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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

ウェルビーイングを目指すニューノーマル時代の社会づくり~多様な関係者と事業を形成し、より良い社会をつくるには~

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第5回未来まちづくりフォーラム

(左から) 田口氏、髙津氏、酒井氏、山内氏、松田氏

コロナ禍を経てニューノーマル時代に突入した現在、個人が身体的、精神的、社会的に幸福感があり満たされている「ウェルビーイングな社会」の実現を目指す自治体や企業が注目されている。本セッションでは、「多様な関係者」と連携するコミュニティづくりや、各々が自分事として捉え行動することを促す「人財育成」をキーワードに、ウェルビーイングな社会の実現のためには何が必要なのかを探った。(保科彩)

ファシリテーター
田口真司・エコッツェリア協会(一般社団法人大丸有環境共生型まちづくり推進協会)事務局次長 SDGsビジネス・プロデューサー

パネリスト
山内智史・加賀市 最高デジタル責任者(CDO)
酒井香世子・損害保険ジャパン 取締役常務執行役員 CHRO CSuO
髙津尚子・日本製紙クレシア 営業推進本部 取締役 本部長
松田智生・三菱総合研究所 主席研究員 チーフプロデューサー
(※所属・役職はセッション開催時)

メーカーらしく具体的な物を通じて接点作る

まず、日本製紙クレシアの髙津尚子氏が、自社の取り組みについて説明。日本製紙グループの事業の柱は「再生可能な木材資源を余すところなく使うこと」だという。クレシアはグループ内で唯一、ティッシュペーパーやトイレットペーパーなどの消費財を製造している。髙津氏は、「そうした製品には牛乳パックから再生したパルプを使っている」と明かした。

だが、牛乳パックをはじめとする紙容器は、ペットボトルやアルミ缶などと比べて回収率が非常に低い。髙津氏は、「牛乳パックから良質なパルプを取り出して再利用できることを、消費者に向けてしっかり発信していきたい」とし、「リサイクルを軸にしたコミュニティづくりには、メーカーらしく具体的な物を通じて、さまざまな人と接点を作ることが大事だと考えている」と述べた。

関係性を構築するために人財育成が重要

損害保険ジャパンの酒井香世子氏は、保険業界のニューノーマルとして「自然災害の多発」を挙げた。毎年のように起こる自然災害によって、損害保険の支払いが急増しているという。酒井氏は、「防災・減災の取り組みにも力を入れていく必要がある」と強調し、その方法の一つとして、自治体や地域の企業と連携することを挙げた。

同社は2022年10月に、岡山NPOセンター、岡山交通と3者間包括連携協定を締結。災害時に社員が現地調査でタクシーを利用する際、空きスペースに岡山NPOセンターが用意した支援物資を積んで輸送することなど、速やかな災害支援を目指している。

酒井氏は「こうした関係性を構築するための人財育成こそが重要」だとし、育成の場であるオンライン社内研修システム「損保ジャパン大学」を紹介した。さらに副業制度も紹介し、「こうした仕組みを会社が作って、それに社員が参加することを称賛する企業文化の醸成が欠かせない」と述べた。

(左から) 山内氏、松田氏
(左から)髙津氏、酒井氏

企業が安心してビジネスできるエコシステムを

加賀市の山内智史氏は、消滅可能性都市に指定されている同市の人口減少に歯止めをかけるべく、スマートシティ化を推し進めていると説明。北陸三県で初の国家戦略特区である「デジタル田園健康特区」の取り組みを軸に、市と民間事業者が協力してさまざまな変革を試みている。また、「加賀市版web3都市構想」では、電子上の市民権を持ち、将来的な移住・定住の可能性がある「e-加賀市民」を100万人集めることを目標にしているという。

山内氏は、多様な関係者とスムーズに連携するには、「まず自治体が、企業と“売り手・買い手”という関係性で話すことを止めるべき」と話した。その上で「企業が安心してビジネスを展開できるエコシステムの構築が重要だ」とし、そのためには「首長などによるリーダーシップがポイントになる」と述べた。

ウェルビーイングを目指すコミュニティづくりの壁は、先入観や規制

三菱総合研究所の松田智生氏は、自身が提唱する「逆参勤交代」構想について説明した。逆参勤交代とは、都市生活者の地方への期間限定型滞在のこと。逆参勤交代者がリモートワークで仕事をしながら地域の課題解決に取り組むことで、働き方改革と地方創生の同時実現が可能だという。すでに日本各地で実証実験を行い、新規事業が生まれたり個人のライフスタイルに変化が現れたりしているが、「大きな社会的うねりとするには、大手町、丸の内、有楽町地区で働いている28万人のマス・ボリュームの労働者を動かすことが肝心だ」と語った。

さらに松田氏は、都市と地域のコミュニティづくりにおいて、「都市人財が地域に対して『こうすべきだ』というのではなく、『自分はこれができる』という自分主語で語り、お互いにリスペクトし合うことが大切」と方策を示した。「こうした人財育成の方向性は見えている。あとはやるだけ。壁となっている先入観や規制、しがらみをいかに壊すかが課題」だと力強く語った。

最後にファシリテーターの田口真司氏は、「ウェルビーイングな社会は、自分一人だけではつくれず、社会・地域・組織全体でつくらなければならない」としつつ、一方では、多彩な関係者ひとり一人が「自分事」として捉えられることが重要だとし、「その上で周りを巻き込み、化学反応を起こしていけばいい」と締めくくった。