サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

ポストSDGsは「18番目のゴール」の設定から始まる

  • Twitter
  • Facebook

第6回未来まちづくりフォーラム

「サステナブル・ブランド国際会議2024 東京・丸の内」と同時開催された「未来まちづくりフォーラム」。ここでは2024年を「ポストSDGs検討元年」と位置付け、白熱した数々のセッションを展開した。最終日となる2月22日は「SDGs達成への折り返し地点現状と今後の展望」をテーマにクロージングセッションを実施。企業や大学、自治体関係者など4人のパネリストを迎え、危機的状況にあるSDGsの達成について「日本の果たせる役割や可能性」を探った。

アフタヌーン プレナリー

ファシリテーター
笹谷秀光・未来まちづくりフォーラム 実行委員長、千葉商科大学 教授、サステナビリティ研究所長
パネリスト
有馬利男・一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)代表理事
太田 昇・真庭市長
橋本隆子・千葉商科大学 副学長
岡田晴奈・ベネッセホールディングス サステナビリティ推進本部 常務執行役員

笹谷氏

ファシリテーターを務めた未来まちづくりフォーラム実行委員長の笹谷秀光氏はまず、SDGs元年となった2015年を「193カ国の合意を得るという意味では(大きな紛争や政権による影響を受けない)エアポケットのような年だった」と振り返った。2030年の目標達成を目指している “今” を折り返し地点と捉え、「これから重要な局面に突入するが、2024年を『ポストSDGs検討元年』として議論を始め、SDGs万博と言われる2025年大阪・関西万博で日本の取り組みや姿勢を発信し、2027年のSDGs見直しに備えよう」と呼び掛けた。

「SDGsの理解度」を上げていくことが不可欠――GCNJ

有馬氏

国連グローバル・コンパクトは、健全なグローバル社会を築くための世界最大のサステナビリティイニシアチブであり、「人権」「労働」「環境」「腐敗防止」に関わる10の原則に賛同する世界約160ヵ国、1万7500を超える企業・団体が参加している。

GCNJで代表理事を務める有馬利男氏は、SDGsの世界的な進捗状況について、2023年の中間レビューを基に状況を報告した。SDGsインデックス145のうち、順調なのは15%であり、軌道を外れているものが48%、後退・停滞しているのが37%だと説明。グテーレス国連事務総長の「このままだと、SDGsという言葉は墓場に刻まれる言葉になりかねない」という言葉を引用し、「つまりSDGs達成は危機的状況にある」と訴えた。

GCNJは2016年以来毎年、加盟している日本の企業・団体を対象に、SDGsへの取り組み進捗を調査している。有馬氏は2021年と2022年の結果を比較したグラフを示し、SDGsの「目標3健康と福祉」以外の項目は重要度が増している結果だったと説明した。

従業員数別の詳細な調査では、「目標達成を役員報酬につなげること」はGCN本部で重視しているが、日本の大企業では低いスコアになっているという。また中小企業は、経営課題としてSDGsを掲げているが、その実績開示やKPI設定などの実践が伴っていないと指摘。「日本の99.7%が中小企業と言われている中、中小企業の取り組みが非常に重要であると言える」と有馬氏は強調した。さらにSDGsの認知度に触れ、認知度は非常に高いものの、「本質的な理解度」が極めて低いため、特に一般生活者や中小企業の意識変革が必要だと指摘した。

最後に有馬氏は、日本は「目標5ジェンダー・平等」の取り組みが遅れており、性別役割と分業意識が停滞していると欧米の専門家から指摘を受けていること、また「目標13気候変動」では、再エネコストや技術開発で世界とギャップがあり、石炭火力に頼っていると海外の専門家やNGOから不信感を持たれていることなどを課題として挙げた。

