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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

サステナビリティに向けて、イベント業界は大阪・関西万博から何を学ぶのか――Sustainable Event Professional Forum 2023

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SB国際会議2023東京・丸の内

2025年まであと2年。いよいよ大阪・関西万博開催の足音が聞こえてきた。「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げた大阪・関西万博は、2030年のSDGs達成とその先の未来社会を見据えて次世代イベントのロールモデルとなることを目指している。サステナブル・ブランド国際会議2023東京・丸の内(以下、SB国際会議)の特別プログラムで、MICE・イベント関係者向けに開催された「Sustainable Event Professional Forum 2023」では、サステナビリティに向けてイベント業界は大阪・関西万博から何を学び、どのような取り組みをするべきなのかを討論した。(安彦守人)

基調講演
永見靖・公益社団法人2025年日本国際博覧会協会 企画局 持続可能性 部長

永見氏

大阪・関西万博では、国主導ではなく現場の知恵に期待

大阪・関西万博のサステナビリティ施策の責任者で、2025年日本国際博覧会協会の永見靖氏が登壇し、「大阪・関西万博の概要と持続可能性に関する取組」と題して講演した。永見氏は、第1回の万博は1851年にパリで開催され、以降20世紀までの万博は、主に国威発揚と殖産興業が目的であったが、21世紀に入り、愛・地球博(2005年日本国際博覧会)からは「地球課題と人類社会の持続的な発展」がテーマになったと説明した。

来場者数に対しても考え方が変化しており、1970年に開催された日本万国博覧会(70年大阪万博)は6400万人もの来場者があったが、2025年の大阪・関西万博では大幅に少なくした2820万人を想定している。長時間の行列が名物ともなった70年大阪万博とは異なり、「適正入場者数による“待たない万博”を目指している」と永見氏は話した。

大阪・関西万博では、イベント運営における持続可能性をサポートするためのガイドライン「ISO20121」を採用し、サステナビリティに取り組むという。基本的に会場の電力はカーボンニュートラルにし、各パビリオンにも省エネ対策を依頼。万博終了後の会場は更地に戻すため、施設を形のあるレガシーとしては残せないが、「地域の事業者と連携して、マイボトル推進やサステナブルツアーの開催などを通じて無形レガシーを残したい」「施設解体後の建材は、売買できるプラットフォームを用意したい」などと永見氏は語った。

また、2020東京オリンピック・パラリンピックで起きた、違法伐採の木材使用や弁当の食品ロス、女性差別発言は、ケーススタディとして対策を練っているという。

最後に永見氏は、「ガイドラインに沿ってイベントを開催するのは国際的な流れであり、今回の万博を契機に民間でも活用していく道筋を作りたい」と表明。より実効的なCO2削減やリユースのための技術や工夫については、「国主導ではなく現場の知恵に期待している」と会場の参加者に協力を求めた。

SB2023東京・丸の内 サステナビリティ報告
白川陽一・博展 サステブル・ブランド事業部長 兼 サステナビリティ推進部長
(所属・役職は開催当時)

白川氏

イベントのサステナビリティの実装にはパートナーシップが重要

次に登壇した博展の白川陽一は、今年のSB国際会議のサステナビリティへの取り組みについて報告した。SB国際会議では、東京観光財団の「TOKYO MICEサステナビリティガイドライン」に沿って、持続可能なイベントの形を模索してきた。

前回2022年には50のチェックポイントのうち48項目をクリア。白川は、「定性的な知見は貯まってきた」とする一方、「サステナビリティの実装のためには、定量的な取り組みと成果が大事」と気を引き締める。イベント開催時のCO2排出量を取り組みの指標としているが、昨年は93トンのCO2をカーボンオフセットした。今年はそれを上回る約138トン(2022年開催実績)をグリーン電力購入によりニュートラルにできる見込みだと話した。

またCO2排出量の削減自体にも取り組んでおり、今回特に力を入れたのが、開催時におけるCO2排出量の25%を占める「来場者の移動・宿泊」への対策だ。来場者に対してマイボトル持参や公共交通機関の利用、カーボンオフセット旅行プランの活用などを呼びかけた。会場設備にもリユースやマテリアルリサイクルしやすい資材を用い、身近なところでは、入場者やスタッフのパスケースのストラップに年号と地名を入れないことで、再利用ができるようにした。

SB国際会議のイベント開催に関わっているサプライヤーに対しては、持続可能性に配慮した調達への協力を依頼しており、アンケートも実施した。その狙いは、一方的に協力を押し付けるのではなく「持続可能な調達に興味を持って欲しい」からだ。「当社だけがやっても仕方ない。各社が同じようにごみやCO2の排出量を可視化し、そのデータを通じてステークホルダーとコミュニケーションすれば、サステナビリティ実装や協創の方法が見えてくる」と白川は力を込めた。

JACE サステナビリティ委員会 活動紹介
越川延明・一般社団法人 日本イベント産業振興協会(JACE)サステナビリティ委員会 委員長

越川氏

業界のガイドラインを策定――JACE

続いて登壇した日本イベント産業振興協会(JACE)の越川延明氏は、今年度から同法人に新設されたサステナビリティ委員会の活動を紹介した。まずは現状把握のために会員企業へアンケートを行い、その結果「サステナビリティに関するクライアントからの要望が増えている」「会員企業の取り組むべき課題として廃棄物への関心がもっとも高い」ことなどがわかったという。

JACEに期待することとしては、「指針・指標、基準・ガイドラインの設定」が挙げられ、会場でも挙手で聞いたところ、同じ結果となった。これを受けて越川氏は「2023年度以降の施策として、業界全体の目標値やプランの設定、そしてガイドラインの作成等を行う」と力強く語った。

続いて、スマートフォンのアンケートアプリを活用して、「次世代イベントへの参加者ディスカッション」と題し、参加者と登壇者が議論を開始。「2025の大阪・関西万博ではどんなことが実現できたらよいか?」という質問に対し、参加者の回答が、アプリを通じて続々と会場のスクリーンに映し出された。「おばあちゃんと幼稚園生が一緒に楽しく回れる万博」という回答に永見氏は、「夏の開催で暑いこともあり、待たない万博を心がけたい。そのためには、入り口の荷物検査で高速かつ効率の良いX線検査の技術の登場が期待される」とコメントした。

また現場スタッフの労働環境の改善についての声も多く、永見氏は「こうした部分もサステナビリティを考える上では重要であり検討されている」と述べ、「大阪・関西万博をきっかけに、若い人に環境への興味を持って欲しい。それが、『いのち輝く未来社会のデザイン』という開催テーマに通じることだ」と締め括った。

フォーラムで設けられたネットワーキングの場で、談笑する参加者