴する。

そこでは欧州海洋漁業基金を巡って、乱獲から海を守ろうとする海洋保護団体や、EUの補助金に依存する商業漁業会社が、攻防を繰り広げていた。2人は議員などに働きかけるロビー活動が重要だと知り、基金の半分を割り当てられているというスペインの議員補佐官に質問しようとする。だが、補佐官ははぐらかして逃げ回り、エレベーターの中に消えてしまった。ヴィプランの「これが民主主義と情報の透明性なのですか?」という憤りと悲しみが込められた言葉に、同じ大人として恥ずかしく思った場面だ。

その後、パリでは経済学者から、経済成長を追うのではなく「満たされた状態(ウェルビーイング)」を社会の指標とすることが必要だと学び、チンパンジー研究で科学的に「人間が人間であること」を再定義したジェーン・グドールに会う。グドールはベラの憧れの人だ。少し元気を取り戻した2人は、ケニアで生物学者と共にゾウやアリなどを観察し、スイスではオオカミとヒツジの共存に取り組む動物行動学者と行動を共にした。

シリル・ディオン監督(3月22日、筆者撮影)

今年3月に来日したシリル・ディオン監督は、本作で「自然の中でいろいろな冒険を重ねて変化していく2人の姿を描きたかった」と話した。ベラは動物に対して特別な愛情を抱いており、食用としてウサギを粗末に扱い、狭い籠で人工授精し飼育する食肉業者に憤っていた。だが、その業者も経済の視点から見れば、肉を仕入れる大企業の「犠牲になっているのだ」とディオン監督は言う。

ベラは動物を愛するあまり、人間を排除しないと地球は再生できないと考えていたが、旅の終わりに「(地球の)バランスが保たれていれば人間にも再生できる」とひとつの答えを見つけ出し、「生物のことを学ぼうとして、人間について学んだ」と笑顔を見せる。ディオン監督によると、ヴィプランは映画に出演したことから「理解すること」の重要性を改めて学び、生物学者になるべく猛勉強中だという。

ディオン監督は「私たちは、自分が好きなものを守ろうとする。自然や動物のことを知らないと、それを好きになれないし守ることもできない。皆さんには一生懸命取り組んでいる人の姿を見たり、壊れてしまった自然を見たり、心を動かされるような体験をぜひしてほしい」と気候変動や生物多様性に関心を持つよう期待を込めて語った。

しぶきを上げて泳ぐイルカの姿や、ゆっくりと葉をはむキリン、そしてヒマワリ畑で飛び回るハチ。映画を見終わる頃には、誰もが「地球というひとつの世界では人間も動物の一員であり、自然に生かされている」と理解できるだろう。ディオン監督が映し出した美しい自然の姿に身を置き、いま一度、自然を守るために人間は何をするべきなのかを考えたい。

2024年6月1日シアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー。

『アニマル ぼくたちと動物のこと』
監督:シリル・ディオン
出演:ベラ・ラック、ヴィプラン・プハネスワラン、ジェーン・グドール 他
配給:ユナイテッドピープル
105分/フランス/2021年/ドキュメンタリー
http://www.unitedpeople.jp/animal

松島 香織 (まつしま・かおり)

サステナブルブランド・ジャパン デスク 記者、編集担当。
アパレルメーカー(販売企画)、建設コンサルタント(河川事業)、自動車メーカー(CSR部署)、精密機器メーカー(IR/広報部署)等を経て、現職。