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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

ESDがもたらす社会変容――SDGsとウェルビーイングは両立するか?

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SB国際会議2023東京・丸の内

(左下から時計回り) 髙木氏、柳瀬氏、髙橋氏、来海氏

Day2 ブレイクアウト

持続可能な開発SDGsとウェルビーイングは両立できるのだろうか。この難問を解く鍵と期待されるのが教育だ。2002年に我が国が提唱したESD(持続可能な開発のための教育)は、まさに教育版SDGsといえるものであり、第4期(2023~2027年度)からの教育振興基本計画にはウェルビーイングの一文が盛り込まれた。本セッションでは、学校教育や企業での社員教育など、さまざまなフィールドの教育の専門家たちが顔を揃え、変容の時代にある教育現場の最新事例を示しつつ、個人の成長と発展について議論した。(保科彩)

ファシリテーター
岡山慶子・朝日エル 会長
パネリスト
来海敬子・新日本科学SNBLアカデミー 参与
髙木富美子・認定NPO法人乳房健康研究会 事務局 専務理事
髙橋昌男・東京工科大学 工学部 応用科学科 教授
柳瀬順子・賢明女子学院中学校高等学校 加戸陸教育部 部長/燈台の光プロジェクト Be Leaders 主任

自分たちが動けば社会が変わる

初めに、「教師が変われば生徒が動く 生徒が動けば社会は変わる-対話形式の研修を通しての気づき-」と題して、賢明女子学院中学校高等学校の柳瀬順子氏が登壇。「ESDは教師が一方的に教え込むものではない。生徒が主体となって学ぶことに意義がある」と主張した。同校では、SDGs達成を目指し、約70人の生徒が有志で「Be Leaders」の活動をしているという。Be Leadersではこれまで、衣料品を難民へ届けるユニクロのプロジェクトに参加したり、海のごみを調査したり、地元の小学校にSDGsの出前授業を行ったりした。こうした活動は対話を通して、生徒たち自身が企画から実際の行動まで全て自分たちで決めている。

Be Leadersの活動から生徒たちが学んだのは、「自分たちが動けば社会が変わる」ということだったという。さらに、行動する生徒たちに接することで「教師たちも変容している」と柳瀬氏は話した。

違う立場の人間が関わり合うことで世界が広がる

認定NPO法人乳房健康研究会は、乳がんについての啓発活動をボランティアで行う「ピンクリボンアドバイザー」の認定制度を運営している。このピンクリボンアドバイザーに認定されたがん経験者が講師となって学校に赴き、子どもたちにがんの啓発教育を行っている。「欧米に比べて大幅に少ない、乳がん検診の受診率を上げること」が目的だと同NPOの髙木富美子氏は話す。

「受講した子どもたちの96%が『将来がん検診を受ける』と答えている」と髙木氏は続け、また講師自身も非常に生き生きとした表情をするようになり、授業後には「今日のために、がんになったかもしれない」と話す人もいたほどだという。髙木氏は「生徒は体験者の話を聞くことで違う見方ができるようになり、講師は教えることで自分の可能性を発見できる。違う立場の人間が関わり合うことで世界が広がる」と述べた。

東京工科大学の基本理念は、「持続可能な社会に貢献する人材を育成する」だ。2015年に、生活や社会の質の向上、経済的な繁栄を同時に実現し、工学的な観点から持続可能な発展に貢献する「サステイナブル工学」を設置した。持続可能な開発に必要な技術を自然科学に基づいて作り出し、製品の環境影響を分析するライフサイクルアセスメントを中心とした教育プログラムは、企業での就業体験などの実習を基本としている。

こうした実践的な学びは企業からの評価も高く、同工学部の就職率は全国8位であると髙橋昌男教授は胸を張った。髙橋氏は「持続可能な成長とは、持続可能な発展をするための教育を行い、その中で成長していくこと」と考えている。

医薬品開発受託などを事業とする新日本科学の来海敬子氏は、「企業の源泉は人材」と言い切る。同社では、特に女性活躍推進の取り組みを積極的に行っている。託児所を併設したり、現場の女性の声を吸い上げるための「働くなでしこ委員会」を発足。現在、女性従業員比率は51.2%、育休・産休取得率は男女とも100%となっているという。

社員教育の柱となるのが、2002年に発足した「SNBLアカデミー」だ。「環境、生命、人材を大切にする会社であり続ける」という理念の浸透と、行動変容を教育目標に掲げ、若手社員が課題を設定し問題を解決する「XUP活動」や、一日を振り返ることで気づく力を育む「4行日記」など、ユニークなカリキュラムが紹介された。

前に向かって行動すれば心が動き、心が動けば発展する

岡山氏

この後、ファシリテーターの岡山慶子氏は「成長と発展はウェルビーイングとどうつながるのだろうか」と登壇者に質問。これに対して柳瀬氏は、「人は失敗からの学びもある。前に向かって行動すれば心が動き、心が動けば発展する。それがウェルビーイングにつながるのでは」と応じた。また来海氏は、「新入社員に欲しいものを聞くと、最初は自分の欲望を挙げるが、やがて誰かの幸せを考えるようになる。成長と幸せはつながりがある」と述べた。

岡山氏は、セッションを通して、「SDGsとウェルビーイングの両立において、一番期待できるのは教育だと改めて実感した。教育者に課せられた問題は大きい」と、教育に携わる全ての人たちにエールを送った。