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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

リジェネラティブな社会の構築へ、地域経済とグローバルの連携を

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SB国際会議2023東京・丸の内

Day2 ブレイクアウト

人類は地球の生物多様性の一部であり、最悪のシナリオを阻止するのではなく、最善のシナリオを実現するために、私たちは変わらなければいけない。地域単位でリジェネラティブな(再生可能な)都市や町、州、コミュニティの事例をつくり、それをどのように最大化・加速化させていくかが問われている。サンフランシスコ発のコンサルティング企業RegenIntel社のCEOで、SBグローバルから登壇したチャド・フリシュマン氏と、SB タイのカントリーディレクターであるシリクン ヌイ ローカイクン氏による対話を紹介する。(井上美羽)

ファシリテーター
足立直樹・SB国際会議サステナビリティ・プロデューサー
パネリスト
チャド・フリシュマン・RegenIntel CEO & Founder
シリクン ヌイ ローカイクン・Sustainable Brands Thailand カントリーディレクター

フリシュマン氏

フリシュマン氏は、2日目のプレナリーで「サステナビリティは、持続可能ではない」という強い言葉を用いて、今こそ人類が地球や暮らしの環境を再生(リジェネレーション)する形で社会を構築する「再生型経済」へと踏み込むことの重要性を主張。本セッションではそのためのテクノロジーやソリューションを「単に炭素排出量を削減したり、生態系を復元するというだけのものではない。一つ一つにさまざまな波及効果があり、木ではなく森を見る必要がある」と強調した。

その具体例としてフリシュマン氏は、南米チチカカ湖の、藁でできた浮島の上にある家に、太陽光パネルが設置されたことで、灯油を燃やさなくても良くなり、子どもたちが煙を吸い込むこともなくなったことを挙げた。またウガンダでは、電気バッテリーを搭載した自転車により移動の効率が上がり、その結果、仕事の選択肢が増えるといった社会的なメリットにつながっているという。

再生型の農業といったソリューションについて「何世代にもわたって行われてきたことであり、新たに発明する必要のないものばかりだ」と繰り返し説明するフリシュマン氏に対して、ファシリテーターを務めた足立直樹氏は、「どうすれば既知のソリューションをリジェネラティブなものにしていけるのか」と質問。

これに対し、フリシュマン氏は、「それぞれのソリューションが互いに合理的な形で導入されるよう、インクルージョンの考え方をもとにすべてをつなげなくてはいけない。ローカルコミュニティにおいても、地元の農業の人たちと協力をするときにはすべてのサプライチェーンの人たちがそのシステムに入っていることが重要だ」などと答えた。

タイでは「中庸をいく」を大切に

ローカイクン氏

セッションはここで、SBタイのローカイクン氏がマイクを握り、地球全体に再生型の経済を加速させていく上で、その第一歩となるローカルコミュニティの取り組みについて、タイの事例を報告した。
それによると、仏教の国であるタイでは、「中庸をいく」ことを大切にしている。中庸をいくには「貪欲ではなく、欲をコントロールする」ことが必要であり、ローカイクン氏はこうした考え方を「再生可能な未来を実現するための基礎となる」と捉える。

その上で、ローカイクン氏は、現在、タイで活躍している再生型経済のリーダーを次々と紹介。若い女性が故郷に戻って、ココナッツ農園を運営し、ココナッツのトップブランドを育てあげたり、エンジニア兼石油技術者の男性が、気候変動に配慮した有機農法のカカオの生産者として評価される農家となったり、マッシュルームの開発で有名な『アース・エンジニア』と呼ばれる男性は、食品分野のリーダーの1人として活躍するだけでなく、地域社会の人々に対するサポートも提供しているという。

足立氏から「地域を引っ張っていく存在になるためには何が最も重要か」と問われたローカイクン氏は、「マインドセットだ」ときっぱり答え、「正しいマインドセットがなければ、すべてが単なるプロジェクトベースになりかねない。大企業のCEOであれ、スタートアップの経営者であれ、マインドセットの転換がなければシステムの変革はできません」と続けた。

さらにローカイクン氏は、「ローカルで生産がなされたときには経済的なメリットがその場所に還元されなくてはいけない。再生型の将来のためには、ローカルエコノミーの構築が必須で、ローカルコミュニティをグローバル化のための工場として扱ってはならない」と強調。

これに対し、フリシュマン氏も「ローカルの方がグローバルよりも重要。ローカルでこそより影響をもたらすことができる。いま必要とされているのはグローバルとローカルを結びつけていくことだ」と応じ、世界各地のローカルコミュニティと手を取り合い、すべての世代の人たちが集まって知恵とソリューションを出し合うプロジェクトを進めていることを報告。リジェネラティブな世界経済の構築に向けて、システムシフトを起こすためには、ローカルとグローバルの連携が重要な鍵を握ることを確認し、セッションを終えた。

井上美羽 (いのうえ・みう)

埼玉と愛媛の2拠点生活を送るフリーライター。都会より田舎派。学生時代のオランダでの留学を経て環境とビジネスの両立の可能性を感じる。現在はサステイナブル・レストラン協会の活動に携わりながら、食を中心としたサステナブルな取り組みや人を発信している。