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サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

消費者をサステナブルなライフスタイルへといざなう企業のコミュニケーション

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SB国際会議2023東京・丸の内

Day2 ブレイクアウト

地球規模のさまざまな社会課題の解決に向け、企業が、顧客である消費者に気づきを与え、行動変容を促すような商品やサービスをどうつくり、伝えていくかは重要なテーマだ。昨年11月に日本で初めて“実質CO2排出量ゼロ”の企画チャーター便を運航した日本航空と、『自然の中のもう一つの家』をコンセプトにサブスク制の別荘提供サービスを展開するSanuの実践を通して、人々のライフスタイルを少しでも環境に負荷をかけず、人権や資源循環にも配慮したサステナブルなものへと、企業が率先していざなっていくためのコミュニケーションのあり方を考える。(廣末智子)

ファシリテーター:
高島太士・Brands for Good+ コミュニケーションプロデューサー
パネリスト:
小川宣子・日本航空 ESG推進部 部長
本間貴裕・Sanuファンダー/ブランドディレクター
間宮孝治・PwCサステナビリティ合同会社 サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス マネージャー

JAL チャーター便で「実質CO2排出量ゼロフライト」を実現

最新鋭の省燃費機材に持続可能な代替航空燃料と呼ばれる新燃料「SAF」を搭載し、羽田〜沖縄の空を飛んだJALの企画便。『みんなで行こうサステナブルな未来へ』を合言葉に、実質CO2排出量ゼロを実現しただけでなく、原材料や調達に配慮した機内食の提供や紙コップの分別回収、乗務員による手話通訳の実施など、あらゆる手立てを通して搭乗者のサステナビリティに対する理解を深め、自分事として取り組んでもらうようアピールした。

小川氏

この便を企画した理由を小川宣子氏は「飛行機会社はCO2をたくさん排出しているという悪いイメージがある中で、そうではない、誇らしい旅を皆さまに提供したい、という思いからだった」と振り返る。「2030年に思いをはせ、その時、自分たちはどんなサービスができているだろう、どんな飛行機を飛ばせているだろうと考えて」、一つ一つ新しい旅の形を練り上げ、具現化したという。

大きな特徴は、カーボンクレジットの購入をはじめ、空港までは公共交通機関を使い、機内食も要らない場合は事前にキャンセルを、手荷物もできるだけ少なくしてもらうなど、乗客にさまざまな協力を呼びかけたこと。すべてはCO2排出量削減につながり、『みんなで行こう』の合言葉通り、サステナブルな未来をともにつくりだすためだ。

Sanu 「自然の中に『自分の家』を」月額サブスク制で提供

本間氏

一方、八ヶ岳や白樺湖など首都圏から1〜3時間程度で行ける場所に、三角形の外観が印象的なキャビンを50棟展開するSanuの本間貴裕氏は、月額55000 円のサブスク制のサービスの利点を、「登録すればその日から自分の家のように使え、ホテルと別荘の中間のような感覚で、いつでも繰り返し行ける。自分の家が自然の中に広がっていくイメージだ」と説明する。

自然の中に『家』を持つことで、否が応でも人々の自然を守ることへの意識は高まる。「自分の家の庭にペットボトルが落ちていたら、庭の木に元気がなかったら、『なんでだろう』と考えるでしょう」。その延長線上で、「地球全体を自分の家のように思ってもらえれば」というのが、「自然と共に生きる。」をミッションとするSanuの、そして本間氏の願いだ。

キャビンには1棟当たり約150本、 樹齢50〜70年のスギの間伐材を使用。“高齢化”でCO2の吸収率も低い木の炭素を建築物として固定化する一方、岩手・釜石の森林組合と連携し、本間氏も含め30人ほどの社員が植林をすることで、1棟つくるごとにCO2排出量の削減につながる建築を実現した。さらには釘やボンドを一切使わず、仮にキャビンを使われなくなった場合は「バラして再度どこかに作り直す」ことも可能だという。

従業員と顧客の対話ほど強いコミュニケーションはない

間宮氏

2氏のプレゼンテーションを受け、PwCサステナビリティ合同会社の間宮孝治氏は経営コンサルタントの視点から、企業にとって初めはコスト高であっても巡り巡って自社の財務に返ってくる“インパクトパス”の考え方を紹介。

JALが実施した企画便について、「将来、サステナブルフライト市場ができあがったとき、先行者としてプレミアを持つ。燃料調達の面でも確実に優位に立てる」とする見方を示した。

PwC Japanグループの調査では、価格の高さと利用のしにくさが日本の消費者のサステナブルな商品の購入を阻んでいる、とする結果が出ている。この観点から、間宮氏は、Sanuのサービスではサブスク制が消費者を引きつけるポイントであり、本間氏に「55000円という価格を消費者にどのように説明しているのか」と質問。

これに対し、本間氏は、「キャビンを石油由来素材にボンドと釘でつくったら半分の価格にできるだろうが、それをしては意味がない。しかし、消費者に『サステナビリティを追求しているから高くなります、ごめんなさい』と言うのはナンセンスで、それでは説得できない」とした上で、「Sanuがあったから、子どもが森を好きになった、というように、唯一無二の世界観をブランドの価値としてつくりあげたい」と強調した。

高島氏

2社の共通点として間宮氏は、「空間的にも時間的にも消費者にサステナビリティに思いをはせやすい時間を提供している」と指摘。小川氏が「お客さまの声にも勇気をいただき、スタッフの心構えも変わった」と話すと、間宮氏も「従業員と顧客との対話ほど強いコミュニケーションはない」とうなずいた。

消費者をサステナブルな行動へと促す鍵については、ファシリテーターを務めた高島太士氏も「体験したことを誰かに話したくなるところまでしっかりと取り組めるかどうか。そして、自分たちがつくったものをスタッフやサプライヤーに地道に丁寧に届けることがブランドコミュニケーションの第一歩だ」と話し、セッションをしめくくった。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年10月からSustainable Brands Japan 編集局デスク 兼 記者に。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。