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2030年に向けたグリーントランスフォーメーション戦略、キーワードは「イノベーション」

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SB国際会議2023東京・丸の内

(左から)遠藤氏、上脇氏、吉川氏

Day2 ブレイクアウト

脱炭素社会の実現を目指し、再生可能エネルギーへの移行などさまざまな取り組みを通じ、経済社会システム全体を変革していこうとするグリーントランスフォーメーション(GX)への関心が高まっている。経済成長を維持しつつGXを推進するには、一体どのような戦略が必要になるのだろうか。先進的な取り組みを実践しているセールスフォース、積水化学、アシックスの3社と、事業変革を得意とするKPMGコンサルティングが登壇し、2030年に向けたGX戦略について話し合った。(岩﨑 唱)

ファシリテーター
小山嚴也・関東学院大学 学長・経営学部教授
パネリスト
足立桂輔・KPMGコンサルティング Sustainability Transformation リードパートナー
遠藤理恵・セールスフォース・ジャパン 執行役員 サステナビリティ&コーポレートリレーション
上脇 太・積水化学工業 代表取締役 専務執行役員
吉川美奈子・アシックス サステナビリティ統括部 統括部長

KPMGコンサルティングの足立桂輔氏は、コンサルタントの立場から、「企業はGXの重要性は認めているが、最終的に自社の競争力や成長の源泉にどう結びつくのか、確信を持てずにいる」と現状を分析。また、「サプライチェーン全体で排出されるGHGは、Scope 1、2まではある程度自社で取り組んでこられたが、自社以外のサプライチェーンで発生するScope 3となると、できることに限界がある」と指摘し、「自社のGX戦略の強さが問われている。最終的にはGXを成長戦略にどうつなげていくかが課題だ」と述べた。

イノベーションを促進させる支援を ―― セールスフォース

ビジネスを発展させるクラウド型ソフトウェアを提供しているセールスフォース・ジャパンは、環境データを収集・分析し、企業のGHG排出量削減に寄与するソリューション「Net Zero Cloud」を2022年にリリースした。さらに米国本社では、エコプレナーとカーボンクレジットの購入者である企業や団体を結びつけるプラットフォーム「Net Zero Marketplace」を開始するなど、GHG排出量削減を組み入れたサービスを展開している。

セールスフォース・ジャパンの遠藤理恵氏は、「当社には信頼、カスタマーサクセス、イノベーション、平等、サステナビリティの5つの重要な価値観があり、一人ひとりが日々の業務でサステナビリティを意識している。2021年9月には、バリューチェーン全体でのネットゼロと100%再生可能エネルギー化を達成した」と報告し、その経験を踏まえて他社のネットゼロ達成を支援していくという。

※ 環境に焦点を当て気候変動対策を推進しリードする、起業家

「サステナビリティ貢献製品」にシフト ―― 積水化学

積水化学グループは、「Vision 2030 Innovation for the Earth」を掲げ、「レジリエントなまちづくり」、「レジリエントなインフラ」、「ひとの健康を支える」、「通信・交通インフラの強靭化」の4つに注力し事業展開している。2019年に、生物多様性が保全された地球の実現を目指した「SEKISUI環境サステナブルビジョン2050」を発表。2050年から逆算して気候変動、資源環境、水リスクの3課題を解決するロードマップを策定した。

気候変動に関しては2050年に実質ゼロを、2030年には19年度比で50%削減を目指し、その変革を後押しするために、社会課題の解決、収益性、経営の持続性の3つの観点で審査する「サステナビリティ貢献製品」制度をスタートさせている。積水化学工業の上脇太氏は、「『サステナビリティ貢献製品』にポートフォリオをシフトしていくにはイノベーションが欠かせないが、イノベーションを加速するために28の技術プラットフォームを設置した。バランスのとれた製品を提供していくことで、リスクをチャンスに変えることができる」と主張した。

(左から)小山氏、足立氏、遠藤氏、上脇氏、吉川氏

ステークホルダーとの協働が重要 ―― アシックス

アシックスのCO2排出量削減の目標は、2050年にネットゼロ、2030年にScope1、2、3を合わせて2019年比で63%の削減を掲げている。同社の吉川美奈子氏は、「目標達成には自社の電気を再生エネルギー化することと、一次生産委託先工場でのエネルギー使用量を削減することが必要。さらにネットゼロを実現するにはステークホルダーとの協働なしでは実現が難しい」と話す。

材料調達と製造がCO2排出量の約70%を占める同社は、「グリーン調達方針」を設け、バリューチェーン上流でのCO2排出量削減に取り組んでいる。その中で、イノベーションによるCO2排出量削減にも注力していて、2022年9月にCO2排出量を1.95キログラムに抑えたスニーカー「GEL-LYTE Ⅲ CM 1.95」を発表した。また、同社はランニングシューズの90%にリサイクル材を使用するなど、さまざまな取り組みを行っている。吉川氏は「こうした取り組みをする上で、社員のエンゲージメントが重要になる。当社は、社員自らが業務の中でサステナビリティを実践することを目指している」と述べた。

イノベーションとサプライヤーとの信頼構築が必要

3社のプレゼンテーション聴いた足立氏は、「キーワードはイノベーション」だと話す。「登壇された皆さんがイノベーションを生み出す工夫をしている。ポイントは社員の意識をどう高めていくかだと思う。そこに現場での仕事のプロセスがかみ合っていくとイノベーションにつながっていくと感じる」と感想を述べた。

ファシリテーターを務めた関東学院大学の小山嚴也氏は、現場で取り組むプロセスについて質問。上脇氏は「製品の社会課題解決性を、開発段階でデザインレビューをしながら刷り込んでいくことが重要」、吉川氏は「現場が何をしたらいいかという疑問に対して、丁寧に説明していく」と答えた。小山氏が「そうしたプロセスをサポートするのがセールスフォースではないか」と述べると、遠藤氏は「企業が自社でデータを集め、可視化し決断するまで、時間をかける余裕はないかと思う。そのプロセスで、私たちテック企業が役に立つはず」と応じた。

また、足立氏はサプライヤーへのはたらきかけに難しさがあると指摘。吉川氏は「サプライヤーはそれぞれレベルが違い、こちらの影響力にも大小がある。まず優先的に取り組むのは、当社のシェアが大きいサプライヤーから。一方的に押すだけではなくお互い考えながら、相手から何が課題なのかを引き出せないと上手く行かない」。上脇氏は「共通のゴールに向かってモノをつくっていくパートナーとして位置づけることが必要」と話し、遠藤氏は「GXは長い時間軸で取り組む必要がある。パートナー企業ときちんと対話ができるかが、鍵ではないか」と話した。

岩﨑 唱 (いわさき・となお)

コピーライター、准木材コーディネーター
東京都豊島区生まれ、日本大学理工学部電気工学科卒。いくつかの広告代理店、広告制作会社で自動車、IT関連機器、通信事業者などの広告企画制作に携わり、1995年に独立しフリーランスに。「緑の雇用」事業の広告PRに携わったことを契機に森林、林業に関心を抱き、2011年から21018年まで森林整備のNPO活動にも参画。森林を健全にし、林業・木材業を持続産業化するには、木材のサプライチェーン(川上から川下まで)のコーディネイトが重要と考えている。