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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

DE&Iをぶれずに推進していくために。大切にすべき「関係性の構築」とは

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SB国際会議2023東京・丸の内

Day1  ブレイクアウト

日本企業でも当然の価値観として広がりつつあるDE&I(多様性、公平・公正性、包摂性)。最近ではこれにB(Belonging、帰属意識)というワードも加わり、企業としても社会としても、一人ひとりの人間がそれぞれの個性を発揮できるよう、時には伴走し、背中を押すようなリレーション(関係性)の構築が求められる。暮らしも働き方も急速に変化するなかで組織としていちばん大切にすべき「人的資本」の根幹を巡って、グローバル企業の担当者や社会起業家らが意見を交わした。(眞崎裕史)

ファシリテーター
山岡仁美・サステナブル・ブランド国際会議 D&Iプロデューサー
パネリスト
朝山玉枝・イケア・ジャパン ピープル&カルチャー カントリーピープル&カルチャーマネジャー
河合将樹・UNERI 代表取締役CEO
武井浩三・社会システムデザイナー
山口有希子・パナソニック コネクト 執行役員 常務 CMO/デザイン部門担当役員/DEI担当役員/カルチャー&マインド推進室 室長

2022年は「人的資本経営元年」とも位置付けられた。初めにファシリテーターの山岡仁美氏は日本を取り巻く企業や社会、働き方の変化に触れ、「それぞれが個性を発揮してこそ、ヒューマン・キャピタル(人的資本)になっていくのではないか」と指摘。その上で、社内外でどのようなリレーション構築が重要かと投げかけ、セッションの口火を切った。

経済成長よりも助け合いが重要

武井氏

「上司、部下なし」の自律分散型組織を立ち上げるなど、約15年間にわたって「新しい経済と新しい社会をつくる」活動を実践する社会システムデザイナーの武井浩三氏は、リレーション構築のキーワードに「共感」を挙げた。人口減少社会では「経済成長」よりも「助け合い」が重要という観点から、代表取締役を務める非営利株式会社「eumo(ユーモ)」では、貨幣換算できない価値を資本とする「ギフトエコノミー」の構築に取り組み、例えば、自身が顧問として携わる養鶏場からは卵を、チョコレート会社からはチョコレートを現物報酬としてもらうなど、「お金がないと生きられない社会から人間性を取り戻す」ことに力を入れているという。

環境に対する配慮においてもやはり軸になるのは「共感」で、ケニアから取り寄せた薔薇を販売する店では、薔薇1本に対して5円の寄付を募り、そのお金で毎月30本の植林をケニアで行い、CO2排出量をオフセットしている。中には5000円の花束を買って、1万円を寄付してくれる人もあるなど、「そういう取り組みが共感を呼び、人の活動が動いていく」のを実感しているようだ。

健全なカルチャーがないと企業は正しく動かない

山口氏

日本を代表する大手企業であり、世界に3万人の従業員を有するパナソニック コネクトの山口有希子氏は、DE&Iを推進する理由を「人権のためだ」と端的に表し、「どんなに良い戦略や組織能力があったとしても、健全なカルチャーがないと企業は正しく動かない。働いている人たち一人ひとりを、違いを含めて大切にしないと企業は存続できない」と力説した。
具体的には、LGBTQの人たちへの支援策として、日本では「同性婚を実現させなければいけない」ということを明確に表明するなど、さまざまなアクションを通じて従業員の行動変容を促している。男性の育休取得も5、6年前には数%にとどまっていたのが、実施を強化したところ3年で96.6%になるなど、大きな手応えも感じている。

もっとも大企業であればあるほど企業風土の変革にはトップの考え方、リーダーシップが欠かせない。昭和の成長戦略が染み込んでいる世代に向けては、D&Iのトレーニングを通して気づきを促し、考え方や行動のアップデートにつなげることも。また、社員の状況を理解するためにも対話が必要で、「問題を放置しないカルチャー」の重要性を強調した。

一緒に働く仲間から刺激を受け、日々感動も

朝山氏

一方、スウェーデン発祥でサステナビリティ先進企業ともされるイケアの日本法人、イケア・ジャパンから登壇した朝山玉枝氏は、「イケアでは仕事をする時、みんなと過ごす時、連帯感や環境と社会への配慮など、本当に大事にしているバリュー(価値)が8つある。このバリューができているかをいつもいつも確認しながら進めている」と話し、「人の力を信じている」と強調した。

2014年には「同一労働同一賃金」の取り組みを開始し、その際に「平等な機会創出」と「多様な人材の受け入れと活用」、「長期的な関係構築の保障」の3つを柱に据えたことを説明。これがあることで「みんなが人として尊重され、そのなかで、さあ次に何をしようかなという前向きな気持ちで毎日が進んでいく」という。それぞれがライフステージやその時々の意思によって職場でのポジションを決める仕組みで、「スキルが高い人よりもバリューに共感できる人を採用している」のも特徴だ。

朝山氏自身、日本でのイケアの1号店ができてから約18年間勤めるなかで、「一緒に働く仲間から刺激を受け、感動して目頭が熱くなることも結構ある」と同じバリューを持つことの意味を熱弁。DE&Iの推進においては、各店舗でコワーカー(従業員)のファミリーデイを設け、家族を呼んで「イケア」を体験してもらう取り組みにも力を入れているという。

出会いをきっかけに成長する循環の仕組みを

河合氏

最後に登壇したUNERIの河合将樹氏は、社会起業家の支援を通したエコシステムづくりに奔走している。同社のミッションは「誰もが自分の道を歩めるような社会をつくっていきたい」。まだ20代で自身を「ぎりぎりZ世代」とする河合氏は活動にかける思いを「これからは共助によるビジネスモデルの必要性がめちゃくちゃ増す。つまり社会起業家の、民間起点で共助の仕組みをつくるプレイヤーの需要が高まるからだ」と話した。

起業家を支援する上で最も重要視しているのはソーシャル・キャピタル(社会関係資本)で、資金調達の直接的なサポートではなく、関係性を付与する「触媒機能」の役割に重点を置く。これは簡単に言うと、「出会いがきっかけになって成長していく。そんな循環の仕組みをつくること」であり、省庁や自治体と、起業家との間に同社が立ち、「それぞれの暗黙知を翻訳して関係性を紡いでいる」という。

人的資本を生かす上で、どのようなリレーション構築が必要かという問いに対して、河合氏は「会社組織は階層よりも波紋に近い」とする考えを述べ、「大きな会社ほど誰が意思決定しているのかが分からなくなることもあると思う。大事なのは、会社というキャンバスに誰が最初に水を落とすか。年齢や役職に関係なく、最初に水を落とした人をみんなでエンパワーメントしていく。一人一人が波紋を起こしていくことで、結果的に触媒が連鎖し、関係性が構築され、組織が良い方向へ変わっていくのでは」と展望を語った。

セッションは最後に「DE&Iの、そして人的資本経営の根幹になければならないのは何か」とする質問が投げられ、山口氏は「人に対する愛」、河合氏は「自分が本当にやりたいからやる、という人が増え続ける世の中になればいい」、朝山氏は「一人一人が尊重される会社でいたい」、武井氏は「地球とともに調和しながら生きる。自然の摂理に則って営む」と、それぞれに持論を披露。山岡氏が、「どんなに素晴らしいソリューションであっても、人のあり方で全く意味のないことになってしまう。人の集合体の社会や企業として、根幹をぶれずに推進していくことが重要だ」としめくくった。