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ワクワクする未来に向けて 進化するサステナビリティへの挑戦――サステナブル・ブランド国際会議2024東京・丸の内2日目

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SB国際会議2024東京・丸の内

深刻化するグローバルな社会課題に対して足元から解決策を探る「第8回サステナブル・ブランド国際会議2024東京・丸の内」。企業、ブランドのサステナビリティへの挑戦はさらに進化し、今年も会場のあちこちで、国境や世代、業界を超えて、多くの人たちがSBならではのネットワーキングを深める光景が見られた。ワクワクする未来に向けて、国内外の自動車メーカーのリーダーも登壇した2日目のプレナリー(基調講演)の様子を伝える。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

地球には宇宙より難しい課題が多くある

この日のオープニングは名古屋大学発のスタートアップ、「TOWING(トーイング)」でCEOとCTOを務める西田宏平氏、亮也氏兄弟が務めた。同社はNASAが宇宙探査プロジェクトで立ち上げを計画している月面基地で食糧生産を行うユニットの開発に取り組み、その技術を活用した「地球の農業をサステナブルにするプロジェクト」を実施している。

当然だが、月へ物資を輸送するにはコストがかかる。最初にマイクを握った宏平氏はその額を「1キログラムで1億円と言われている」と説明しながら、「このため、できるだけ現地で作物を作る必要がある」と月面基地での資源やエネルギーの循環の必要性を強調した。

月の砂には微生物が存在しない可能性が高く、月で農業をするには人工土壌が必要になる。TOWINGではその月の砂を、「日本初、世界初の技術」を用いて作り、2年前にはこの砂を使って有機肥料で植物を栽培することに成功したという。

ここから話を引き継いだ亮也氏は「物質を循環させながら食べ物を作ることが求められているのは地球も同じだが、地球には宇宙よりも難しい課題が多くある」と宇宙の課題を地球上の問題に引き寄せた。具体的には、『緑の革命』と呼ばれる近代農業の技術革新によって、多くの人口を支えることができた半面、その手法が、資源の枯渇や土壌汚染といった問題を生み出したことを指摘する。

では有機農業に切り替えればいいのかというと、必ずしもそうではない。亮也氏は、慣行農業に比べて有機農業が20〜34%の収量減となるメタ分析を例に、現行の有機農業では人口を賄えない可能性が高いことを示し、TOWINGが開発した土壌材の活用が「その解決策の一つとなる」と強調。最後は兄弟で「次世代の緑の革命」という言葉を使いながら、循環型、環境保護型農業に向けて「アクションを起こし続けたい」と宣言した。

お客さまを車でワクワクさせ続けたい。広島が育んだマツダのDNA

日本の自動車メーカーから満を持して登壇したのは、マツダ社長の毛籠(もろ)勝弘氏だ。広島を拠点に創業104年を迎えたマツダ。毛籠氏は、戦後の廃墟と化した広島の写真から同社最新のスポーツカーまでを映しながら、「モビリティはどこまで人の力になれるだろう」と投げかける映像をバックに、「日々前向きに、諦めずに取り組めば、人々に笑顔が戻る。先達のそういう生きざまが飽くなき挑戦、という当社のDNAを育んできた」と語り始めた。

聞き入る聴衆。話はロータリーエンジンに移り、「小型、軽量、高出力で夢のエンジンと言われた。世界中の自動車メーカーがその実用化に取り組み、断念する中、マツダは6年半をかけて世界で初めて本格的な量産化に成功した」と毛籠氏は力を込めた。

ロータリーエンジンは環境エンジンとなる可能性も高く、1990年から水素を燃料とする実証実験に取り組んだことにも言及。扱いにくい水素もロータリーエンジンならばコントロールしやすい。「ロータリーエンジンは官能的なスポーツカーで人気が根強いが、CO2を全く出さない究極の環境エンジンの可能性も秘める。ジキルとハイドの二面性を持ったその魅力に私たちは魅了され続ける」。車を愛するトップらしい表現でロータリーエンジンへの憧憬(しょうけい)を語った。

