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ビジネスにおけるエシカルの重要性――ボルボ100年の歴史と今に見る

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SB国際会議2024東京・丸の内

Day2 ランチセッション

直訳すると「倫理的な」という意味になる“エシカル”。今や中学や高校の教科書にも登場し、エシカルな企業であるかどうかが就活の決め手になるなど、企業にとって重要なワードになっている。環境問題だけではなく、社会や地域の課題に目を向け、何より人を大切にした企業活動をグローバル企業はどのような観点から行っているのか。一般社団法人エシカル協会代表理事の末吉里花氏と、ボルボ・カー・ジャパン代表取締役社長の不動奈緒美氏の対話から、実践のヒントを探る。(依光隆明)

不動奈緒美・ボルボ・カー・ジャパン 代表取締役社長
末吉里花・一般社団法人エシカル協会代表理事

セッションは、エシカル協会が推進しているエシカルの定義を、末吉氏が、「人や生き物を含む地球環境、社会や地域に配慮した考え方や行動のこと」であり、「SDGsの17の目標を達成しようとする私たち人間のあり方がエシカルであるかどうかが大事だ」と語るところからスタート。その活動の中で「いつも学びをもらっているのがボルボだ」と不動氏を紹介した。

不動氏

不動氏ははじめに「1927年の創業以来、ボルボは常に人を中心としたビジネスを行ってきた。単に車を製造するだけでなく、そこに関わる人々に対して非常に責任を感じている会社だ」と前置き。その上で、時代は、「(自社と顧客の)リスク回避だけでは十分でない」ところに来ており、「サステナビリティを実行するためのかけがえのない取り組み」として、バリューチェーンの隅々にまで目を行き届かせていることを強調した。

例えば、ボルボのガソリン車は1台につき2万8000個のパーツで構成される。そのパーツは900のサプライヤーが素材を提供し、2800のサプライヤーが製造過程に関わっているという。不動氏は、「私たちはそのすべてに対して責任があるので、ESGの観点でそれぞれをしっかり評価している」と説明。具体的にはバッテリーに使うコバルトを挙げ、「労働法や環境保護の観点が発展していない国で採取されるケースが多い。倫理的なビジネスを進めるため、コバルトがどう採取されて、どういう過程で加工され、どうやって我々の手元に届けられているか。ブロックチェーンの技術を取り入れ、トレーサビリティをしっかり実行している」と述べた。

エシカルを語る上で欠かせない多様性

一方、「エシカルの領域を語る上で欠かせないテーマ」(末吉氏)に多様性がある。この点について、不動氏は「ボルボグループのシニアリーダーは女性比率が34%、ボルボ・カー・ジャパンのマネジメントは女性が50%だ」と具体的な数字を示した。福利厚生面で、育児休暇はグローバル全体で勤続1年以上の従業員に80%の基本給を最大24週間まで、性別を問わず、「父母養父母もしくは同性カップルのすべてを含めて提供することを約束している」という。

さらに不動氏は組織の柔軟性にも話を進め、「社内はフラットな組織になっている。実はタイトルを廃止した」ことを明らかに。その意味合いを「マネジャーやリーダー、課長、班長などのタイトルにこだわって仕事をするのではなく、目的で仕事をしようということだ」と話し、組織の変革に向けた機会の創出に力を入れていることを強調した。

末吉氏

末吉氏は「日本の消費者がこれからさらに変わっていくと思う」として、エシカル協会が実施したアンケート調査を例に挙げた。それによると、「エシカル消費を今後してみたい」と回答した人は7割近くに達している。若い世代では、“エシカル就活”という言葉も使われていることから、末吉氏は、「倫理的なビジネスをし、多様性が担保されている企業に勤めたいと思う人が増えている。そこに市場のポテンシャルがある」などと述べ、倫理的な責任あるビジネスが、企業の持続可能性にも関わる問題になっていることを提起した。

経済や社会の環境が目まぐるしく変化する中で、その時々の要請に応えながら、100年近い歴史を紡いできたボルボ。不動氏は「これからも短期的な視点ではなく、もっと先を見て、持続的な社会に向けて」、企業活動を継続していくことへの決意を語り、最後は先駆者という自覚を言葉に載せて、「気候変動に対しても、我々はリーダーとしての責任を持って、自動車メーカーの枠にとどまらずパイオニアでいたい」と力強く宣言した。

ボルボのストーリーには、「真摯(しんし)にエシカルと向き合い、その価値を伝え続けていくことの大切さがある」と末吉氏は総括し、セッションを終えた。

依光 隆明 (よりみつ・たかあき)

高知新聞、朝日新聞記者を経てフリー。高知市在住。環境にかかわる問題や災害報道、不正融資など社会の出来事を幅広く取材してきた。2023年末、ローカルニュースサイトを立ち上げた。