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企業におけるサステナビリティの変遷とこれからの在り方

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SB国際会議2023東京・丸の内

Day1 ブレイクアウト

企業経営において、サステナビリティはもはや欠かすことのできない主要テーマだ。2015年にSDGsが策定されてから、その達成目標である2030年までの中間地点を迎えた今、今後のサステナビリティを巡る中心的課題はどのようなものになるのか。ポスト2030を見据え、必要なトランスフォーメーションとは何なのか。グローバル企業で長くサステナビリティ経営に携わるメンバーが議論を交わした。(眞崎裕史)

ファシリテーター
木村則昭・Nick's Chain代表
パネリスト
稲継明宏・ブリヂストン Gサステナビリティ統括部門 統括部門長
嘉納未來・ネスレ日本 執行役員 コーポレートアフェアーズ統括部 コーポレートアフェアーズ統括部長
増田典生・日立製作所 サステナビリティ推進本部 主管/一般社団法人ESG情報開示研究会 共同代表理事

セッションはまず、ファシリテーターの木村則昭氏が1999年に国連グローバルコンパクトが提唱され、2015年にはSDGsやパリ協定が策定されるなど、過去20年ほどの間に起こったサステナビリティを巡る世界の出来事を解説。これを踏まえ、パネリストが各社の取り組みの変遷を紹介した。

ブリヂストンは公害の防止から環境経営へ歩みを進め、2015年に環境とCSRを一体化。これ以降はCSRの活動を強化しながら、サステナビリティの基盤をつくり、2018年以降はサステナビリティを経営の中核に据えてきた。

ネスレは2006年に、社会課題を事業で解決していくCSV(共通価値創造)の考え方を、2016年には「食の持つ可能性を通じて、人々の健康、地球の健康を考えていこう」とするパーパスを明文化。ネットゼロ・カーボンやフォレストポジティブなどさまざまなロードマップを掲げる。

日立製作所は1970年の公害調査団の結成を起点に環境問題に取り組み、2013年にグループの人権方針を策定。2017年からはサステナビリティ戦略の構築を本格的に開始し、2019年から社会価値・環境価値・経済価値を重視する「トリプルボトムライン経営」を推進する。

木村氏

セッションは次に「今後」の話へと移り、まずは2050年をめどに、どういった課題がサステナビリティの中心になるか、が議題となった。
木村氏は、SDGsの目標年である2030年の後、必ず上がってくる『ポスト2030アジェンダ』とカーボンニュートラル、ネイチャーポジティブ、人権、サーキュラー・エコノミーの5つを示し、これらを「独立した課題のように見えるが、実は相関している」と指摘した上で、3氏の見解を聞いた。

稲継氏

ブリヂストンの稲継明宏氏は「より良い暮らしの実現」「地球との共生」という二つの見方に分け、後者についてはネットゼロではなくポジティブに変えていくために、リジェネレーション(再生)をキーワードに挙げた。
その上で製造業として「気候変動」「自然・生物多様性損失」「不平等・格差社会」の3つの領域がビジネス活動に密接に関わってくるとの認識を示し、「一つ一つの課題を見るのではなく、包括的にやっていくことが重要」と強調した。

嘉納氏

リジェネレーションに関しては、ネスレも重視している。その一例として嘉納未來氏は同社がグローバルにプロミス(約束)として掲げる「環境再生型の食料システムを大規模に推進する」を紹介。原材料となるコーヒーやカカオの農法を環境再生型へと変えるこの取り組みの中に、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミー、フォレストポジティブ、人権といった課題がすべて含まれており、これを進めることで「人々と自然、気候の3つにプラスの影響があり、それらはつながっていることを表している」と説明した。

増田氏

一方、日立製作所の増田典生氏はステークホルダー・エンゲージメントの観点から話を進め、サステナビリティの推進は短期的には財務インパクトに下方圧力がかかるとし、そこをどうクリアするかが重要と指摘した。
一つのアプローチとして「事業会社と投資家が共通の評価基準・価値観」で中長期にわたる環境・社会価値を創出する形を提起し、「奪い合う世界ではなく、シェアをして、よりグリーンでサステナブルな社会へ、地球市民としての価値観の共有を実効性を持って進めていくことが必要」と力説した。

セッションは続いて「社会や環境の再構築に成功するため、必要なトランスフォーメーションは何か」がテーマに。稲継氏は、トップの発信を機に社内が変わったと実感したという自身の体験も例に「考え方のトランスフォーメーション」を挙げ、「一人ひとりがサステナビリティの捉え方を変えると大きな変革につながる」と主張した。

考え方のトランスフォーメーションが重要となることについては3氏とも同じ意見で、嘉納氏は、例えばプラスチックもコミットメントの進捗状況をチェックするだけでは削減につながらず、「全く新しい買い物体験や消費スタイルに切り替えないと、トランスフォーメーションは起こらない」と訴えた。増田氏はマインドセットの変更を喚起するアプローチとして、業績評価制度の中に中長期的な視点を組み込むことを提起した。

最後は、企業でサステナビリティ推進に携わる若い世代へ、パネリストからメッセージが送られた。

「社会の変革の道筋が見える。これをいかにチャンスとして捉えるか。自分自身がものすごく成長できるフィールドだ」(稲継氏)、「先輩後輩もなく、みんなが一つの目標に向かって平等に取り組める」(嘉納氏)「理想を青く掲げながらも、戦略を立て、口説いて回れる、『青黒い人』になってほしい」(増田氏)

3氏の発言を受け、木村氏は「サステナビリティに取り組むことで、企業に対する信頼性や好感度、尊敬の念など、お金に勘定できない大きな価値を生む可能性がある」と話し、セッションを締めくくった。