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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

不安定な時代に『分散する生き方』を――社会起業家、石山アンジュさんが提唱

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生活の拠点の一つ、大分・豊後大野市では自ら稲作も行う。収穫時には友人を招いて稲刈りを楽しんだ(後列左から2人目が石山氏)

ウクライナ侵攻にパレスチナ紛争と、世界の平和が大きく揺らぐなかで始まった2024年。日本では、元日から能登半島地震の大災害が起き、つらく厳しい幕開けとなった。先の見えない物価高騰や、人ごとではない自然災害への不安など、誰もが「リスクとの共存」を前提とした社会に生きていると言えるだろう。
一方で、急速な社会のデジタル化を背景にリモートワークが普及し、多くの人が場所にとらわれない働き方や暮らし方を選択している。そうしたなか、ひとつの場所に縛られず、幾つもの帰る場所を持つ“多拠点ライフ”の実践を通じて『分散する生き方』の大切さを説く、石山アンジュ氏の著書「分散する生き方 多拠点ライフ」から、不安定な時代を生き抜くヒントを探った。(廣末智子)

月のうち10日は大分の古民家で、別の10日は東京の“拡張家族”と

朝は鳥たちのさえずりで目覚め、コーヒーを淹れて庭に出てゆっくりと遠くの山を眺めながら大きく深呼吸。「おはよ〜」と集落のおばあちゃんが収穫したばかりのお裾分けをもってきて、古民家の縁側でお茶を飲んでいく。

古民家の縁側でご近所さんとおやつのひととき

ここに描写されている風景は、石山氏の拠点の一つ、大分県豊後大野市の、山に囲まれた集落にある築90年の古民家での朝の一こまだ。毎週木曜の朝にはテレビのニュース番組のコメンテーターも務める石山氏。1カ月のうち10日はここ大分で、10日は、東京・渋谷にあるシェアハウスCift(シフト)で“拡張家族”とともに暮らしている。

東京の「Cift」で“拡張家族”たちと

石山氏によると、“拡張家族”とは、血縁や制度によらず相手を家族だと思う意識を持ちながら一緒に生活するコミュニティを指す。「Cift」には日常的に住む人もいれば、石山氏のように、もう一つの家、あるいは第3の居場所として暮らす、0歳から60代のメンバーが、全国に約110人いる。100人いれば100通りの家族観があり、「Cift」では、それぞれが「生活や人生をシェアして、対話を重ね、お互いが安心して豊かだと思える家族のあり方を模索している」という。

全国各地の“家族”の実家に滞在すれば、『家族同士がつながり、大きな家族になっていく感覚』が芽生える。1カ月のうち残りの10日は、全国各地を仕事や旅を目的に訪れ、出張でもビジネスホテルではなく、ホームシェアリングサービスairbnbなどを利用して日々を過ごす石山氏には、どこに行っても『ただいま』と言える家族がいる。

沖縄を訪れた時の“家族”と
北海道にも“父母”がいる

そんな“多拠点ライフ”を満喫する石山氏だが、著書を通じて伝えたいのは、「一極集中よりも多極分散的に生きていく『分散する生き方』という思想そのもの」だという。

『分散する生き方』『分散する社会』こそが、セーフティーネットに

『分散する生き方』とはどういうことか。
石山氏は、2016年に一般社団法人シェアリングエコノミー協会を立ち上げ、場所やモノ、スキルなど“活用可能な資産”をインターネットを通じて“シェア(具体的には、売買や貸し借りなど)”することで地域課題を解決するための取り組みを、全国の自治体や企業と一緒になって加速してきた。2019年からは地域の「関係人口」の普及拡大について議論する国土交通省の懇談会や、地方創生の中長期戦略を議論する委員会の有識者委員も務め、政策提言にも力を入れる。

香川では瀬戸内海をバックにワーケーション
大分では、気分に応じて河原で仕事をすることも

そうした活動を始めるのと時を同じくして起こったコロナウイルスによる社会の大きな変化。リモートワークは全世界で一気に普及し、場所によらない働き方をしながら世界を旅する“デジタルノマド”と言われる人たちをも生み出した。まさに働き方そのものの概念が変わろうとするなか、コロナ以前から新しいライフスタイルの選択肢として多拠点ライフを提唱してきた石山氏は、「多拠点ライフを通じた『分散する生き方』と『分散する社会』こそが、不安定な現代において個人の不安を少しでも取り除き、安心できるセーフティーネットになりうる」という思いを強くしていく。

