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児童労働の撤廃目指し活動25年。ACEがガーナの支援地域のカカオでつくったチョコレートに込めた希望

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チョコレートの背景にある児童労働の撤廃を目指して活動するACEが設立25周年に合わせてつくったチョコ。ガーナの支援地域で生産されたカカオを100%使い、希望を意味する“ANIDASOƆ-アニダソ”と名付けた

今年もやってきたバレンタインデー。今でこそ、大切な人や自分へのご褒美にチョコレートを選ぶとき、何よりも商品そのものや製造過程がサステナブルであることを基準にする人が多いだろう。原料のカカオは森林伐採や児童労働など、環境や人権に多くの問題を抱える。その主要な生産地であるガーナで、子どもたちが危険な労働を強いられることなく学校に行けるよう支援を続けてきた国際協力NGOのACE(エース)が、設立25周年を記念してつくったスペシャルなチョコに込められたストーリーを届ける。(廣末智子)

その名は、ガーナで使われるチュイ語で“希望”を表す“ANIDASOƆ (アニダソ)”。ガーナの子どもたちが一人でも多く児童労働から解放され、希望の光が輝くように、そしてチョコを味わう人の希望が叶うように――という意味合いから名付けられた。最後の、Cを反対にしたような“Ɔ”は、英語のアルファベットにもないチュイ語独特のもので、パッケージのデザイン的にもとてもおしゃれだ。

1997年に大学生5人で設立 ガーナの622人の子どもを児童労働から救う

ACEは、子どもの権利保護、なかでも児童労働の撤廃と予防に取り組むNGOで、現在、副代表を務める白木朋子氏ら、当時、大学生だった5人が1997年に設立した。当初の目的は、インド人の人権活動家であり、2014年にノーベル平和賞を受賞したカイラシュ・サティヤルティ氏の呼びかけで、1998年に世界103カ国で行われた「児童労働に反対するグローバルマーチ」を日本で実施することだったという。

設立以来、子どもたちが危険な労働を強いられて学校に行けないでいる状況を変えようと、民間や行政に働きかけを続け、2009年からは日本がカカオの約7割を輸入するガーナで児童労働をなくすための取り組みを息長く続けてきた。それが「スマイル・ガーナ プロジェクト」だ。

支援するガーナ南部アシャンティ州の村で子どもたちと触れ合う白木氏(後列左から4人目。2010年10月)

カカオ豆はほとんどが家族単位の小規模農家によって生産され、子どもたちは刃渡りの大きななたを使った開墾や下草刈り、収穫した大量の実を頭に載せて運搬するなど、危険な労働に従事させられる。2020年のシカゴ大学の調査によると、その数は77万人にのぼる(うち約9割は危険有害労働に該当)という。

ガーナでカカオを収穫できるのは南部で、農業ができない北部や隣国のブルキナファソなどから移住してくる家族も少なくない。最悪の場合は子どもが家族と引き離され、労働者として連れて来られるケースもある。これは人身取引にあたり、国際条約やガーナの国内法でも固く禁じられているが、実際には後を絶たない。

こうした現状を少しでも改善し、カカオ農家が経済的に自立できるよう、プロジェクトは、ガーナの中でもカカオの収穫量が多い、南部の12村で実施。児童労働をさせられている子どもを見つけたら家庭訪問をし、子どもが学校に行けるよう対策を促す一方、農園経営の方法やカカオの有機栽培技術などについても研修を行い、村全体で児童労働を予防し、是正する仕組みを行き渡らせる努力を続けてきた。

その結果、プロジェクトを通して、622人の子どもたち(2023年8月時点)を児童労働から解放することができた。

共に歩んだ企業や専門家らと協働 たくさんの特別が詰まったアニダソ

“ ANIDASOƆ (アニダソ)”は、ACEが設立25周年の節目に合わせ、これまでにスマイル・ガーナ プロジェクトを行ってきた地域で生産されたカカオを100%使用したチョコレートだ。毎年バレンタインデーにはカカオ生産地での活動支援につながるチョコレートの購入を呼びかけながら児童労働の現状を伝えてきたACEだが、アニダソにはたくさんの特別が詰まっている。

