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第75回広告電通賞「SDGs特別賞」に見る、社会的インパクトを与える広告表現

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SB国際会議2023東京・丸の内

(左から)犬飼氏、金田氏、松中氏

Day2 ランチセッション

日本で最も歴史があるとされる総合広告賞の「広告電通賞」に「SDGs特別賞」が創設されたのは2020年の第73回。まだ3年目ではあるが、応募作品の内容に、大きな社会課題を扱ったものから身近な気づきを促すものへと変化が見られるのは、それだけ社会へのSDGsの浸透が速いからだろうか。2022年第75回の選考の中から浮かび上がってきた新たな傾向とキーワードについて、実際に選考に関わった選考委員3人と受賞者が議論した。

ファシリテーター
金田晃一・NTTデータ サステナビリティ経営推進部 シニア・スペシャリスト
パネリスト
犬飼律子・ツムラ コーポレート・コミュニケーション 室長
松中権・認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ 代表
米田惠美・米田公認会計士事務所 代表

2022年第75回広告電通賞の「SDGs特別賞」はツムラの『違いを知ることからはじめよう。#わたしの生理のかたち』が受賞した。広告制作のきっかけは、ツムラが行った健康に関する実態調査「#OneMoreChoice プロジェクト」だったと同社の犬飼律子氏は説明した。調査の結果では、8割の女性が心身の不調を我慢して仕事や家事を行う「隠れ我慢」をしていると判明。なかでも、生理や月経前症候群(PMS)に伴う症状を我慢している女性が多かったという。そうした結果から、「人それぞれ違う痛みの質や症状の重さを可視化することで、相互理解や対話の機会を作れるのではないか」というコンセプトのもと、広告が制作されたと述べた。

※ イライラ、眠気、集中力の低下、腹痛、頭痛などさまざまな症状がある。

『違いを知ることからはじめよう。#わたしの生理のかたち』は、女性タレントや一般女性が生理にまつわるそれぞれの症状や痛みなどについて、「鉛みたいな、中から下に押しつぶされている感じ」「モヤモヤっていうか、内面的なもの」などと語り合い、本人の写真とCGを組み合わせ、語った内容を表現したパネルを見て、自分自身だけでなく他者の痛みや不調をも認識していく、という内容だ。

作品が選ばれたポイントとして、NTTデータの金田晃一氏は「課題の可視化」「誠実さ・言行一致」「ビジネスとの関連性」の3つを挙げた。認定NPO法人グッド・エイジング・エールズの松中権氏は「『可視化』されることでタブーに切り込むきっかけが作られ、さらに生理・PMSという課題の先に『その女性はどういう風に困っているのか』というさらなる課題も見えてくる」と語った。

米田公認会計士事務所の米田惠美氏は、「言行一致」というキーワードに触れ、「この広告の一過性ではない点、企業の強みと掛け合わせて発信ができている点」を評価した。「ビジネスとの関連性」については、金田氏が、調査結果を広告のみにとどめず、企業研修などのビジネスにも展開していることを「まさにソーシャルインパクト。他の会社にもプラスになる」と称賛した。

とっつきやすく、ワクワク感があるものを

リモートで出演した米田氏

セッションの後半では、応募作品の中から「可視化」について特徴的な表現をしている作品が紹介された。

ミツカンの『B面レシピ』は、従来のレシピ表記でよく使われる分数表記に着目し、使わずに残ってしまった分の食材で作れるレシピを紹介し「数字での可視化」に成功している。Yahoo! JAPANの『SERCH HACK』は、SDGsが達成されなかった2100年の世界を体験できるという「未来の可視化」がテーマだ。コマツの『誰もが使える機械なら、誰もが働ける現場になる』は、ゲームコントローラで遠隔操作するショベルカーという「実物」で建設現場の未来を可視化した、シンプルでありながらインパクトのある作品だ。

松中氏は、応募作品全体を捉えて「3年前は大きな社会課題を扱う作品が多かったが、今年は身近なことに気づかせられる作品が多かった」と総評。米田氏は「行動変容につながるようなメッセージが込められた作品が増えてきた」と述べた。米田氏の言葉を受けて金田氏は、「広告を見た人が持続可能な社会に向けてどう動くか。行動変容を促すのが広告の機能だ」と力を込めた。

最後に、日本ハムの『シャウエッセン断髪式』の広告が紹介された。ウインナーソーセージ「シャウエッセン」のパッケージを巾着型から長方形に切り替えたことを周知する広告で、巾着部分を「力士のまげ」に見立て、ゆかりの人たちがはさみを入れていく「断髪式」として表現している。こうした「とっつきやすく」(松中氏)、「楽しさやワクワク感」(米田氏)がある広告こそが、今後の日本には求められるという。