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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

循環型のイノベーションを進めるために欠かせない、協働するエコシステム

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SB国際会議2023東京・丸の内

Day1 ブレイクアウト

加速する気候変動への対応や、循環型社会の実現など、企業が対応すべき課題がこれまでとは大きく変わってきている今、サステナブルなイノベーションを進めるにあたって必要となる新たなビジネスモデルとはどのようなものだろうか――。本セッションに登壇する3社は保険業にリユース業、化学品メーカーと、分野も業態も全く違うが、それぞれに他業種の企業や研究機関と協働して循環するエコシステムを構築している。それらの実例を通して、エコシステムをつくる上での課題や重要なポイントを議論した。 (環境ライター 箕輪弥生)

ファシリテーター
山吹善彦・サンメッセ/サンメッセ総合研究所(Sinc)副所長
パネリスト 
寺崎康介・MS&ADインターリスク総研 リスクマネジメント第三部 サステナビリティ第一グループ グループ長・上席研究員
堀内康隆・ブックオフグループホールディングス 代表取締役社長
六田充輝・ダイセル 執行役員 事業創出本部 本部長 兼 バイオマスイノベーションセンター長

気候変動や生物多様性のリスクと機会を研究機関と分析し、企業をサポート―MS&ADインターリスク総研

寺崎氏

最初に登壇したのは、MS&ADインターリスク総研の寺崎康介氏だ。同社は三井住友海上火災など損害保険会社のグループ会社として、気候変動や生物多様性、自然資本のリスクなど、どこにどんなリスクがあるのか見つけ、発現を防ぎ、影響を緩和する、または経済的な負担を減らすといったリスクマネージメントを行う。

具体的には、気候変動によるリスクを、世界の平均気温が産業革命前から4度上昇した場合には500年に一度起こる洪水の浸水が何メートルに達するかというように、河川の洪水や高潮、豪雨や山火事、干ばつなどの災害ごとに定量化するサービスなどを通じて、企業のニーズに応えている。これらのデータは金融機関の融資や投資のポートフォリオにも使われ、昨今ではTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)やTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の提言に沿った企業の取り組みをサポートするケースも多い。

そうした気候変動や自然資本のリスク分析を、同社は琉球大学発のベンチャー企業や芝浦工業大学や東京大学の専門的知識を持つ組織との協働で行ってきた。さらに昨年11月には三井住友フィナンシャルグループとの間で、自然資本と気候変動分野における提携を発表。それぞれの専門性やネットワークを活用して協業を深めるなかで、「ネイチャーポジティブコンソーシアム(仮称)」を設立し、そこではネイチャーポジティブ実現のためのソリューションを持つ企業や研究機関、研究者が集まり、自然資本に関わる課題解決に向けた調査や研究をさらに深めるという。

寺崎氏は「TCFDやTNFDといった枠組みは道具にしか過ぎず、ただテクニカルに対応するのでは本来の目的からずれてしまう。そうではなく、それぞれのリスクや機会を全社の戦略や意思決定に組み込んでいくかが大事であり、保険会社としてそうした本来のあり方に有機的につなげていきたい」とする考えを示した。

不要なものを価値につなげるビジネスモデルを海外にも広げる――ブックオフグループ

堀内氏

次に登壇したブックオフグループホールディングスは、国内に790店舗をもち、書籍だけでなくあらゆるもののリユースを推進する小売り企業だ。書籍の再販売は良く知られているが、実際の販売割合では書籍は3割を切り、ファッション・スポーツ用品や家電・生活雑貨などが31%、ソフトが26.2%、カードゲーム・ホビーが13.3%という販売構成だという。

このうち国内で販売できなかったものは、マレーシアなどの海外店舗での販売も始めた。こちらも需要が高く、年間2600トンを販売する実績をもつ。
さらに、国内事業者との連携により、買い取り後に一定期間販売に至らなかった書籍をリサイクルして作られた古紙からプライベートブランド商品を作ったり、販売できなかったCDを再生プラスチックにするなど、資源の循環にもチャレンジしている。

同社社長の堀内康隆氏は、「集まるすべてのものに価値があるとみなして回収し、従来は廃棄物として処理していたものをグローバル展開やパートナーシップによって再資源化し、CO2の排出抑制にも貢献している。リユース業界に限らず、物が残っている場所、集まる場所にアプローチし、経済活動をより大きく広げていきたい」と展望を語った。

化学技術でエコノミーとエコロジーを両立させる循環を構築――ダイセル

六田氏

最後に登壇したダイセルはメディカルヘルスケアからプラスチックまでの製造を扱う大手化学品メーカーだ。100年以上前から木材を主原料とするセルロイドを生産する企業としてスタートし、今ではセルロース化学、有機合成化学、高分子化学など事業領域を大きく広げている。

同社執行役員の六田充輝氏は、「石油由来ではないプラスチックであるセルロイドを開発してきた原点を忘れずに、今はより効率的に省エネで自然に負荷をかけない原材料を入手することを目指している」と説明。具体的には、大学の研究機関などとも連携して木質素材から、循環する新しいバイオマスプロダクトツリーを構築し、今までなかった新しい素材を作り出している。

そこでは例えば、バイオディーゼルの廃棄物をケミカルリサイクルすることで、タイヤに使われるゴムの原料となる気体をつくるなど、「エコノミーとエコロジーを両立させる」(六田氏)ための化学技術を進化させているのが特徴だ。

志を同じくするパートナーを見つけ、バトンを渡していく

山吹氏

ファシリテーターの山吹善彦氏は3社の実例を聞いたうえで、イノベーションのためのエコシステムを機能させるために重要なポイントや課題を問うた。

ブックオフの堀内氏は「何を目指しているか、志を同じくするパートナーを発見することが重要で、自分たちの利だけを考えると実現しない」とした上で、「経営としても腹決めをして粘り強くやっていくこと、時間をかけて取り組んでいくことが大きな課題だ」と決意を表明。

MS&ADインターリスク総研の寺崎氏は「大学などの研究機関との協業では、研究だけでなく、社会実装のためにこういうことが必要なのだと同じ方向を向いてもらうことが必要」と強調し、「これまで気候変動に関する研究では、企業が使うことは想定していなかったが、今はニーズが増加していて、人材の育成も急務」と付け加えた。

ダイセルの六田氏は、「研究機関は特定の分野に突出しているので、企業と大学間でお互いに補完しながら新しい価値をつくっていくこと」と指摘。その上で「手を挙げてくれるところと一緒にやろうというのでなく、積極的に一緒にやりませんか?と進める。それぞれにプレイヤーが役割をちゃんと果たして循環を回す。バトンは受け取りやすいようにする」と協働の大切さを口にした。

最後に山吹氏は、「エコシステムを構築していく上で、研究機関やパートナー企業と信頼関係をつくり、同じ志をもってバトンを渡していくことが重要だと分かった。パートナーシップでいろいろなことが成し得る」と締めくくった。 

箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。JFEJ(日本環境ジャーナリストの会)会員。

http://gogreen.hippy.jp/