その一つは、ブロックチェーン技術により、生産地までのすべてのサプライチェーンをたどれること。テクノロジー企業、UPDATER(東京・世田谷)の協力・協賛で、産地からチョコレートになるまでの道のりを可視化。製品パッケージのQRコードから、アニダソの特設サイトを経由して、生産過程に携わった企業や団体の情報を網羅したウェブサイトを見ることができる。

それらのサイトに詳しく載っているように、アニダソは、ACEの活動に賛同し、共にプロジェクトを進めてきた企業や専門家らとの協働があって初めて実現した。

原料となるカカオを支援地域から限定して仕入れることができているのは、2013年ごろから「産地を指定してカカオ豆を購入する」という、フェアトレードの中でも難易度の高い取り組みに一緒に挑戦してきたカカオ専門商社、立花商店(大阪市)によるところが大きい。

そして、フェアトレードによるサステナブルなチョコレートであることが大前提とされる昨今、もちろんそれだけではチョコは売れない。いちばん重要な味をはじめ、コンセプトやパッケージについてはチョコレートジャーナリストの市川歩美さんの監修のもと、企業や専門家の協力で試行錯誤を重ねた。隠し味にはクラウン製菓(東京・江戸川)の提案で八丁味噌を入れることが決まり、カカオ分の高い、絶妙な味わいのダークミルクチョコレートに仕上がったという。

1枚1296円のうち500円は、ガーナのカカオ生産地に寄付

価格は1枚1296円(税込)で、このうち500円がガーナのカカオ生産地での活動費として寄付される。昨年12月から東京や大阪の一部店舗のほか、渋谷スクランブルスクエアのc7h8n4o2(チョコガカリ)ショコラナビなどのオンライン店舗で販売し、好評を得ている。予定販売枚数は4000枚で、完売すると合計200万円の寄付金がガーナに送られる。

アニダソに込めた思いを、白木氏は、「チョコレート好きやフェアトレードの世界だけじゃなく、もっと広い世界に羽ばたいてほしい。アニダソはプレゼントをするほどに情報が伝わっていくツールでもある。アニダソを通じてACEだけではつながれない世界の人たちとつながり、チョコレートの背景にある児童労働の現実をもっと多くの人が知って、応援や協力が広がれば、それだけ活動を進めることができる。アニダソがたくさんの人の活動の入り口になってほしい」と語る。

ACEは、立花商店との話し合いで、原料となるカカオをピンポイントでガーナの支援地域に絞って調達・販売することは今回で最後にすることを決めている。なぜなら、ACEの理想は、「一般のカカオ豆すべてが児童労働に頼らずに作られ、流通するようになること」であり、立花商店としても「ACEの活動地域という狭い範囲ではなく、もっと幅広くカカオ産地に利益を還元していきたい」という思いがあるからだ。

「『ACEの活動地域』にこだわって原料を輸入し、チョコレートを作るよりも、生産地から一人でも多くの児童労働をなくす仕組みを作って広げていくことのほうが、私たちにしかできないことだという結論になりました」(白木氏)

実際にここ数年、企業がそれぞれの方式でサステナブルなカカオ豆を生産・調達し始める変化は確実に広がっている。それでもチョコレートの背景にある児童労働の全面的な解決にはまだ道のりは遠い。

ACEでは2012年に製作した、映画「バレンタイン一揆」を今年もバレンタインに合わせ、2月18日まで、個人視聴用に限定公開中だ(高校生以下無料、大学・大学院生500円、それ以外は1000円)。ACEの設立を思わせるような、ガーナでの児童労働の現実に向き合い一歩を踏み出した日本人の女の子たちの奮闘を描く内容。アニダソを味わいながら、鑑賞してはどうだろう。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。