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気候変動対策に並ぶ、「経営課題」としての生物多様性保全

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SB国際会議2024東京・丸の内

Day1 プレナリー

気候変動への取り組みは経営課題として定着つつあるが、この1年余りで生物多様性への取り組みがそこに加わった。きっかけは2022年12月の生物多様性条約COP15で、2030年のネイチャーポジティブに向けた新たな世界目標に約200カ国が合意したことだ。2023年9月には生物多様性に関する情報開示の国際基準であるTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の最終提言も発表され、今、多くの企業が、経営課題として、生物多様性に向き合っている。(依光隆明)

ファシリテーター
足立直樹・SB国際会議サステナビリティ・プロデューサー
パネリスト
高橋正勝・花王ESG活動推進部 部長
東梅貞義・WWFジャパン 事務局長
野田治男・農林中央金庫 コーポレートデザイン部 部長

セッションは足立直樹・SB国際会議サステナビリティ・プロデューサーがファシリテーターを務め、生物多様性を取り巻く状況について、世界で自然保護を推進する立場からWWFジャパン事務局長の東梅貞義氏と、最前線で対応を進める花王のESG活動推進部部長の高橋正勝氏、そして、この分野における役割の増す金融機関を代表し、農林中央金庫コーポレートデザイン部部長の野田治男氏の3氏が登壇した。

TNFDは経営の義務であり、チャンス――WWFジャパン、東梅氏

東梅氏

生物多様性やTNFDの動向に詳しい足立氏は冒頭、「生物多様性がいよいよ経営課題に入った」とストレートに問題提起。これを受け、東梅氏は、過去50年間で世界の生物多様性の豊かさが69%減っているという資料を示しながら、「2015年にパリ協定が政治合意されたとき、どれだけの経営者が経営課題として本気に思ったか。10年が経ち、今はほとんどの経営者が経営の重要課題だと思っている」という表現で、企業が今、ネイチャーポジティブに経営課題として取り組むことの重要性を強調した。

気候変動と生物多様性の回復が経営のリスクであることは世界共通のコンセンサスが得られており、東梅氏によると、自然への影響を開示するTNFDは企業にとって、「経営の義務であり、チャンスを指し示すということ」だ。

現地に根ざした課題解決に一緒に取り組む――花王、高橋氏

高橋氏

自然資源の回復に向け、企業はどのように取り組んでいるのか。高橋氏は、「これまで環境面ではCO2排出量やプラスチック削減量に注目していたが、それだけではなく自然への依存度を見るようになった」と花王の方針を報告。洗浄剤の原料であるパーム油について、2025年までに100%、RSPO(持続可能なパーム油の生産と利用を促進するための円卓会議)認証油に切り替える取り組みを進めていることを例に、「森林破壊をしていないという証明のある原料を購入している。もう一つはトレーサビリティの確認。森林破壊をゼロに近づけたい」と説明した。

本質的な解決策としては、同社が使用するパーム油生産の40%を占め、推定200万あるとされる家族経営の小規模農園の支援に力を入れる。具体的には、専門チームによる技術指導や、認証取得の手助けなどを通じて、各農家の収入の安定につなげるよう努力している最中で、高橋氏は、「現地に根ざした課題解決に一緒に取り組んでいく」ことの重要性を強調した。

農林水産業のため、我々がやらずに誰がやる――農林中金、野田氏

野田氏

一方、野田氏は農林水産業の協同組合組織を基盤とする金融機関である農林中金を、「自然資本、生物多様性とは非常に親和性が高い」と説明。森林整備や耕作地の減少、担い手不足、漁獲高の落ち込みといった課題を踏まえ、「我々がやらずに誰がやるぐらいの気概」「農林水産業を持続可能にしていくため、バリューチェーン全体でこのテーマに向き合っていくのが我々の命題と思っている」と金融機関として生物多様性の回復に込めた意気込みを語った。

農林中金では、そのような思いから、パーパスや投融資の方針に、自然資本と生物多様性への貢献を明記。TNFDに関してはタスクフォースのメンバーに職員を1人派遣するほどに力を入れ、枠組みをつくる段階からしっかりとコミットしてきたという。

現在、TNFDの枠組みに沿った形で開示を行う意向を示している企業は全世界で320社あり、そのうち80社を日本企業が占める。これについて野田氏は、「日本の風土にも非常に合うテーマであり、今、日本が非常に熱い」と発言。今後は、気候変動対策と同じように自然資本を経営に組み込み、「気候変動と自然資本への対応を結合して考えることが必要」で、「そこにビジネスチャンスが生まれてくる。金融機関の立場からすると、お金が動く。我々としてはそこにファイナンスをつけていく。各社の取り組みもよく見ているし、しっかりと応援する」と述べた。

セッションの後半、世界の自然保護の現場を見続けてきた東梅氏は、花王が取り組む認証パーム油を推進するRSPOが始まった約20年前の状況を、原料の調達に関して、多くの企業が「商社から買っている、現地のことは知らない」というスタンスだったと振り返った。「20年後の今、それが全くなくなったわけではないが、購買担当者や環境担当者レベルの問題ではなく、経営として、5年後も10年後に買い続けられることができるのかという問題になっている」。つまり、今や生物多様性の保全は、社会貢献や自然保護といった文脈ではなく、企業が真っ向から取り組まざるを得ない重要な経営課題ということだ。

最後に足立氏は、改めて「ネイチャーポジティブは、カーボンニュートラルと並ぶ世界的な目標だ」とした上で、生物多様性の回復に向けた企業の取り組みを、「投資家やNGOなどとの協働も解決の鍵になるということを、ぜひ経営層にお伝えいただければ」と述べ、セッションを終えた。

依光 隆明 (よりみつ・たかあき)

高知新聞、朝日新聞記者を経てフリー。高知市在住。環境にかかわる問題や災害報道、不正融資など社会の出来事を幅広く取材してきた。2023年末、ローカルニュースサイトを立ち上げた。