石山氏の言う、『分散する生き方』とは、「家も仕事もコミュニティも、人生に必要だと思うモノを『複数・同時に持つ』といった生き方」のことだ。大量生産・大量消費の時代は終わり、家を所有していなくとも、全国に「ただいま」と言える家が複数ある、複数の収入源がある、何かあったら助けてくれるつながりやコミュニティがいくつも分散してある――という状況にあれば、人は緩やかに生きていける。自然災害や戦争、感染症など、社会の機能が一瞬にして崩れてしまうような有事がいつ起きてもおかしくないからこそ、「積み上げたものを失う心配をするよりも、常に他に選択肢があることで『何があっても大丈夫』と思える」と、著書の中で石山氏は繰り返し説く。

「新自由主義経済では常に『自立』することが求められ、自分を守るためには、すべて自分でなんとかしないといけないといった個人主義が、何かあった時のために積み上げておかないといけないという考えを生み出しました。それが私たちが生きづらくなっている要因だと私は考えます。自立よりも、大変だからこそシェアして支え合う、『共立』という視点も大事ではないでしょうか」

多拠点ライフは分散型社会をみんなで共創していくことができる希望

田植えは大変だが、それ以上に楽しく、やりがいがある

さらに石山氏は、個人の生き方にとどまらず、「多拠点ライフの推進は、分散型社会に移行するための解決策としての希望だ」と強調する。

人・モノ・カネが1カ所に集中する都市集中型の社会モデルが、地方の過疎化や少子高齢化、都市の地価高騰や交通渋滞、大気汚染や廃棄物増加など、さまざまな弊害を引き起こしてきたことはかねてから問題とされ、多くの知識人や専門家らが、社会の中で人口や経済、社会インフラの機能を分散する、「分散型社会」への移行を提唱してきた。

しかし、それが今まで実現されなかった理由を、石山氏は、「都市から人が離れる以上の理由と選択肢が増えなかったこと、離れるには制約が大き過ぎたからだ」と分析する。分散型社会を実現するには、「まず人が地方に流れ、時間を過ごすこと」が第一であり、コロナ禍を経て今やっと、そのパラダイムシフトが起こっているのだという捉えだ。

「一人ひとりのライフスタイルが分散していけば、各地の地域経済・活力・魅力が再び、新しい形で再生されていく。働き方や暮らし方の制約から解放される多様な選択肢が出てきた今だからこそ、分散型社会をみんなでつくっていくことができる時代になったのではないでしょうか。多拠点ライフはそういう分散型社会をみんなでワクワクしながら共創していくことができる希望なのです」

石山アンジュ氏

2月21、22日に開かれる「 サステナブル・ブランド国際会議2024東京・丸の内 」は、つながりが深まる世界において、グローバルな社会課題を解決するには、まずはローカルレベルで足元から取り組むことが必要だという意味を込めた、「リジェネレイティング・ローカル(REGENERATING LOCAL)――ここから始める。未来をつくる。」をテーマとする。
多拠点ライフを通じて『分散する生き方』や分散型社会を実現していくことは、リジェネレイティング・ローカルについて考える上でも一つの大きなヒントになるだろう。

石山氏は、同会議と同日、開かれる「 未来まちづくりフォーラム 」のスペシャルパネルディスカッション、「未来の世界と日本のデザイン~ESGの本格化、VUCA時代をどう乗り越えるか~ーwell-beingの実現と人的資本への対応ー」に、ファシリテーターとして登壇する。


『分散する生き方 多拠点ライフ』は、2023年8月、クロスメディア・パブリッシングから発行(発売:インプレス、定価:本体1480円+税)。

石山氏自身の考えのほか、“今すぐ多拠点ライフを始める入門ガイド”として、定額制で全国270カ所以上ある家に住めるサブスクリプションサービス「ADDress」や、国内外約2000のホテルに滞在できる「HafH」、都心から近い自然の中にもう一つの家を持てるセカンドホーム・サブスクリプション「SANU 2nd Home」など、さまざまなプラットフォームが具体的に紹介されている。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年10月からSustainable Brands Japan 編集局デスク 兼 記者に。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。