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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

長期的な企業価値向上へ 勇気を持って『インパクト可視化』を

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SB国際会議2023東京・丸の内

Day2 ブレイクアウト

ESGの観点から、環境価値と社会価値、経済価値を両立させる企業経営への転換が求められている。しかし、実際にSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)を進める上で、一つ一つの非財務目標に対する取組が長期的にどう企業価値と結びついていくのかが見えないと悩む経営者は少なくない。そこで大事なのが、さまざまな手法による『インパクトの可視化』であり、それらの数値や取り組みを透明性を持って公表し続けることだ。経営コンサルタント、IT企業、投資家の立場でこの分野を牽引するトップランナー3人がその現状と展望を語った。(依光隆明)

ファシリテーター
林素明・PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス パートナー
パネリスト
畠山大有・日本マイクロソフト カスタマーサクセス事業本部 シニア クラウド ソリューション アーキテクト
黄春梅 (ホァン チュンメイ)・新生企業投資 インパクト投資チーム マネージングディレクター / 新生インパクト投資 代表取締役

データはすべての事実を話す 公表することに価値

畠山氏

最先端のテクノロジーを実装するマイクロソフトから登壇した畠山大有氏は、最初に、2030年までに『カーボンネガティブ』と、水の使用量を削減する『ウォーターポジティブ』、そして『廃棄物ゼロ』と『エコシステムの構築』の4つを掲げる同社のコミットメントを紹介。「大事なのはそこに向かって動いているところであり、それを公表しているということにぜひ注目してほしい」と述べた。

なぜ公表することが大事か。それは「データに基づく、地に足のついた計測こそが現状理解・戦略作成・実行につながる」と考えるからだ。同社では上記4目標の進捗状況の数値を毎年細かく計測し、それらに関するアクションも含めて膨大な量にわたるレポートを作成・公表している。畠山氏はその一端を示しながら、「データはすべての事実を話す。それが分かってこそ次にどうするのかという議論になる」と続け、データを可視化した上でその情報を公開する、企業としての透明性に価値があることを強調した。

財務的リターンと、測定可能な社会インパクトを同時に生み出す

黄氏

次に登壇した黄春梅氏は上海の出身で、2005年からSBI新生銀行グループで未上場株式の投資事業に携わる。2017年には邦銀で初となるインパクト投資ファンドである『子育て支援ファンド』を、「同僚と一緒に女性社員の発案として」スタートさせた。そのきっかけは「日本は住みやすいが、子育てと仕事の両立は難しい。確実なニーズがあるのにそれに見合うサービスがない。投資会社として何かできることはないか」と考えたことだったという。

従来の投資がリスクとリターンの2軸を判断材料とするのに対し、黄氏はインパクト投資を、「財務的リターンと並行してポジティブで測定可能な社会的、環境的なインパクトを同時に生み出すことを意図する投資だ」と説明。国際的には10年前から推進され、日本でも岸田内閣の骨太方針に明記されるなど、最近になって大きな動きになっていることを解説した。

2019年に立ち上げた2号ファンドは、「働き続ける環境を整備するためには子育て、介護、新しい働き方、医療ヘルスケアが不可欠」であるという観点から、そうした分野の企業9社を支援している。黄氏は、インパクト投資の判断基準を「どんなインパクトが誰に対して、どのくらいあるか。大きさだけでなく影響の範囲や影響の深さ、期間の長さや、課題解決に対する貢献度などをみていく」と話し、IMM(インパクト測定・マネジメント)の実践を通して、投資先企業の事業成長と社会的価値創出に加え、組織戦略や営業戦略、資本調達など多くのアプローチができるとしめくくった。

『親亀』がこければ『子亀』も『孫亀』もこける経済の図式に

林氏

続いてファシリテーターの林素明氏が、グローバルに展開するコンサルタントの立場から、「なぜ今サステナビリティ経営が必要なのか」と題してプレゼンテーションを行った。
PwCでは企業にとっての環境価値を『親亀』、社会価値を『子亀』、経済価値を『孫亀』に例え、「もともとはそれぞれが独立したものと考えられていた3つの価値のバランスが大きく変わり、今は環境や社会が傷つくと経済活動の基盤が揺らぐ。つまり親亀がこければ子亀も孫亀もこけるような状況になっている」と解説する。

これを踏まえ、林氏は、「つまりは、その企業自身が自身の基盤である親亀を傷つけていることを把握し、短期では治せないので長期的視点に立ってそれを断ち切る戦略を立案して実行していくことが必要だ」と指摘。「そのためのフレームワークとなるのが、長期的な視点をもってバックキャスティングする『統合思考』だ」と強調した。
同社はこの統合思考経営のフレームワークに則り、企業の資金調達力や人材力、オペレーション力、原材料調達力といった、「未来の稼ぐ力」を可視化する過程を『インパクトパス』と位置づけ、重視している。

いろんなデータがあればストーリーになる

セッション後半のディスカッションでは、畠山氏が、「サステナビリティは、社員一人ひとりが意識して外部の人たちと一緒にやっていく必要がある」とした上で、「IT部門には、まさに経営を支えるようなデジタル施策を打ってほしい」とDXとSXを同時に行っていくことの重要性を強調。さらに、「カーボン排出量だけを議論しているのはもったいない。一つのKPIは複数の結果の効率化につながることを意識し、まさにその効果を定義し、計測していくことが大きなポイントだと思う」と提起した。

KPIについては黄氏も同じ意見で、「一つのKPIだけだと点だが、いろんなデータがあればストーリーになる。それぞれのデータがストーリーになって、点が線になって、面から立体になって。そうなると測定というよりも経営ツールとして捉えられ、活用の道も増える」と表現。インパクト可視化のロジックモデルを公開することは、「会社が何を目指しているのかをいま一度社内で共有するためにも有効だ」と呼びかけた。

「個人でも今年はこれをやるぞ、と周りに宣言すると力が入る。企業経営も同じで、中長期的に何を目指すべきかを議論し、できるところは定量化して線で結ぶ。それに対して何をするかを書き出し、勇気を持って公表する。これを継続していくことがまさにサステナビリティ活動ではないか」。最後は林氏がそんな言葉でインパクト可視化に向けてまずは一歩踏み出すことの重要性を総括し、セッションを終えた。