次にカーボンニュートラルについて、「当社も2030年にすべての車を電動化する」と宣言。返す刀で「電気自動車がすべてを解決するのか」と投げかけた。資源の採掘から廃棄までのライフサイクルでどうなのかという問題だ。「化石燃料への依存度が高い日本の例で申し上げると、再エネ電力がない場合は車に充電する電気はCO2を排出して作られている」。ライフサイクル全体でのCO2排出量は、電気自動車とハイブリッド車がほぼ同じというデータを示し、「当社はマルチソリューションというアプローチをとっている」と話を進めた。電気自動車、クリーンディーゼル、プラグインハイブリッドなど、多様なソリューションで顧客の選択の自由を確保する戦略だ。「技術は絶えず進化する。時代に適合した最適かつ多様なソリューションを提供する」と。

最後、毛籠氏が強調したのは「走りの楽しさ」だった。「私たちは走る歓び、その価値を電動化の時代になっても提供し続けたい」としてスポーツタイプのコンセプトカー「MAZDA ICONIC SP」を画像で披露。「前向きに今日を生きる人の輪を広げる」と定めたマツダのパーパスを紹介し、「お客さまの今日が前向きな一日であってほしい。お客さまを車でワクワクさせ続けたい」と結んだ。

ボルボは人の安全、地球上の安全を同時に考えている

自動車メーカーからは、ボルボ・カー・ジャパンの不動奈緒美氏も登壇。「ボルボをご存じの方、いらっしゃいますか?」と笑顔で語りかけながら、「ボルボは運転をする人、そしてその周囲の人の安全を考えるだけではない。この地球上の安全も同時に考えている」とそのスタンスを説明した。

ボルボの歴史について、不動氏は、「約100年前に2人の若者が創業した」と紹介。そのときから定着する言葉として、「クルマは人によって運転され、使用される。したがって、ボルボの設計の基本は常に安全でなければならない」を挙げた。その言葉通り、1959年に3点式シートベルトを開発し、特許を無償公開したという。

そして、「何十年も前からボルボは環境破壊を認識し、できることをしたいと思い続けてきた」と強調。カーボンニュートラルに関しては、ボルボも「2030年までに電気自動車の比率を100%にする」方針で、「2040年までにクライメート・ニュートラルな企業になる」と言い切った。すでに2021年には本社工場を、2023年には世界の全工場をクライメート・ニュートラルにしている。

スピーチの最後はサステナビリティを追求した最新EV車EX30について触れ、アルミが25%、スチールとプラスチックがそれぞれ17%と、「最高のリサイクル素材利用率を達成した」ことを明らかに。「日本にぴったりのサイズ。もちろん安全。デザインはキュート」とアピールした。

政府任せではなく、決意を持って、今、企業が行動を

外資企業からはSouth Pole Japan代表取締役のパトリック・ビュルギ氏も登壇。長年、気候変動に特化したソリューションを国内外の企業に提供してきた同社の実績をもとに、「政府任せではなく、決意を持って、今、企業が行動をしないといけない」と力説した。なぜなら、企業が自ら行動することで、気候変動によるサプライチェーンへの影響といった負の側面だけでなく、「競合他社との差別化や環境意識の高い顧客へのアピール、さらには若くて優秀な人材の獲得にもつながる」からだ。

具体的には、気候変動対策に不可欠な5つのステップとして、1.排出量とリスクの測定、2.直近と長期の目標設定、3.再エネや省エネによる排出量の削減、4.カーボンクレジット購入などの投資、5.成果の発信―を紹介。その際、昨年11月に発行された国際規格「ISO14068」を活用することで、グリーンウオッシュといった批判に対処し、信頼性を高めるよう提案した。

「気候変動は人類が直面する最大の課題だ。今は負担としか見えていないかもしれないが、ソリューションの機会になる。未来は今、我々が何をなすかにかかっている」

デンマークの老舗食肉メーカーが語る気候変動緩和への責任

またこの日は、デンマークの食肉加工の老舗企業、ダニッシュ・クラウンから、グループ サステナビリティのバイスプレジデントを務めるモーテン・ピーダーセン氏が、ビデオで登壇。チューリップ(TULIP)のソーセージブランドでも知られ、世界各地に拠点を持つ同社のCO2排出量の93%がスコープ3の農場に集中していること、その問題を解決するため、気候変動トラックと呼ばれるプログラムを立ち上げ、ESGの課題に沿って、農家を支援していることを報告した。