「地域の資源」で地域の付加価値を上げ、誇りを守る――真庭市

太田氏

続いて、SDGsに先導的に取り組む自治体として、岡山県真庭市の太田昇市長が登壇した。2015年に稼働したバイオマス発電所を、「廃棄物だった間伐材を活用し、山を守って河川の氾濫を防ぎ、さらに財を生み出した。環境にも経済にも貢献できている」と紹介。この発電所によりエネルギー自給率が11.6%から32.4%になったり、処分費が1億円以上かかる未利用木や産廃処理物が、資源として有価で取引しているなど、効果を挙げている。だが一方で発電単価の高さが課題であり、技術力による解決の可能性を探っているという。

また、画期的な取り組みとして注目されている2024年に本格稼働する「生ごみ等資源化施設」は、生ごみと糞尿などを混ぜることで発生したガスで発電を行い、濃縮したものを農業の濃縮バイオ液肥として活用するものだ。そのため全市で生ごみを資源として収集し、一方で燃焼させる必要のあるごみは処理料金を上げるという。可燃ごみの量を削減するとともに、循環型の低コスト農業実現を目指す。太田市長は「地域の資源を使い、地域の付加価値を上げることで、市民の誇りを守りたい」と力強く語った。

それぞれが 『ハートウェア』 の構築を――千葉商科大学

橋本氏

「SDGs推進には、トップのリーダーシップとボトムアップが重要。真庭市はそれを体現している」と述べたのは千葉商科大の橋本隆子副学長だ。同大学では原科幸彦学長がリーダーシップを取り「自然エネルギー100%」を目指して、国内の大学で最大規模の太陽光パネルプラントを設置している。

橋本氏はSDGs達成には、ハードウェアとソフトウェア、そして学生がSDGsを自分事と捉え、自分たちで展開するという『ハートウェア』の構築が重要だとし、「大学にはリスクを恐れず試行錯誤できる土壌があるからこそ、私たちも学生も学びの中で引き続き挑戦し続けていきたい」と話した。2021年に、「自然エネルギー大学リーグ」を設立し、広島大学など10校と自然エネルギー 100 %を目指す大学を増やすことを目指している。

また、自身が人工知能の研究者であることからAI活用のリスクに触れ、「AIはサステナビリティなどさまざまな分野で貢献する一方で、AIを使う人間とAIに使われる人間という、新たな階層社会ができている」と指摘。そうした社会に重要なのは「倫理」だと強調し、「AIを利用する人間に倫理的な教育を行うことに力を入れていきたい」と語った。

ポストSDGsは経済と企業理念のバランスが不可欠――ベネッセホールディングス

岡田氏

企業パネリストとして登壇したベネッセホールディングスの岡田晴奈・常務執行役員は、ポストSDGsは「経済性と理念における高レベルのバランスが不可欠だ」と指摘した。同社は、企業理念(パーパス)に「誰もが一生成長できる。自分らしく生きられる世界へ」を掲げ、社員の「社会課題の自分ゴト化」を促進するため、パーパスを中心に社会課題を語り、刺激しあう企業文化を醸成しているという。また、併せて社会課題を捉え多様なニーズに応える事業開発を行っていき、これら2つの両輪でパーパス実現を目指している。

(講演資料より)

ポストSDGsの取り組みでは、2022年に設立した「ベネッセ ウェルビーイングLab」を紹介。多様性と対話を重視し、ウェルビーイングの土台を広めることやウェルビーイングを深める活動に取り組んでいる。また社員一人一人の一生に寄り添い、その時々のウェルビーイングを叶えていくという。岡田氏は講演資料を示しながら、「今後も事業を通じて収集した知見を積み上げ、社会に還元していく」と話し、ベネッセが考えるSDGs18番目のゴールは「超高齢社会の解決」だと述べた。

パネリストによる事例紹介や意見交換を受け、笹谷氏は「SDGs4番の教育と9番の産業技術における日本の強みをどう生かしていくか、またそれをどう自分事化していくかが、ポストSDGs検討における鍵だ」と総括した。そして「サステナビリティのためのサステナビリティにならないよう、環境、社会、経済をシンクロさせ、三位一体で社会を良くしていくことを進めて行くことが今後は重要になる。その上でもうひとつの “S”、これらの取り組みを “スケール(拡大)” させていくことを目指そう」と力強く語った。(清家直子)