環境分野では、炭素削減と生物多様性の回復、動物福祉、バイオセキュリティなどに取り組み、炭素削減に関しては、多くの農家のデータを測定し、緩和計画を共に立て、進捗状況を追跡している。デンマークの在来豚用、牛用、スウェーデンの豚用、放し飼いの豚用など15種類のロードマップがあり、ソーセージなどの加工製品が生産された現場や農場を特定し、正確なカーボンフットプリントを計算できる強力なモデルも構築しているという。

その理由についてピーダーセン氏は、「消費者がスーパーマーケットに行った時、気候変動を緩和し、改善するためにはどうすれば良いかという観点から、積極的に商品を選択できるようにするために、データを提供する必要があるからです」と、食肉メーカーとしての責任を強く語った。

インパクトを貨幣価値に換算して可視化する狙いは

企業活動が環境や社会に与えるさまざまなインパクトを貨幣価値に換算して可視化する狙いはどこにあるのか。2日目のプレナリーでは、サステナビリティのアングルから企業財務の方向性について専門家が語り合うセッションもあった。

企業戦略を支援する側から、グローバルコンサルファーム、EY Japanの気候変動・サステナビリティサービスでプリンシパルを務める牛島慶一氏と、シニアマネージャーのデビッド・フライバーグ氏の2氏が、投資家の側から、ESG投資の運用会社である、シブサワ・アンド・カンパニー代表取締役の渋澤健氏が登壇。

ハーバード・ビジネス・スクールが提唱する「インパクト加重会計」について、「それをやることによってビジネス上の意思決定をもっと効果的に行うことができる。ビジネスのモデルをきちんと伝え、検証できる」(フライバーグ氏)、「官と民、さまざまな主体が目指す姿を共通化していきながら、それぞれの役割を果たしうる」(牛島氏)、「企業の意識改革につながればいい。また情報開示しなくてはいけないのか、というのでなく、企業が主体性を取り戻し、投資家と対話することが重要だ」(渋澤氏)などと意見を交換した。

グローバル企業が語る 真のサステナビリティ経営を実現させる工夫

2日目のプレナリー最後に行われたディスカッションのタイトルは、ずばり「SXへの挑戦〜真のサステナビリティ経営をいかに実現させるか〜」。田中信康・サステナブル・ブランド国際会議ESGプロデューサーがファシリテーターを務め、花王のESG部門ESG戦略部部長の大谷純子氏、日本マクドナルドのサステナビリティ&ESG部部長の牧陽子氏、アシックスのエグゼクティブアドバイザー、吉川美奈子氏の3氏が登壇。グローバル企業がサステナビリティ経営を実現する上での課題や工夫をそれぞれの立場から語った。

大谷氏は「今も現場で試行錯誤している」と吐露しつつ、「豊かな共生世界の実現」という企業理念がサステナビリティ経営のポイントになっていると説明。中期経営計画「K27」では「持続可能な社会に欠かせない企業になる」を掲げ、社長が旗振り役となって推進、「ボトムアップとトップダウンの融合に挑戦している」という。

牧氏は「究極的にはサステナビリティの担当者は要らないのが理想の姿」と実感を込めて述べ、社員全員が自分事としてサステナビリティに真摯(しんし)に取り組む重要性を主張した。グローバルとローカルの関係については、「環境においてはグローバルのトップダウンで、社会においてはローカルの主体の課題に主眼を置いていく」と説明。バイオマス素材のレジ袋を有料化する方針も、日本の諸事情によりローカルルールとして認められたという。牧氏は「各マーケットのローカルな事情や慣習を熱心に伝えて、それを認めてもらうことも目的に向かって先に進める一つではないか」と力説した。

吉川氏はサステナビリティ推進の上で「大きくワークした」事例として、CO2排出量が世界最少のスニーカー開発を紹介。「CO2排出最少スニーカーを作る」と現場から意見が上がると、不確実性が非常に高いものだったにも関わらず、経営層が認め、難局を一緒に乗り切って実現させた。COP28でも紹介されるなど話題となったこの製品化を通じて、「社員がサステナビリティを自分事化するところに戻っていく。そして自分事化できた人がアンバサダーとなって、次の自分事化が起こっている」と笑顔で語った。